133話 千剣龍―ソードドラゴン―
ここからは青年編です。
12歳で旅立ち 15歳で修行に入り、
それから7年後22歳となったキラ達の物語が始まります。
王都。
冒険者ギルドの掲示板に、普段とは明らかに違う緊張感が漂っていた。
「……緊急討伐依頼?」
受付嬢が掲示板に張り出された依頼書を見つめる。
その内容は――
【緊急討伐依頼】
対象:千剣龍
危険度:S級
討伐推奨:Aランク以上
「千剣龍……?」
周囲の冒険者たちがざわめく。
「S級って……」
「そんな魔物が王都近郊に出たのか!?」
「まずいぞ。伝説のパーティも今はいないんだろ?」
現在、王都を拠点としている有力パーティの多くは、別の高難度クエストへ出ていた。
当然、あの三人も――。
「剣聖アシュレインたちも不在……」
「弓王リゼッタも大賢者リリーもいない」
「じゃあ、誰が討伐するんだよ!?」
ギルド内に不安が広がる。
逃げようとするもの
泣きそうなもの
悔しがるもの
その時だった。
ギルドの扉が開いた。
「ただいまー」
「戻ったよー!」
「……疲れた」
三人の冒険者が入ってくる。
キラ。
レティシア。
エリス。
7年前姿を消した三人だった。
だが、ギルド内の異様な空気に気づく。
キラが掲示板を見る。
「……千剣龍?」
レティシアの表情が変わった。
「まさか……」
エリスも目を細める。
「この名前……」
三人の脳裏に、7年前の記憶が蘇った。
巨大な翼。
鋭い牙。
そして――。
無数の剣を思わせる刃のような鱗。
「……あいつだ」
キラが呟いた。
7年前。
まだ幼かった三人が、全力で挑み――敗北した魔物。
千剣龍。
「資料を確認しました」
受付嬢が震える声で言う。
「過去の記録では危険度が不明とされていましたが……今回、王都の調査隊が正式に判定しました」
そして依頼書を指差す。
「S級魔物です」
「S級……」
レティシアが剣の柄に手を添える。
「7年前のあいつが……」
キラは静かに笑った。
「ちょうどいい」
「キラ?」
「7年前、俺たちは勝てなかった」
その目には、恐怖ではなく確かな自信があった。
「今なら……どこまで届いたのか分かる」
「行くの?」
エリスが弓を背負い直す。
「もちろん」
レティシアも頷いた。
「今度こそ、私たちの力を見せる」
---
王都から少し離れた荒野。
地面が揺れる。
ドォォォン!!
「来るぞ!」
レティシアが双剣を抜く。
次の瞬間。
巨大な影が空から落ちてきた。
ズガァァァン!!
土煙の向こうから現れたのは――。
巨大なドラゴン。
身体中に、まるで剣を束ねたような鋭い鱗が並んでいる。
「グォォォォォォッ!!」
咆哮。
7年前なら、それだけで身体が震えていた。
だが。
「……懐かしいな」
キラが剣を抜く。
「キラ、左」
「分かってる!」
千剣龍が突進する。
巨大な爪が振り下ろされた。
ギィィン!!
レティシアが双剣を交差させて受け流す。
「――遅い!」
身体を滑らせるようにして攻撃を回避。
そのまま懐へ潜り込む。
「双牙連閃!」
二本の剣が連続して閃く。
ガガガガッ!!
千剣龍の鱗を斬り裂く。
「グォッ!?」
7年前には傷一つ付けられなかった身体に、深い傷が走った。
「効いてる!」
エリスが後方から矢を放つ。
「ウィンドステップ!」
一瞬で位置を変える。
さらに――。
「オール・ブースト!」
全身の能力が引き上げられる。
「――アルテミス・レイン!」
無数の矢が空を埋め尽くした。
ドドドドドッ!!
千剣龍が翼を広げる。
周囲の鱗が飛び出した。
まるで無数の剣。
「来るよ!」
「任せろ!」
キラが前へ出る。
右手に剣。
左手に魔力。
「――風」
足元から風が爆発する。
「――雷」
紫電が剣へ走る。
そして――。
「創造する」
複数の属性が一つに重なる。
その中心には、黒い力を打ち消すための光――ルミナ。
「――ルミナ・エクリプス」
轟ッ!!
光と闇が混ざり合った魔力が、巨大な刃となる。
キラはそれを剣に纏わせた。
「行くぞ!」
一閃。
ズバァァァン!!
千剣龍の巨大な身体に、一直線の斬撃が走った。
「グ……ォォ……」
巨体が揺れる。
そして――倒れた。
ドォォォン!!
静寂。
三人はしばらく千剣龍を見つめていた。
レティシアが双剣を納める。
「……勝ったね!」
エリスも目を丸くする。
「S級……だったんだよね?」
キラは頷いた。
「ああ」
そして7年前を思い出す。
「7年前なら……絶対に勝てなかった」
レティシアが笑う。
「7年間、頑張ったからね」
「そうだな」
---
王都ギルドへ戻ると、大騒ぎになった。
「S級魔物……千剣龍を三人だけで!?」
「しかも討伐成功!?」
ギルドマスターは討伐証明を確認すると、大きく頷いた。
「文句なしだ」
そして三人の冒険者証を並べる。
「キラ、レティシア、エリス」
「はい」
「本日付で――」
冒険者証が更新される。
Bランク → Aランク
「おめでとう」
「Aランク……」
エリスが冒険者証を眺める。
レティシアも嬉しそうに微笑む。
キラは少しだけ笑った。
「7年前は、あいつに負けた」
そして三人を見る。
「今度は俺たちが勝った」
三人は顔を見合わせる。
それだけで十分だった。
---
その日の夕方。
宿に戻ったキラのもとへ、一通の手紙が届いた。
差出人を見て、キラが目を見開く。
「……父さん?」
封を開く。
そこには短い文章が書かれていた。
キラへ。
お前たちが王都で無事に活動していることは聞いている。
だが、こちらで少し気になることが起きている。
以前、この街の地下で黒い魔力が暴走した件について、改めて調査を行った。
その結果――
地下の奥に、いくつかの異変が確認された。
今のところ大きな被害は出ていない。
だが、以前の暴走と無関係とは考えにくい。
詳しいことは、こちらで直接話したい。
一度、エルディアへ戻ってきてほしい。
父より。
「……地下の黒い魔力が暴走した件の調査で……異変が見つかった?」
キラの表情が変わる。
子供の頃。
地下で起きた、あの黒い魔力の暴走。
あの事件は収束したと思っていた。
だが――。
「まだ、何か残ってるってことか……」
レティシアが手紙を覗き込む。
「エルディアで?」
「ああ」
エリスも真剣な表情になる。
「だったら、戻ったほうがいいね」
キラは手紙を握りしめる。
「……そうだな」
そして二人を見る。
「俺の故郷だ。二人にも来てもらうことになるけど……」
「何言ってるの?」
レティシアが即答する。
「私たち三人で行くに決まってるでしょ」
「私も同じ」
エリスも笑う。
「今さらキラ一人で行かせるわけないよ」
キラは少しだけ笑った。
「ありがとう」
こうして三人は――
キラの故郷である街、エルディアへ戻る準備を始めることになった。
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数日後。
王都を出発する準備をしていた三人。
荷物を確認していると――。
「あ、あの……!」
後ろから小さな声がした。
振り返る。
そこにいたのは、一人の女性だった。
小柄で
おとなしそうな雰囲気。
眼鏡をかけていて、長い髪をまとめている。
「えっと……」
彼女は緊張した様子で頭を下げた。
「は、初めまして……」
「初めまして」
キラが答える。
女性は少し慌てて手を差し出した。
「わ、私は――」
その瞬間。
「あっ!」
ガシャーン!!
足元の荷物につまずいた。
「きゃっ!」
倒れそうになる。
キラが慌てて支える。
「大丈夫!?」
「す、すみません!!」
眼鏡がずれている。
レティシアが思わず苦笑した。
「……かなりのドジっ子みたいね」
「うぅ……」
彼女は顔を真っ赤にする。
「よ、よく言われます……」
だが。
キラは彼女から感じる微かな魔力に気づいた。
「……聖属性?」
女性が驚く。
「分かるんですか?」
「少しだけ」
彼女は眼鏡を直す。
「私は戦闘はできません」
「できない?」
「はい……」
少し申し訳なさそうに俯く。
「剣も弓も槍も全然ダメです。魔物と戦うこともできません」
しかし、次の言葉で三人が驚いた。
「でも……回復魔法と、状態異常を治す魔法なら使えます」
「状態異常回復?」
エリスが反応する。
「はい」
女性は小さく頷く。
「毒や麻痺、呪い……そういうものを治すことができます」
キラが考える。
「それなら、かなり貴重な力だな」
「あの……」
女性が恐る恐る尋ねる。
「皆さんは、これからどちらへ?」
「俺の故郷エルディアへ戻るんだ」
「故郷……」
「王都から少し離れた街だ」
すると女性の顔が明るくなった。
「あ……!」
「?」
「実は私も、エルディア向かう予定なんです!」
三人が顔を見合わせる。
「本当?」
レティシアが尋ねる。
「はい」
女性は頷く。
「その街に、用事があって……」
少し恥ずかしそうに胸元で手を握る。
そして――。
「もし、ご迷惑でなければ……」
「一緒に行く?」
キラが尋ねた。
女性は目を丸くする。
「……いいんですか?」
「目的地が同じなら問題ない」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに頭を下げる。
だが――。
その勢いで眼鏡がまたずれる。
「あっ……」
「ふふっ」
エリスが笑う。
「面白い人だね」
「す、すみません……」
彼女はまた顔を赤くした。
こうして。
Aランクへ昇格したキラたちの旅に――
新たな仲間が加わることになった。
回復と状態異常回復を得意とする、少しドジな眼鏡の聖女。
彼女の名は――。
「改めまして……」
女性は小さく頭を下げた。
「セリーナです」
第133話 終




