144話 オギデストラのSランク冒険者
「これで……終わらせる!」
キラが魔力を集める。
ブラッティフェンリルは全身から黒い魔力を噴き出しながら、最後の突進態勢に入っていた。
「グオオオオオオオオオッ!!」
「来る!」
レティシアが双剣を構える。
エリスも矢をつがえる。
そのとき――
「おーい。ちょっと待ってくれない?」
場違いなほど気の抜けた声が響いた。
「……?」
キラたちが振り返る。
そこには三人の男女が立っていた。
一人は、眠そうな目をした男。
その周囲には数体の魔獣が従っている。
「俺たちも混ぜてよ。せっかくここまで来たんだし」
男は面倒くさそうに手を上げた。
ガルディオが驚く。
「お前たちは……!」
「オギデストラ王国のSランク冒険者だぜ」
別の男が豪快に笑う。
長い槍を肩に担いでいる。
「ブラッティフェンリルを相手に四人だけじゃキツいだろ? 俺たちも手ぇ貸してやるぜ!」
その隣では、赤い髪の少女が杖を振り回していた。
「ちょっとフォン! 勝手に話を進めないでよ!」
「別にいいだろ!」
「よくないってば!」
キラは三人を見る。
「あなたたちは……?」
眠そうな男が答えた。
「俺はアニー。魔獣召喚士」
槍を持った男が続く。
「俺はフォン! 槍使いだ!」
最後に少女が元気よく名乗る。
「私はコニス! 赤魔道士よ!」
ガルディオが説明する。
「この三人はオギデストラでも名の知れたSランク冒険者だ」
キラは頷いた。
「……心強いです」
アニーが欠伸をする。
「まあ、Sランクなんて名乗ってるけど……そんな大したもんじゃないよ」
「おいアニー! お前がそれ言うな!」
フォンが突っ込む。
「ま、よろしくね!」
コニスが笑った。
その直後。
「グオオオオオオッ!!」
ブラッティフェンリルが吠える。
フォンが槍を構えた。
「へっ! 話は後だ!」
アニーも魔獣たちへ指示を出す。
「じゃ、行ってきて」
召喚された巨大な魔獣が一斉に走り出す。
「グルァッ!」
ブラッティフェンリルと魔獣たちが激突する。
その隙に――
「オラァァァッ!!」
フォンが突っ込む。
「せいやあっ!」
槍がブラッティフェンリルの前脚を弾き、そのまま身体を薙ぎ払う。
「グルァッ!」
「まだまだぁ!」
フォンが連続で槍を繰り出す。
一撃。
二撃。
三撃。
ブラッティフェンリルが爪を振る。
「そんなもん当たるかよ!」
フォンは身体を捻って避け、槍を地面に突き立てて跳躍する。
「喰らいやがれぇぇぇっ!!」
上空から槍を振り下ろす。
ドガァン!!
ブラッティフェンリルの身体が地面へ叩きつけられた。
「今よ!」
コニスが杖を掲げる。
「燃えちゃえ!」
巨大な炎が渦を巻く。
「フレイム・バーストォ!」
轟音とともに炎が直撃。
「グオオオオオッ!!」
しかし、ブラッティフェンリルは炎を振り払う。
「まだ倒れない!?」
コニスが目を丸くする。
アニーが気の抜けた声を出した。
「まあ、Sランクだしねぇ……」
「呑気に言ってる場合か!」
フォンが叫ぶ。
「じゃあ……もう一匹出すか」
アニーが指を鳴らす。
今度は巨大な四足獣が現れた。
「お願いね」
魔獣がブラッティフェンリルへ飛びかかる。
「今だ!」
キラが動く。
「レティシア!」
「任せて!」
レティシアが走る。
「双牙連閃!」
左右から斬撃を叩き込む。
エリスも続く。
「アルテミス・レイン!」
無数の矢が降り注ぐ。
キラはその間を駆け抜ける。
剣を振るいながら、魔力を展開。
「テンペスト・ゼロ!」
巨大な風圧がブラッティフェンリルを押し返す。
「グルァァァッ!」
「まだ!」
キラは地面へ手を向ける。
「テラ・ボルテックス!」
大地と雷が渦となり、ブラッティフェンリルの巨体を拘束する。
そこへ――
「オラァ!」
フォンの槍。
「燃えろー!」
コニスの炎。
「……はい、これで最後」
アニーの魔獣が突進する。
そして。
「セレスティアル・レイ!」
キラの光がブラッティフェンリルを貫いた。
「グ……オ……」
巨体が揺れる。
それでも立ち上がろうとする。
キラは剣を握り直した。
「……まだ終わってない」
黒い魔力が再び集まろうとする。
「だったら――」
キラは光と闇。
二つの魔力を重ねる。
「ルミナ・エクリプス!」
光と闇が一つになり、巨大な奔流となってブラッティフェンリルを包み込む。
「グオオオオオオオオオオッ!!」
断末魔。
そして――
ズゥゥゥン……。
ブラッティフェンリルの巨体が地面へ倒れた。
静寂。
誰も動かない。
やがてフォンが槍を担いだ。
「……やったな!」
コニスが飛び跳ねる。
「勝ったぁ!」
アニーは欠伸をした。
「終わった……。疲れたなぁ」
レティシアが苦笑する。
「あなた、本当にSランク冒険者なの?」
「まあね」
「威厳がないわ……」
エリスも小さく笑った。
「でも、助かりました」
「お互い様だよ」
アニーは軽く手を振った。
しかし――
キラは笑っていなかった。
「……みんな」
全員がキラを見る。
キラは谷の奥を見つめていた。
「まだ黒い魔力が残ってる」
セリーナも感じ取る。
「……はい」
ガルディオが頷く。
「調査団が確認した反応も、さらに奥からだった」
フォンが槍を構える。
「なら行くしかねぇだろ!」
コニスが続く。
「もちろん!」
アニーは少し面倒そうにしながらも歩き出す。
「まあ……ここまで来たんだしね」
こうして一行は、ブラッティフェンリルが守っていた谷の奥へ進んだ。
しばらく歩くと――
巨大な洞窟が現れた。
「……ここか」
キラが呟く。
洞窟の中から、とてつもない魔力が漏れ出している。
全員が警戒しながら進む。
そして――
洞窟の最奥。
そこには、一人の男が立っていた。
赤黒い髪。
鋭い目。
全身から凄まじい魔力を放っている。
男はゆっくりとこちらを振り返った。
「……来たか」
キラが剣を構える。
「誰だ……?」
男は口元を吊り上げる。
「俺か?」
一歩、前へ出る。
その瞬間――
大地が震えた。
「俺は――」
圧倒的な殺気が周囲を包み込む。
「魔境三大天が一人」
アニーの表情から、初めて気の抜けた雰囲気が消えた。
フォンも槍を握り直す。
コニスも息を呑む。
男は名乗った。
「激昂のアンデルフォン」
魔境三大天。
その一人が――
キラたちの前に姿を現した。
第144話 終




