14話 魔力感知
森の奥で巨大な魔物を見た翌日。
俺は朝から冒険者ギルドに来ていた。
昨日の報告を受けて、ギルドが森の異変について本格的な調査を始めることになったらしい。
いつもなら朝のギルドは、それなりに騒がしい。
依頼を探す冒険者。
受付に報告をする冒険者。
これから街の外へ向かう冒険者。
そんな人たちの声が飛び交っている。
でも今日は違った。
「……人、多くない?」
俺は入口で立ち止まった。
ギルドの中には、普段見ないような冒険者が何人もいる。
鎧を着た大柄な男。
弓を背負った女性。
杖を持った魔法使い。
さらに、受付の前には見覚えのない冒険者たちが集まっている。
「昨日の件で呼ばれた連中だろうな」
隣にいる父さんが言った。
「昨日の?」
「森の奥にいる魔物の話だ」
俺は少し緊張した。
昨日見た巨大な影。
あれを調査するために、これだけの冒険者が集まったらしい。
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調査隊
「お待ちしていました」
受付嬢が俺たちのところへやってくる。
「昨日の報告を受け、ギルドで緊急の調査隊を編成しました」
「どれくらいの人数で行くんですか?」
父さんが聞く。
「八名です」
「八人……」
「はい。森の奥まで進み、魔物の種類、数、魔力反応を確認します」
受付嬢が説明する。
「ただし、対象の魔物を発見した場合は――」
「戦わずに撤退」
父さんが答える。
「その通りです」
俺は少し安心した。
昨日のあれと戦うつもりなら、かなり危険だ。
でも。
「キラ君にも参加してもらいたい」
「俺が?」
「はい」
思わず聞き返した。
「昨日の報告によれば、あなたの《構造解析》は普通の魔法では確認できない魔力まで確認できるようです」
「……」
確かにそうだ。
昨日、俺は黒い魔力の存在を確認できた。
普通の人には見えないものらしい。
「危険じゃないですか?」
父さんが聞く。
「ですから、キラ君には戦闘をしてもらう予定はありません」
受付嬢は俺を見る。
「魔力の観測役です」
「観測……」
「異常を感じたら、すぐに知らせてもらう。それだけです」
俺は少し考えた。
そして。
「分かりました」
答えた。
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調査隊の仲間
受付嬢が、集まっていた冒険者たちを紹介していく。
「こちらが今回の調査隊です」
最初に紹介されたのは、大柄な男。
「ガルド。前衛を担当します」
身長は俺の倍くらいある。
大きな斧を背負っている。
「よろしくな、坊主」
「よろしくお願いします」
「……敬語なんていらねぇよ」
豪快に笑う。
「ただし、危なくなったら俺の後ろから出るなよ」
「分かった」
次は弓を持った女性。
「ミレア。索敵を担当します」
長い茶色の髪。
腰には短剣もある。
「森の中では私が先頭を歩く。魔物の気配があれば知らせるわ」
「よろしくお願いします」
「よろしくね、キラ」
その次は魔法使い。
「アルノ。魔法による観測と支援を担当する」
細身の男性。
眼鏡をかけている。
「君が例の無詠唱魔法の子か」
「……はい」
「無詠唱?」
ガルドが驚く。
「この子、無詠唱で魔法を使えるのか?」
父さんが答える。
「そうらしい」
「らしいって……」
俺は少し困った。
無詠唱魔法は、まだ自分でもよく分かっていない。
でも。
この世界では、魔法を使うときに詠唱するのが普通だ。
俺だけが詠唱を必要としない。
それを知られると面倒なことになるかもしれない。
俺はアルノを見る。
彼は興味深そうに俺を見ている。
「あとで少し話を聞かせてもらってもいいか?」
「……いいですけど」
「ありがとう」
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森へ
準備を終えた俺たちは、街を出た。
八人の冒険者が森へ向かって歩く。
俺は父さんの隣。
前方にはミレア。
そのさらに前にガルド。
後方には魔法使いのアルノ。
役割分担がしっかりしている。
昨日とは全然違う。
昨日は父さんと俺だけだった。
今日は、それぞれの専門家がいる。
「こういうのが冒険者なんだな」
俺が呟くと、父さんが笑った。
「少しは分かってきたか?」
「うん」
冒険者は、一人で強ければいいわけじゃない。
探索。
戦闘。
魔法。
索敵。
それぞれの能力を組み合わせて生き残る。
それが冒険者なんだ。
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森の異変
森に入ってしばらくすると。
ミレアが手を上げた。
「止まって」
全員が止まる。
「前方に魔物」
「何匹だ?」
「三……いや、五」
ガルドが斧を構える。
俺も短剣を握る。
茂みから出てきたのは、ウルフだった。
五匹。
だが。
「……おかしい」
俺は目を細める。
ウルフたちの身体に黒い魔力がまとわりついている。
「全部、黒い魔力を持っています」
「本当か?」
アルノが聞く。
「はい」
「普通の魔力反応では?」
「違います」
俺は《構造解析》を使う。
【対象:ウルフ】
【構造解析】
【魔力異常を確認】
【未知の魔力構造】
「やっぱり……」
俺は一歩下がった。
「普通のウルフじゃない」
その瞬間。
ウルフが飛びかかってきた。
「来るぞ!」
ガルドが前へ出る。
「おおおっ!」
斧が横薙ぎに振られる。
ドンッ!
一匹が吹き飛ぶ。
残り四匹が左右へ散った。
「速い!」
ミレアの矢が飛ぶ。
ヒュッ!
矢が一匹の脚に刺さる。
だが。
ウルフは止まらない。
「おかしい!」
ミレアが叫ぶ。
「痛みを感じてない!」
俺はウルフを見る。
確かにそうだ。
普通の魔物なら、傷を負えば動きが鈍る。
しかし黒い魔力を持つウルフは違う。
身体が傷ついているのに、動きが変わらない。
「父さん!」
「任せろ!」
剣が閃く。
一匹を斬り伏せる。
俺は別の一匹へ手を向けた。
「《風》」
詠唱はしない。
風の塊が生まれ、ウルフの身体を横から吹き飛ばす。
「無詠唱……」
アルノが呟く。
俺は気にしている余裕がない。
「まだ二匹!」
残ったウルフが同時に飛びかかってくる。
俺は地面へ手を向ける。
「《重力》」
ドンッ!
空中にいた二匹の身体が地面へ叩きつけられる。
ガルドが止めを刺す。
「終わったか?」
「……はい」
俺はウルフの死体を見る。
黒い魔力が、少しずつ消えていく。
そして。
俺の《構造解析》が反応した。
【異常魔力の一部を解析】
【情報更新】
【魔力源:不明】
【方向:森深部】
「……やっぱり」
黒い魔力は森の奥から来ている。
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さらに奥へ
俺たちは慎重に進んだ。
森が深くなるにつれて、空気が変わっていく。
木々が密集し、日差しが届かない。
昼なのに薄暗い。
「ここから先は危険度が上がる」
ミレアが言う。
「魔物の気配も増えている」
俺は周囲を見た。
確かに。
黒い魔力が濃い。
でも。
魔物の数は増えていない。
むしろ。
「……逃げてる」
魔物のほとんどが森の外へ向かっている。
「これだけ魔力が濃いのに、魔物がいない」
アルノが呟く。
「普通じゃないな」
そのとき。
俺の足元に黒い線が見えた。
「……これ」
地面に細い亀裂。
その中から黒い魔力が漏れている。
「全員、止まってください」
俺が言った。
「何?」
ミレアが振り返る。
「地面の下に何かあります」
《構造解析》を使う。
土。
岩。
根。
さらに深く。
地下へ。
そこに――。
巨大な空洞。
「……地下に空間がある」
「洞窟か?」
ガルドが聞く。
「違う」
俺は首を振る。
「人工的です」
「人工?」
全員の表情が変わる。
地下には何かが作られている。
そして、その中心から黒い魔力が流れ出している。
「遺跡……?」
アルノが呟いた。
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調査の限界
さらに調べようとした瞬間。
俺の頭に強烈な痛みが走った。
「っ……!」
視界が揺れる。
「キラ!」
父さんが支える。
「大丈夫……」
だが。
ステータスが警告を出している。
【構造解析限界】
【これ以上の解析は危険です】
俺は歯を食いしばる。
まだ見たい。
もっと知りたい。
でも。
ここで無理をしたら、昨日と同じようになる。
「……戻りましょう」
俺は言った。
「本当にいいのか?」
「はい」
父さんが頷く。
「それが正しい」
俺たちは森を引き返す。
その途中。
俺は一度だけ森の奥を振り返った。
何も見えない。
でも。
確かに感じる。
何かがいる。
そして。
地下には何かが眠っている。
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ギルドへの報告
街へ戻ると、ギルドは騒然となった。
「地下に遺跡?」
受付嬢が驚く。
「はい」
アルノが説明する。
「古いものだと思われます」
「黒い魔力も、その遺跡から?」
「おそらく」
俺は地図を広げる。
「この辺りです」
森の奥。
街からそれほど離れていない。
受付嬢の顔が曇る。
「……近すぎます」
「そうだな」
父さんも険しい顔をする。
「もし地下の魔力が森の魔物に影響しているなら――」
「街にも影響する可能性があります」
誰も言葉を続けなかった。
静かな空気が流れる。
そして。
ギルドマスターが呼ばれることになった。
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夜
その日の夜。
俺はベッドに横になっていた。
今日は疲れた。
身体よりも、頭が疲れている。
地下の遺跡。
黒い魔力。
巨大な魔物。
そして、昨日見た巨大な核。
「全部……つながってる」
俺は呟く。
そのとき。
ステータスが突然表示された。
【条件達成】
【構造解析:一定回数使用】
【新スキルを獲得しました】
俺は目を見開く。
【魔力感知】
「……!」
新しいスキル。
目を閉じても、周囲の魔力を感じられるようになる。
俺は試してみる。
部屋の中。
父さん。
母さん。
家の中にある魔道具。
それぞれの魔力が、ぼんやりと分かる。
「すごい……」
だが。
その中に一つ。
異質なものがあった。
街の外。
森の方向。
黒い魔力。
しかも昨日より濃い。
「……なんで?」
俺は窓へ駆け寄る。
遠くの森を見る。
何も見えない。
それでも。
魔力だけは感じる。
森の奥から。
街へ向かって。
少しずつ。
少しずつ。
黒い魔力が流れてきている。
「……まずい」
俺は呟いた。
まだ誰も知らない。
ギルドも。
父さんも。
街の人たちも。
そして俺自身も。
このときはまだ知らなかった。
森の異変が――
やがて街そのものを巻き込むことになるとは。




