135話 父との再会
エルディアへ帰ってきて数日。
俺たちは久しぶりの故郷で、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
トーマたちとのクエスト。
レオンとの模擬戦。
昔の仲間たちとの再会。
十年という長い時間が空いていたとは思えないほど、懐かしい日々だった。
そして今日は――。
「キラ」
父親から呼ばれていた。
「……行ってくる」
俺はレティシア、エリス、セリーナと別れ、一人で屋敷へ向かった。
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エルディアの中心部。
昔から変わらない大きな屋敷。
俺の実家だ。
父親は貴族でもあり、この街を治める立場にある。
門をくぐる。
使用人たちが俺を見る。
「お帰りなさいませ、キラ様」
「久しぶり」
「本当に立派になられましたね」
そんな声を聞きながら、俺は父親のいる部屋へ向かった。
扉をノックする。
「入れ」
「失礼するよ」
扉を開ける。
そこには――。
十年ぶりに見る父親がいた。
「……キラ」
「久しぶり、父さん」
父親はしばらく俺を見る。
そして、静かに笑った。
「本当に大きくなったな」
「十年だからね」
「そうだな」
父親は立ち上がり、俺の肩に手を置く。
「よく帰ってきた」
「うん」
短い言葉。
けれど、それだけで十分だった。
俺も笑った。
「ただいま」
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しばらく昔の話をした。
旅の話。
王都での冒険。
Aランクになったこと。
千剣龍を討伐したこと。
父親は驚きながらも、どこか嬉しそうだった。
「Aランクか……」
「うん」
「十年前に家を出た時のお前からは、想像もできないな」
「俺もそう思うよ」
二人で笑う。
しかし――。
父親の表情が少し変わった。
「……だが」
「?」
「今日は、それだけのために呼んだわけではない」
俺は姿勢を正した。
「地下のこと?」
「ああ」
父親は頷いた。
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「先に言っておく」
父親は落ち着いた声で話す。
「今のところ、大きな問題ではない」
「……大したことはない?」
「ああ」
俺は少し意外に思った。
手紙には異変が確認されたと書かれていた。
もっと深刻なものだと思っていた。
「では、何が起きているの?」
「魔物だ」
「魔物?」
「ああ」
父親は机の上に数枚の資料を置いた。
そこには魔物の目撃記録が書かれていた。
「ここ最近、エルディア周辺で――」
父親が一枚の紙を指差す。
「黒い魔力を持った魔物が頻繁に出現するようになった」
「黒い魔力……」
俺の表情が変わる。
「そうだ」
父親は頷く。
「最初は小型の魔物ばかりだった」
「だが?」
「最近になって、少しずつ強くなってきている」
資料には魔物の種類と討伐記録が並んでいた。
「レオンたちが中心になって、街の冒険者たちで対応している」
「だから最近、レオンたちは忙しかったのか」
「ああ」
父親は頷く。
「幸い、今まで街に大きな被害はない」
「それなら……」
「問題はここからだ」
父親が別の資料を出す。
「最近、これまで見たことのないほど強力な魔物が現れ始めた」
俺は資料を見る。
「……B級クラス」
「そうだ」
「今までとは明らかに違う」
「その通りだ」
父親の表情が険しくなる。
「レオンたちが守ってくれている。だから今のところ大きな被害は出ていない」
「でも、このまま強くなっていったら……」
「ああ」
父親は静かに頷いた。
「街だけでは対応できなくなる可能性がある」
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俺はしばらく資料を眺めた。
「……地下の黒い魔力が原因?」
父親はすぐには答えなかった。
「可能性はある」
「でも、以前の事件では……」
「ああ」
父親が頷く。
「十年前の暴走事件の後、地下の調査は何度も行われた」
「その結果は?」
「黒い魔力は――」
父親が一度言葉を切る。
「ほとんど残っていない」
「……ほとんど?」
「微量な反応は確認される。だが、以前のような強大な魔力はない」
俺は考える。
「それなら、魔物が黒い魔力を持つ理由は?」
「それが分からない」
父親は首を横に振った。
「地下の黒い魔力が原因だと思っていた」
「でも……」
「魔力そのものは、ほぼ消えている」
「なのに黒い魔力を持った魔物が増えている」
「ああ」
父親は深く息を吐いた。
「だからこそ、別の原因があるのではないかと考えている」
部屋が静かになる。
「地下だけを調べても答えが出ないかもしれない」
「……つまり」
俺は資料を見つめる。
「エルディア周辺全体を調査する必要がある」
「その通りだ」
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「そこで、お前に頼みたい」
父親が俺を見る。
「調査?」
「ああ」
「俺たちだけで?」
「いや」
父親は首を横に振った。
「レオンたちにも協力してもらう」
「なるほど」
「それと――」
父親が少し考える。
「お前が連れてきた仲間たちにも話をしておくといい」
レティシア。
エリス。
そしてセリーナ。
俺は頷いた。
「分かった」
「ただし、無理はするな」
父親の声が少しだけ強くなる。
「今回の問題は、今すぐ街を脅かすようなものではない」
「うん」
「原因が分からないからこそ慎重に調べる」
「分かった」
俺は立ち上がった。
「みんなに話してくる」
「ああ」
父親が笑う。
「久しぶりに帰ってきたばかりなのに、仕事を頼んですまないな」
「気にしないで」
俺は扉へ向かう。
そして振り返った。
「それに――」
「?」
「父さんが困ってるなら、手伝うよ」
父親は少し驚いた顔をして――。
「……そうか」
静かに笑った。
「頼もしくなったな」
俺も笑った。
「十年分だからね」
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屋敷を出る。
空を見上げる。
青い空。
穏やかなエルディアの街。
今のところ、大きな異変は起きていない。
それでも――。
黒い魔力を持つ魔物。
そして、少しずつ強くなっている魔物たち。
地下の黒い魔力は、ほとんど残っていない。
ならば、何が原因なのか。
「……調べるしかないな」
俺は仲間たちの待つ場所へ向かって歩き出した。
十年ぶりに帰ってきた故郷で――。
俺たちは、新たな調査を始めることになった。
第135話 終




