139話 無双
王都を出発して数日。
キラたちは、隣国――オギデストラへ到着した。
しかし、国境へ近づくにつれて、その異様な光景が見えてきた。
「……ひどい」
エリスが呟く。
城壁にはいくつもの傷跡が残り、門の周辺には負傷した兵士たちが行き交っている。
以前なら人の往来で賑わっていたはずの街道も、今は避難してきた人々の姿が目立っていた。
「止まれ!」
門を守る騎士が槍を構える。
「何者だ!」
キラが一歩前へ出る。
「王都アークから来た冒険者です。オギデストラの魔物討伐に協力するために来ました」
「冒険者証を」
「はい」
キラは冒険者証を取り出した。
レティシア、エリス、セリーナも続いて提示する。
騎士は四人の証を確認する。
そして――
「……Aランク?」
騎士の顔が驚きに変わった。
「四人とも……?」
「セリーナは冒険者ではありません」
キラが補足する。
「俺たち三人がAランクです」
「なるほど……」
騎士は驚きながらも、すぐに門を開けた。
「入ってくれ! 今は一人でも多くの戦力が必要だ!」
「ありがとうございます」
四人はオギデストラへ入った。
――――――――――
城壁の内側。
そこには、緊張した空気が漂っていた。
騎士たちが武器を整え、冒険者たちも集められている。
「こちらです!」
案内された先には、オギデストラ騎士団の本部があった。
その奥。
「お前たちがアークから来た冒険者か」
大柄な男が立っていた。
鎧には多くの傷。
その目には疲労が浮かんでいる。
「私はオギデストラ騎士団長、ガルディオだ」
「キラです」
キラが頭を下げる。
「レティシア」
「エリスです」
「セリーナと申します」
四人が名乗る。
騎士団長ガルディオは、キラたちを見つめた。
「Aランク冒険者が三人……助かる」
「現在の状況を教えてください」
レティシアが尋ねる。
「ああ」
ガルディオは地図を広げた。
「現在、魔物は三方向から攻めてきている」
「三方向……」
「西側から大量の群れ。北側には大型魔物。そして東側からも別の群れが進んでいる」
ガルディオが指を動かす。
「騎士団は西と北を中心に防衛する」
「東側は?」
「冒険者たちに任せる予定だ」
「戦力は足りていますか?」
エリスが聞く。
「正直に言えば――足りない」
ガルディオは苦々しく答えた。
「これまで何度も撃退してきた。だが、魔物の数が減らない」
キラは地図を見る。
「魔物の発生源は?」
「まだ分かっていない」
「……」
「ただ一つ分かっていることがある」
ガルディオの表情が険しくなる。
「奴らの一部から、黒い魔力が確認されている」
キラたちは顔を見合わせた。
「やはり……」
キラが呟く。
その時だった。
――ドォォォォン!!
突然、外から爆発音が響いた。
「なっ!?」
ガルディオが立ち上がる。
「何だ!?」
次の瞬間。
「魔物です!!」
騎士が駆け込んできた。
「西門に大量の魔物が出現! すでに城壁へ接近しています!」
「こんなに早く……!」
ガルディオが剣を取る。
「全騎士を西門へ!」
「待ってください」
キラが立ち上がった。
「俺たちが行きます」
「何?」
「四人で?」
ガルディオが驚く。
「はい」
レティシアが二本の剣を抜く。
「問題ありません」
エリスも弓を構える。
「数なら、こっちにも手があります」
セリーナは杖を握った。
「負傷者が出たら、私が治療します」
「……分かった」
ガルディオは一瞬迷った。
だが、すぐに頷いた。
「頼む!」
――――――――――
西門。
そこには――
大量の魔物が押し寄せていた。
ゴブリン。
オーク。
ブラックウルフ。
大型のボア。
さらに黒い魔力を纏った魔物まで混じっている。
「……多いね」
エリスが呟く。
「数百……いや、もっといる」
レティシアが剣を構える。
「どうする?」
キラは前方を見る。
そして――
「全部、ここで止める」
「了解」
エリスが弓を引く。
「じゃあ、まず道を作りますね」
矢が放たれる。
「アルテミス・レイン!」
空から無数の矢が降り注ぐ。
ドドドドドッ!!
魔物の群れが次々と倒れていく。
「すごい……」
城壁の騎士たちが息を呑む。
しかし。
「まだ来る!」
エリスが叫ぶ。
「なら――」
レティシアが駆け出した。
「私の番!」
一気に群れの中へ飛び込む。
「双月斬!」
左右の剣が弧を描く。
一体。
二体。
三体。
さらに迫る魔物の攻撃を紙一重でかわす。
「遅い!」
身体を捻り、背後から迫ったオークの腕を切り落とす。
「双牙連閃!!」
連続する斬撃が群れを切り裂いていく。
「レティシア!」
キラが叫ぶ。
「分かってる!」
レティシアが後退した瞬間。
キラが前へ出た。
「ここからは俺だ」
右手に魔力。
左手には剣。
「ルミナ・アポカリプス」
巨大な炎が一直線に放たれる。
だが、ただの炎ではない。
光――ルミナを混ぜた創造魔法。
黒い魔力を纏った魔物たちが、炎に触れた瞬間に黒い力を失っていく。
「グォォォッ!!」
群れが崩れる。
しかし、大型の魔物が炎を突き抜けてくる。
「キラ!」
「任せろ!」
キラは剣を構えた。
魔物の爪が振り下ろされる。
ガキィィン!!
剣で受ける。
そのまま力を流して横へ逸らす。
「――そこだ!」
一閃。
巨大な魔物が倒れる。
「すごい……」
騎士たちは完全に言葉を失っていた。
「たった三人の冒険者で……」
「いや」
一人の騎士が呟く。
「四人だ」
後方ではセリーナが負傷者の治療を続けている。
「大丈夫です。傷は治ります」
「ありがとう……!」
セリーナの回復魔法によって、負傷した騎士たちが次々と立ち上がる。
「これなら……まだ戦える!」
そして――
最後の魔物が倒れた。
静寂。
西門の前に広がっていた大量の魔物は、すべて撃退されていた。
キラは剣を鞘へ戻す。
「終わったな」
レティシアが息を吐く。
「思ったより多かった」
エリスが周囲を見る。
「でも、これで全部?」
「……いや」
キラは遠くを見つめる。
「違う」
「え?」
「これは――ただの一部だ」
キラには分かっていた。
この数の魔物。
黒い魔力。
そして、魔境からの進出を狙うエリオス。
「本当の戦いは、まだ始まったばかりだ」
その言葉に、レオンから聞いた話が脳裏をよぎる。
魔境。
この世界と繋がる、もう一つの世界。
そして、そこからこちらの世界へ進出しようとしている者たち。
キラはオギデストラの外を見つめた。
「……エリオス」
白銀の髪と赤い瞳の青年。
その目的は、確実に動き始めている。
第139話 終




