147話 落ちこぼれエリス
数日後。
キラたちは、ついにマニル王国へと到着した。
街の中には、様々な種族が暮らしている。
エルフが歩き、ドワーフが店を構え、獣人が荷物を運んでいる。
少し離れた場所では竜人が話をしており、水路の向こうには人魚の姿も見える。
「……すごい」
レティシアが周囲を見渡す。
「本当に色んな種族がいるんだな」
「これがマニルです」
ホーメルが答える。
しかし――
街の雰囲気はどこか重かった。
種族同士が距離を取っている。
以前なら普通に会話していた者たちが、互いを警戒している。
「……本当に、国の中で争いが起きてるんだな」
キラが呟く。
エリスは黙って街を見つめていた。
懐かしい故郷。
それなのに――
以前とは全く違う。
「まずはエルフの長に会いに行きましょう」
ホーメルが言った。
「サーベン様なら、今のマニルについて詳しくご存じです」
一行はエルフの居住区へ向かった。
---
しばらく歩いた先。
巨大な木々に囲まれた場所に、一際大きな屋敷があった。
ホーメルが扉を開く。
「サーベン様。エリス様をお連れしました」
「……入れ」
中から、落ち着いた声が返ってきた。
一行が部屋へ入る。
そこにいたのは、一人のエルフだった。
長い年月を生きてきたことを感じさせる雰囲気。
しかし、その瞳には強い意志が宿っている。
「久しいな……エリス」
エリスが立ち止まる。
「……おじいちゃん」
キラたちが驚く。
「おじいちゃん!?」
サーベンは静かに頷いた。
「そうだ」
そしてキラたちを見る。
「私はサーベン。エルフ族の長であり――」
少し間を置いて。
「このマニルを治める者でもある」
「つまり……国王みたいなもの?」
レティシアが尋ねる。
「ああ」
サーベンは頷いた。
「マニルには各種族の長がいる。その中で、国全体をまとめる役目を担っているのが私だ」
キラはエリスを見る。
「じゃあエリスは……」
サーベンが答える。
「私の孫だ」
「そして――」
サーベンはエリスを見つめる。
「私はかつて、エリスを次期国王にしたいと思っていた」
「……え?」
エリスが驚く。
「私を……?」
「ああ」
サーベンの声には迷いがなかった。
「お前には、それだけの力があった」
「でも……」
エリスは俯く。
「私は……落ちこぼれって……」
その言葉に、サーベンは目を閉じた。
「それには理由がある」
「エリス」
サーベンはゆっくりと話し始めた。
「お前は、生まれた時から莫大な魔力を持っていた」
「……!」
「それは、通常のエルフとは比べものにならないほどの量だった」
キラが驚く。
「そんなに……?」
「ああ」
しかし――
サーベンの表情が険しくなる。
「問題は、あの時その魔力を制御できなかったことだ」
エリスが小さく震える。
「……あの時?」
「そうだ」
サーベンは頷く。
「幼いお前は、自分の魔力を制御できなかった」
「一度、大規模な魔力暴走を起こした」
「そして――」
「エルフの村を破壊しかけた」
エリスは俯いた。
「……」
「私の魔力が……止まらなくなって……この街を……」
「そうだ」
サーベンは続ける。
「幸い、各族長が力を合わせて、お前の魔力を抑制することができた」
「その結果――」
サーベンはエリスの身体を見つめた。
「お前の莫大な魔力には、強力な抑制がかけられた」
エリスは自分の手を見る。
「だから……」
「そうだ」
サーベンが答える。
「お前は、本来の魔力をほとんど使えなくなった」
「……」
「弓を扱うにも、魔力が必要だった」
「エルフの弓術は、ただ弓を引いて矢を放つだけではない。魔力を矢に込め、身体能力を高め、感覚を研ぎ澄ませる」
「だが、お前はその魔力を大きく制限されていた」
キラが納得する。
「だから……戦闘では苦労していたのか」
エリスは頷く。
「うん……」
「どれだけ練習しても、みんなについていけなかった」
「だから私は……」
「落ちこぼれと呼ばれていた」
部屋が静かになる。
サーベンは首を横に振った。
「違う」
「お前は落ちこぼれではない」
「ただ――」
「力を封じられていただけだ」
エリスが顔を上げる。
「……私が?」
「ああ」
サーベンは微笑んだ。
「そして今のお前なら、その封印を解放できる可能性がある」
「!」
キラも驚く。
「本当に?」
「以前のお前なら無理だっただろう」
「だが――」
サーベンはエリスを見る。
「長い修行を経た今のお前なら話は別だ」
「魔力操作の技術が、以前とは比べものにならないほど成長している」
エリスは自分の手を見つめる。
「……確かに」
これまでの旅を思い出す。
ウィンドステップ。
オール・ブースト。
そして――
アルテミス・レイン。
以前なら扱えなかった技術を、今では自在に操れる。
サーベンは続ける。
「封印を解放すれば、お前は本来持っていた莫大な魔力を取り戻せる」
「そして――」
「エリス本来の力を手に入れることができる」
エリスの瞳が揺れる。
「……私の、本当の力」
「そうだ」
しかしサーベンの表情は再び険しくなった。
「だが、一つ問題がある」
「問題?」
「お前の封印は、私一人では解けない」
「各族長の力によって施された封印だからだ」
キラが尋ねる。
「つまり……」
「全ての族長の同意が必要になる」
サーベンは答えた。
「そして今のマニルでは――」
「各種族が争っている」
エリスの表情が曇る。
「……」
「封印を完全に解放するためには、全族長と和解しなければならない」
サーベンは静かに告げた。
「エリス」
「お前自身の力を取り戻したいのなら――」
「まず、この国で争っている全ての種族と向き合わなければならない」
エリスはしばらく黙っていた。
やがて――
ゆっくりと顔を上げる。
「……分かった」
その目には、決意が宿っていた。
「私の故郷を取り戻す」
「みんながまた一緒に暮らせる国にする」
キラが笑う。
「それなら、俺たちも手伝う」
レティシアも頷いた。
「当然でしょ」
セリーナも微笑む。
「私たちは仲間ですから」
エリスは三人を見る。
「……ありがとう」
そしてキラたちは知る。
エリスが今まで「落ちこぼれ」と呼ばれていた理由。
それは才能がなかったからではない。
むしろ――
あまりにも大きすぎる才能を持っていたからだった。
しかし、その力を取り戻すためには――
マニルを分断している全ての種族と、向き合わなければならない。
そしてその争いの裏には――
一体、誰がいるのか。
キラたちの新たな戦いが始まろうとしていた。
第147話 終




