137話 エリオスの目的
エルディアに戻ってきて数日。
キラたちは、ギルドから受けた調査依頼を進めていた。
目的は、エルディア周辺で頻発している黒い魔力を持った魔物の発生原因を探ること。
「北側には何もないね」
エリスが周囲を見渡す。
「魔力の痕跡も薄いです」
セリーナも周辺を確認する。
「東側はどうだ?」
レティシアが尋ねる。
「少しだけ残ってる」
エリスが地面を指差した。
「こっち」
四人はその痕跡を追っていった。
黒い魔力の痕跡は、森の奥へ。
さらに進むと――
「……洞窟?」
目の前に、大きな洞窟が現れた。
入り口には、黒く染まった岩がいくつも転がっている。
キラが目を細める。
「間違いない」
「黒い魔力?」
「ああ」
キラは剣に手を添えた。
「この奥に何かいる」
四人は洞窟へ入っていく。
しばらく進むと、空気が一気に重くなった。
「……!」
セリーナが立ち止まる。
「この魔力……」
「かなり濃い」
キラも感じ取っていた。
そして――
ドォォォン!!
洞窟の奥から、巨大な音が響いた。
「来る!」
レティシアが二本の剣を抜く。
次の瞬間。
巨大な腕が壁を破壊して現れた。
「なっ……!」
エリスが目を見開く。
現れたのは、常識外れの大きさをした魔物だった。
体長は十メートルを遥かに超えている。
そして――
六本の腕。
頭には巨大な二本の角。
全身は黒い魔力に覆われ、赤黒い瞳が四人を睨みつけている。
「バカでかい……!」
レティシアが後ろへ跳ぶ。
魔物が六本の腕を振り下ろした。
ドガァァァン!!
地面が大きく陥没する。
「速い!」
キラが横へ飛ぶ。
巨大な腕が地面をえぐる。
「レティシア!」
「分かってる!」
レティシアが一気に踏み込む。
二本の剣が閃く。
「双牙連閃!」
六本の腕のうち一本を斬り裂く。
だが――
「硬い!」
傷は浅い。
魔物が残った腕を一斉に振るう。
「危ない!」
エリスが叫ぶ。
キラは魔法を展開する。
「ルミナ・アポカリプス!」
光を纏った炎が魔物を包み込む。
ゴォォォォォッ!!
巨大な炎が洞窟を照らす。
だが魔物は炎の中から姿を現した。
「まだ動くか!」
キラが驚く。
「キラ!」
レティシアが叫ぶ。
「任せろ!」
キラは剣を抜いた。
魔法だけではない。
身体強化を一気に高める。
「行くぞ!」
地面を蹴る。
一瞬で魔物の懐へ入り込む。
六本の腕が迫る。
右。
左。
上。
さらに背後から一本。
キラは剣で受け流し、身体を捻る。
そして――
「ここだ!」
一閃。
巨大な腕を一本斬り落とす。
「グォォォォォォ!!」
魔物が咆哮する。
「エリス!」
「任せて!」
エリスが弓を引き絞る。
「アルテミス・レイン――ゼロ!」
無数の矢が一点へ集中する。
魔物の胸部を貫く。
そこへレティシアが飛び込んだ。
「終わり!」
「無影連斬!!」
連続する斬撃。
そして――
キラが最後の一撃を放つ。
「ルミナ・エクリプス!」
光と闇が重なった魔力が、魔物の中心を撃ち抜いた。
ズドォォォォン!!
巨大な身体が崩れ落ちる。
しばらくして――
魔物から漏れていた黒い魔力が、ゆっくりと消えていった。
「……終わった?」
エリスが呟く。
セリーナが魔力を確認する。
「はい……黒い魔力の反応が、急速に弱くなっています」
「周辺は?」
「……ありません」
「本当に?」
「はい」
セリーナは頷いた。
「この魔物が、黒い魔力を持つ魔物を生み出していた……あるいは、呼び寄せていた可能性があります」
キラは魔物の死体を見つめる。
「つまり……」
「これで黒い魔物の発生は止まるかもしれない」
レティシアが言った。
だがキラは、洞窟の奥を見ていた。
「……いや」
「キラ?」
「まだ終わってない」
魔物の奥。
そこに、小さな黒い結晶が置かれていた。
キラが近づく。
結晶に触れた瞬間――
声が響いた。
『……やはり、こちらの世界の人間は強いな』
「!」
キラが振り返る。
しかし誰もいない。
声だけが残されていた。
『こいつを倒すとは……予想以上だ』
「エリオス……!」
キラが叫ぶ。
結晶の中に、映像が浮かび上がる。
そこに映ったのは――
白銀の髪。
そして――
赤い瞳。
若い青年だった。
「……誰だ?」
レティシアが尋ねる。
キラは答えられない。
青年は静かに口を開いた。
『俺の名はエリオス』
「……!」
『黒い魔力の一団は、こちらの世界を手に入れるために動いている』
キラたちは息を呑む。
『俺たちは――魔境の人間だ』
「魔境……?」
映像のエリオスが続ける。
『この世界と魔境は、別の世界だ』
『だが、完全に切り離されているわけではない』
『遥か昔から、二つの世界は繋がっている』
キラは黙って聞いていた。
『遠い昔――この世界と魔境の間で、大きな争いが起きた』
『そして、その戦いに勝ったのは……お前たちの世界だった』
セリーナが驚く。
「そんな歴史……聞いたことがありません」
『当然だ』
エリオスは淡々と言う。
『こちらの世界では、その歴史はほとんど失われている』
『だが、魔境では違う』
映像のエリオスの目が鋭くなる。
『敗北した魔境では、その後長い間、内乱が続いた』
『力を失った者たち。
復讐を望む者たち。
この世界との再戦を望む者たち――』
『そして今、その時が来た』
キラの表情が険しくなる。
「お前たちは……魔境からこちらへ来るつもりなのか」
エリオスは答えた。
『そうだ』
『黒い魔力の一団の目的は――』
一瞬、映像が途切れる。
そして最後に。
『魔境から、この世界へ進出すること』
「……!」
キラたちは言葉を失った。
ルナとリナ。
黒と光。
エリオス。
そして魔境。
すべてが一本の線で繋がり始めていた。
『だが、まだ扉は完全には開かない』
エリオスが最後に言う。
『だからこそ――準備が必要なんだ』
映像が消える。
洞窟に静寂が戻った。
「……魔境」
レティシアが呟く。
「別の世界……」
エリスも珍しく言葉を失っていた。
セリーナは青ざめた顔で言う。
「もし、本当に大規模な進出を考えているのなら……」
キラは黙っていた。
そして、ふとルナの姿を思い出す。
黒の力を持つ少女。
そしてリナ。
光の力を持つ少女。
エリオスは二人を一つにしようとしていた。
その理由も――
まだ分からない。
「……父さんに報告しよう」
キラが言う。
「それだけじゃない」
レティシアが続ける。
「ギルドにも?」
「ああ」
キラは洞窟の奥を見つめる。
「魔境という世界が存在すること」
「そして――」
キラは拳を握る。
「そこから、この世界へ来ようとしている奴らがいること」
その事実を胸に刻む。
今回の依頼は、黒い魔物の原因を調べるだけだった。
しかし、彼らが見つけたのは――
二つの世界を巻き込む、遥か昔から続く因縁だった。
そしてエリオスは、まだ何かを隠している。
ルナとリナを一つにする理由も。
その先に待つものも。
まだ誰にも分からない。
第137話 終




