126話 封印の向こう
「――絶対に渡さない」
キラはルナの前に立ち、剣を構えた。
南の封印が大きく揺れている。
青白い柱には亀裂が走り、その隙間から黒い霧が噴き出していた。
そして――
その奥に浮かぶ巨大な瞳。
「……あれが、封印されているもの?」
レティシアが剣を握り直す。
「分からない」
キラは目を逸らさない。
「でも、ルナを狙ってる」
「なら、私たちが守る」
エリスが弓を構えた。
「近づけさせなければいい」
「……ありがとう」
ルナが小さく呟く。
その時だった。
「違う」
南の封印の意思――銀髪の女性が口を開いた。
「今のあなたたちでは、あれを倒すことはできない」
「……!」
キラが振り返る。
「じゃあ、どうすればいい?」
「戦う必要はない」
「え?」
女性は封印を見つめた。
「今必要なのは、封印を閉じること」
「でも、どうやって?」
「ルナの力だけでは足りない」
女性はキラたちを見る。
「四人の力が必要」
---
「四人で?」
レティシアが聞き返す。
女性は頷いた。
「剣」
レティシアを見る。
「弓」
エリスを見る。
「魔力」
キラを見る。
そして最後に――
「守護の力」
ルナを見る。
「それぞれが封印を支える」
キラは剣を見る。
「……やってみよう」
「簡単にはいかないわよ」
リリーが後ろから言った。
「南の封印は、東や西とは違う」
「リリー」
いつの間にか、リリーが四人のすぐ後ろまで来ていた。
「ここまで来るとは思っていたけど……」
リリーは封印を見上げる。
「まさか、こんな状態になっているなんて」
「リリー、この封印を閉じる方法は?」
「ある」
リリーは即答した。
「でも、四人全員が自分の役割を理解しないと無理」
キラが頷く。
「教えて」
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リリーが地面に魔法陣を描いた。
四つの場所が光る。
「キラは中央」
「俺が?」
「ええ。あなたは剣と魔法、両方を使えるから」
キラは頷いた。
「レティシアは右」
「分かった」
「エリスは左」
「任せて」
「ルナは――」
リリーは南の封印を見る。
「封印の前へ」
ルナが一歩進む。
「……うん」
四人がそれぞれの場所についた。
「始めるわ」
リリーが杖を掲げる。
「今から封印を修復する」
ゴォォォ……!
魔法陣が光り始めた。
しかし――
「来る!」
エリスが叫ぶ。
黒い霧の中から、複数の魔物が飛び出してきた。
「まだいたのか!」
キラが剣を抜く。
「私が行く!」
レティシアが飛び出す。
一体目の爪を受け流す。
ガキィン!
そのまま身体を回転させ――
「――せいっ!」
ザシュッ!
魔物の肩を斬り裂く。
「エリス!」
「任せて!」
エリスの矢が連続して飛ぶ。
ヒュッ!
ヒュッ!
二本の矢が別々の魔物の足を正確に射抜いた。
「今!」
キラが踏み込む。
「――《ウィンドバレット》!」
風の弾丸が魔物をまとめて吹き飛ばす。
「まだ来る!」
エリスが叫ぶ。
「多い!」
レティシアが一体を斬り伏せる。
しかし、別の魔物が背後から迫った。
「レティシア!」
キラが叫ぶ。
「分かってる!」
振り向きざまに剣を振る。
ガキィン!
爪を弾く。
「はぁっ!」
さらに一撃。
魔物が倒れる。
「キラ、右!」
エリスの声。
キラは反射的に身を低くした。
頭上を爪が通り過ぎる。
「――そこ!」
キラは剣を返し、魔力を刃に集めた。
「《ウィンドエッジ》!」
ザンッ!
魔物が倒れる。
「よし!」
だが――
封印の亀裂が、さらに広がった。
「まずい!」
リリーが叫ぶ。
「早く!」
---
ルナは封印の前に立っていた。
目の前には巨大な亀裂。
黒い霧が、こちらへ流れてくる。
「……怖い」
ルナの身体が震える。
その時。
キラの声が聞こえた。
「ルナ!」
「……!」
「大丈夫だ!」
レティシアも叫ぶ。
「私たちがいる!」
エリスも続く。
「一人じゃないよ!」
ルナは目を閉じた。
胸の青白い紋章に手を当てる。
「……うん」
ゆっくりと息を吸う。
「私は……一人じゃない」
紋章が輝いた。
青白い光が、封印へ流れ込んでいく。
「今!」
リリーが叫ぶ。
「キラ!」
「分かった!」
キラは剣を地面へ突き立てた。
「――魔力を流す!」
風の魔力が魔法陣を走る。
レティシアが剣を構えた。
「私も!」
剣から光が伸びる。
エリスも弓を引く。
「これで……!」
矢を放つ。
ヒュンッ!
矢は魔法陣の中心へ突き刺さった。
四人の力が重なる。
封印が――
青白く輝き始めた。
「いける……!」
だが、その瞬間。
封印の奥から巨大な声が響いた。
『――ルナ』
「……!」
ルナが目を見開く。
『――お前は、また私を拒むのか』
「……知らない」
『ならば――思い出せ』
ズキッ!
突然、ルナの頭に激痛が走った。
「きゃあっ!」
「ルナ!」
キラが駆けようとする。
だがリリーが叫ぶ。
「動かないで!」
「でも!」
「今、キラが動いたら封印が崩れる!」
「……!」
キラは歯を食いしばった。
「ルナ……!」
ルナは震えながら、必死に立っている。
そして――
新たな記憶が浮かんだ。
幼いルナ。
南の封印。
その前に立つアシュレイン。
リリー。
リゼッタ。
そして――
黒い紋章の男。
男が何かを差し出している。
「これは……?」
ルナの記憶の中で、リリーが叫んでいた。
『触ってはいけない!』
だが、幼いルナは――
その黒いものに触れていた。
「……私が……?」
ルナの目が見開かれる。
「私……昔、これに触れた……?」
そして記憶の中の黒い影が――
笑った。
『ようやく、見つけた』
ルナの意識が現実へ戻る。
「……違う」
ルナは顔を上げた。
「私は……あなたの器じゃない」
黒い影が唸る。
『ならば、なぜ我が力を知っている』
「それは……」
ルナは胸の青白い紋章を見る。
そして、はっきりと言った。
「私が……あなたを封じる側だから!」
青白い光が爆発した。
「うおおおおっ!」
キラたちの力も一気に重なる。
南の封印の亀裂が――
少しずつ閉じていく。
「あと少し!」
リリーが叫ぶ。
「みんな、力を!」
「分かった!」
キラが叫ぶ。
「いくぞ!」
レティシアが剣を握る。
「はぁぁぁっ!」
エリスが最後の矢を放つ。
「これで!」
ルナが両手を封印へ向ける。
「――閉じて!」
ドォォォォン!!
眩い光が南の大地を包んだ。
そして――
巨大な亀裂が、完全に閉じた。
静寂。
風だけが吹き抜ける。
キラは荒い息を吐いた。
「……終わった?」
リリーが封印を確認する。
「……ええ」
「南の封印は……」
「ひとまず、安定したわ」
レティシアがほっと息を吐く。
「よかった……」
エリスも弓を下ろした。
「本当にギリギリだったね」
ルナは黙って自分の胸を見る。
青白い紋章は、以前よりも強く輝いていた。
「……でも」
ルナが呟く。
「私は、昔ここで何をしたの?」
リリーは答えなかった。
ただ――
南の封印を見つめていた。
「それを知るには……」
リリーが静かに言う。
「もう一度、『封印の真実』を読む必要があるわ」
キラが顔を上げる。
「まだ続きがあるのか?」
「ええ」
リリーは頷いた。
「南の封印が閉じた今だからこそ――次の記憶が開くはず」
その時。
遠くの森から――
一羽の黒い鳥が飛び立った。
その足には、黒い紋章が刻まれている。
そして、その先には――
黒い紋章の男が立っていた。
「……南まで閉じたか」
男は笑う。
「ならば、次は――」
その手の中には、あの白い欠片とは別の――
黒い欠片が握られていた。
「中央だ」
男の瞳が、不気味に光った。
第126話 終




