127話 影
南の封印が静かに輝いている。
先ほどまで大地を覆っていた黒い霧は消え、青白い光だけが辺りを照らしていた。
「……本当に閉じたんだ」
エリスが周囲を見渡す。
「うん」
ルナも頷いた。
「さっきまで聞こえていた声も、もう聞こえない」
レティシアは剣を鞘に戻した。
「これで東、西、南……三つの封印が安定したってこと?」
「そうね」
リリーが答える。
「でも、安心するのはまだ早いわ」
キラが振り返る。
「……中央か」
「ええ」
リリーは険しい顔で頷いた。
「さっき、あの男が『中央』と言っていた」
「黒い欠片も持っていたよね」
エリスが言う。
「ということは……中央の封印を狙ってる?」
「その可能性が高いわ」
キラは南の封印を見る。
「じゃあ、俺たちも中央へ向かおう」
「待って」
リリーが止めた。
「その前に、一度町へ戻る必要がある」
「町に?」
「ええ。南の封印を安定させたとはいえ、私たちはDランク冒険者よ」
「……」
「中央へ向かうなら、もっと情報が必要」
リリーは四人を見た。
「それに、今回の戦いで分かったことも多いわ」
---
一行は南の地を離れ、近くの街へ向かった。
道中。
エリスが先頭を歩いている。
「この先に小さな村があるよ」
「何か見える?」
キラが聞く。
「煙が少し」
エリスは目を細める。
「でも……変」
「何が?」
「煙が一か所からしか出てない」
レティシアが剣に手を添える。
「襲撃?」
「分からない」
エリスは弓を手に取った。
「先に見てくる」
「一人で?」
「大丈夫。危なかったら戻る」
「なら、俺も――」
「キラ」
リリーが呼び止めた。
「エリスを信じなさい」
「……分かった」
エリスは一人で先へ進んだ。
しばらくして――
「いた!」
エリスの声が聞こえた。
「村の入口に人が倒れてる!」
四人が駆け寄る。
村の入口には、数人の冒険者らしき人たちが倒れていた。
幸い、全員息はある。
「傷は……」
レティシアが確認する。
「気絶してるだけみたい」
キラが村の中を見る。
「でも、静かすぎる」
「……誰もいない」
エリスが呟いた。
家は残っている。
畑も荒らされていない。
なのに、人の姿だけがない。
「何があったんだろう」
ルナが不安そうに言う。
その時――
カラン。
村の奥から、金属音が聞こえた。
全員が振り向く。
「誰かいる!」
キラが剣を抜いた。
「気をつけて!」
四人が慎重に進む。
村の中央にある広場。
そこには――
一人の老人が立っていた。
「……冒険者か」
老人は疲れた顔で言った。
「助けに来てくれたのか?」
「何があったんですか?」
キラが尋ねる。
老人は南の空を見た。
「黒い紋章の連中が来た」
「……!」
「だが、目的は村ではなかった」
「じゃあ、何を?」
エリスが聞く。
老人は震える指で――
村の中央にある古い石碑を指した。
「この石碑を探していた」
「石碑……?」
リリーが近づく。
そして目を見開いた。
「……これは」
石碑には――
剣。
魔法。
弓。
そして中央に――
青白い紋章が刻まれていた。
「三人の紋章と、ルナの紋章……」
キラが呟く。
ルナが石碑へ近づく。
その瞬間。
青白い紋章が光った。
「……!」
石碑の表面に文字が浮かび上がる。
『四つの力、中央に集う時――』
そこで文字が途切れた。
「続きは?」
レティシアが尋ねる。
しかし、石碑はそれ以上何も語らない。
リリーが石碑を調べる。
「……一部が削られている」
「誰かが消した?」
「ええ」
リリーは頷いた。
「黒い紋章の連中でしょうね」
老人が口を開く。
「奴らは、この文字を読もうとしていた」
「そして?」
「読めなかった」
老人は苦笑した。
「だから、石碑を壊そうとしたんだ」
キラは拳を握る。
「中央の封印に関係してるんだ」
「間違いないわ」
リリーが答える。
「そして、この石碑があるということは――」
その瞬間。
ドンッ!!
村の外から爆発音が響いた。
「来た!」
エリスが弓を構える。
村の入口に――
黒い紋章を持った男たちが現れた。
「石碑を見つけたか」
先頭の男が笑う。
「なら、そこから離れてもらおう」
キラが剣を抜く。
「断る」
「そうか」
男が手を上げる。
「ならば、力ずくで奪う」
黒い魔力が一斉に膨れ上がった。
「レティシア!」
「分かってる!」
レティシアが真っ先に飛び出す。
敵の剣を受け――
ガキィン!
そのまま身体を回転させて斬り返す。
「遅い!」
ザンッ!
敵が後退する。
「エリス!」
「任せて!」
エリスの矢が敵の足元へ飛ぶ。
ドスッ!
「ぐっ!」
動きを止めた敵へ、キラが踏み込む。
「――はぁっ!」
剣撃。
さらに魔力を乗せた蹴りで距離を取る。
「――《ウィンドバレット》!」
風の弾丸が敵を吹き飛ばす。
「まだいる!」
エリスが叫ぶ。
「右から三人!」
「見えた!」
キラが振り向く。
レティシアが一人を斬り、キラが二人目を受け止める。
三人目がルナへ向かう。
「ルナ!」
「大丈夫!」
ルナの青白い紋章が輝いた。
敵の黒い魔力が――
弾かれる。
「なにっ!?」
男が驚く。
ルナは一歩も退かなかった。
「あなたたちには……渡さない」
「……その紋章」
男が目を見開く。
「やはり中央へ向かうつもりか」
キラが男を睨む。
「お前たちは中央で何をする?」
男は笑った。
「教えると思うか?」
そして――
黒い煙が広がる。
「しまった!」
エリスが叫ぶ。
煙が晴れた時。
黒い紋章の男たちは消えていた。
だが――
石碑の中央にあった青白い光が、一つだけ消えている。
リリーが石碑を見る。
「……まずい」
「何が?」
「中央へ向かうための道標を――一つ奪われた」
キラの表情が変わる。
「つまり?」
リリーは南の空を見上げた。
「私たちより先に、中央へ向かう可能性がある」
ルナが静かに言った。
「……急がないと」
キラは頷く。
「うん」
レティシアが剣を握る。
「今度こそ、先回りしよう」
エリスも弓を背負う。
「中央への道、私が探す」
四人は再び歩き出した。
その頃――
遠く離れた山の中。
黒い紋章の男は、奪った青白い欠片を手にしていた。
「これでいい」
その目の前には巨大な石門。
そこには――
『中央の封印』
と刻まれている。
男は黒い欠片を石門へ近づけた。
「さあ――」
石門に黒い亀裂が走る。
「最後の封印を、開けよう」
第127話 終




