129話 戦いは終わった。
中央の封印。
巨大な石造りの祭壇を囲むように、黒い紋章がいくつも浮かんでいた。
その中心で、黒紋章の男が手を掲げている。
「……もう少しだ」
黒い光が祭壇へ流れ込んでいく。
だが――
「そうはさせん!」
鋭い声とともに、一筋の斬撃が黒い光を断ち切った。
「っ!」
男が後ろへ飛び退く。
そこに立っていたのは――
最強の男
剣聖アシュレイン。
「何度来ようと同じだ。ここは渡さない」
「アシュレイン!」
キラが声を上げる。
アシュレインもキラたちを見ると、わずかに目を見開いた。
「キラ……!」
「やっぱりここにいたんだ!」
その隣から、オレンジ色の髪を揺らして矢を放つ少女が笑う。
「遅かったじゃない、キラ!」
弓王リゼッタ。
放たれた矢は黒紋章の男の足元に突き刺さった。
「リゼッタ!」
「話は後! 今はこいつを止めるよ!」
そしてもう一人。
淡い水色の髪。
彼女は祭壇の前で両手を広げ、魔法陣を維持していた。
「やっと来てくれたね」
大賢者リリー。
「中央の封印は、今かなり危険な状態よ!」
「分かった!けど、なんでリリーが2人?」
キラが首を傾げる
リリーはニコッと笑い
「分身魔法よ?維持するの大変なんだから」
そばにいたリリーの分身が煙のように消えてゆ
く。
そしてキラは剣を抜いた。
「俺たちも戦う!」
レティシアが一歩前へ出る。
「もちろんよ」
エリスも弓を構える。
「敵の数、多いよ。私が後ろを抑える!」
ルナは胸元に手を当てた。
青白い紋章が淡く輝く。
「私も……この封印を守る」
アシュレインが微笑んだ。
「なら、七人で守ろう」
「七人……」
キラは仲間たちを見渡す。
アシュレイン。
リゼッタ。
リリー。
そして自分たち四人。
「行くぞ!」
黒紋章の兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
「来る!」
エリスが最初の一矢を放つ。
ヒュッ!
矢が敵の腕を正確に射抜いた。
「一人!」
続けて二本、三本。
「右から三人!」
「任せて!」
レティシアが駆け出す。
敵の剣を受け止め――
ガキィン!
「遅い!」
身体をひねって刃をかわし、そのまま横薙ぎ。
ズバッ!
敵の武器を弾き飛ばした。
「まだ!」
背後から別の敵が迫る。
その瞬間――
「レティシア、伏せて!」
キラが叫ぶ。
レティシアが身を低くした直後、
ゴォッ!
キラの魔法が頭上を通り抜け、敵を吹き飛ばした。
「助かったわ、キラ!」
「まだ終わってない!」
キラは剣を握り直す。
「魔力だけじゃない。俺も前に出る!」
剣を振りながら、魔法を重ねる。
斬撃と魔法。
二つを組み合わせて、敵の動きを崩していく。
その横を――
「ふっ!」
アシュレインが駆け抜けた。
一閃。
二閃。
三閃。
黒紋章の兵士たちが次々と倒れていく。
キラはその動きを見て目を輝かせた。
「やっぱり……すごい」
「見ている場合か!」
「はい!」
キラもさらに踏み込む。
一方、リゼッタは祭壇の上方へ視線を向けていた。
「リリー! 上!」
「分かっています!」
天井から黒い魔力が降り注ぐ。
リゼッタは即座に矢を放った。
ヒュン!
矢が魔力の塊を撃ち抜く。
「これでどう!?」
「十分です!」
リリーが魔法を展開する。
青白い光が祭壇を包み込んだ。
しかし――
「ぐっ……!」
リリーの表情が険しくなる。
「封印の力が……押し負けています!」
「ルナ!」
キラが振り返る。
ルナは中央の祭壇を見つめていた。
「……分かる」
胸の青白い紋章が強く輝く。
「この封印……苦しんでる」
「なら、俺たちで支える!」
キラが叫ぶ。
レティシアが敵を斬り伏せる。
「ルナの邪魔はさせない!」
エリスが矢を連射する。
「近づかせない!」
リゼッタも笑った。
「私もいるよ!」
二人の矢が同時に飛ぶ。
敵の動きを完全に止めた。
アシュレインが黒紋章の男へ向かう。
「今だ!」
「くっ……!」
男が黒い短剣を抜く。
ガキィン!
アシュレインと男の剣がぶつかった。
「貴様……!」
「ここから先へは行かせない」
「この封印が何を守っているのかも知らずに!」
「知っているさ」
アシュレインの目が鋭くなる。
「だから守っている」
その瞬間――
黒紋章の男が笑った。
「ならば……その娘を見ろ」
「……!」
全員がルナを見る。
ルナの青白い紋章が激しく輝いていた。
「その力こそ、私が求めていたものだ」
「……渡さない」
ルナが静かに言った。
「私は……誰かの器じゃない」
黒紋章の男の表情が変わる。
「器ではない……だと?」
「私はルナ」
青白い光が大きく広がる。
「この封印を守るために戦う」
ドォンッ!
中央の祭壇から強烈な光が放たれた。
黒い魔力が押し返されていく。
「今だ!」
リリーが叫ぶ。
「全員、封印へ力を!」
七人が同時に動いた。
アシュレインが剣を突き立てる。
リゼッタが祭壇へ矢を放つ。
リリーが魔力を注ぎ込む。
キラは剣を構えながら魔法を重ねる。
レティシアは敵を食い止める。
エリスは最後まで周囲を警戒し、襲い来る敵を射抜く。
そして――
ルナの青白い紋章が中央の封印を包み込んだ。
「――閉じて!」
光が弾けた。
黒い魔法陣が次々と消えていく。
「なっ……!」
黒紋章の男が後退する。
「これほどの力を……!」
キラが追おうとする。
「待て!」
アシュレインが止めた。
「封印を離れるな!」
「……っ!」
キラは足を止める。
黒紋章の男は悔しそうにこちらを見ると、黒い欠片を握り潰した。
「今回は退こう」
黒い霧が男の身体を包む。
「だが――次は、その娘の力を必ず奪う」
「逃がすか!」
レティシアが斬り込む。
しかし、一歩遅かった。
男の姿は黒い霧の中へ消えていった。
静寂。
しばらくして、リリーが祭壇を見る。
「……中央の封印は、完全には壊されていません」
キラが尋ねる。
「じゃあ、守れたんですか?」
「ええ」
リリーは頷く。
「ですが……」
祭壇の奥に、古い文字が浮かび上がった。
『四つの封印』
『四つの力』
そして――
『最後の封印は、空にある』
「空……?」
エリスが空を見上げる。
リゼッタが眉をひそめた。
「まさか……」
アシュレインが静かに答えた。
「天上塔だ」
キラは息を呑んだ。
「……あの塔へ?」
リリーが頷く。
「ええ。どうやら、次に向かう場所が決まったようです」
ルナは胸の青白い紋章に触れた。
その光は、まだ消えていなかった。
「……空にある封印」
そして七人は、中央の封印を見つめた。
戦いは終わった。
第129話 終




