123話 開き始める封印:南
「……南、か」
神殿の祭壇。
『封印の真実』に浮かび上がった文字を、キラはじっと見つめていた。
『第三の封印――南』
そして、その下に刻まれた言葉。
『急げ。南の封印は、すでに開き始めている』
「東と西の封印を直したばかりなのに……」
レティシアが剣の柄に手を置く。
「今度は南……。しかも、守護者が確認されていないんだよね?」
「ええ」
リリーが頷いた。
「東には守護者がいた。西にもいた。でも南だけは違う」
「どういう意味?」
エリスが弓を背負い直す。
リリーは少しだけ表情を曇らせた。
「……最初から、守護者が存在しなかったのかもしれない」
「えっ?」
ルナが驚く。
「じゃあ……誰が封印を守っていたの?」
「それが分からないの」
リリーは本を閉じた。
「だからこそ危険なのよ」
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四人は神殿を出る準備を始めた。
キラは剣を腰に戻し、魔力を軽く確認する。
「南の封印まで、どれくらい?」
「ここからなら、数日はかかるわ」
リリーが答える。
「ただし、普通の道を使えばね」
「普通じゃない道があるの?」
「あるわ」
リリーは神殿の奥を指差した。
そこには、今まで気づかなかった細い通路があった。
「古代の転移路よ。完全には機能していないけど、途中までなら南へ近道できる」
「それなら使おう」
キラが即答する。
「封印が開き始めてるなら、急いだ方がいい」
「私も賛成」
レティシアが頷いた。
「エリスは?」
「もちろん行くよ」
エリスは笑った。
「南に何があるか分からないんでしょ? だったら、先に見つけるのが私の仕事」
「頼りにしてる」
「任せて」
エリスは胸を張った。
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四人は古代の通路へ入った。
しばらく進むと、壁に青白い光が走る。
ルナの胸の紋章も、それに呼応するように輝いた。
「……また反応してる」
「南の封印に近づいている証拠かもしれないわ」
リリーが言う。
その瞬間――
「止まって!」
エリスが叫んだ。
全員が足を止める。
エリスは前方を睨んでいた。
「……何かいる」
「敵?」
レティシアが剣を抜く。
「まだ分からない。でも……複数」
キラも剣を抜いた。
「どのくらい?」
「十……いや、十五以上」
「多いな」
「来るよ!」
次の瞬間。
暗闇から黒い獣が飛び出してきた。
「来た!」
レティシアが前へ出る。
ガキィンッ!
鋭い爪を剣で受け止め、そのまま身体を捻る。
「――はっ!」
横薙ぎの一閃。
黒い獣が吹き飛んだ。
しかし、その横から別の獣が迫る。
「レティシア、右!」
「分かってる!」
レティシアは一歩下がり、爪を紙一重でかわす。
そのまま低い姿勢から斬り上げた。
ズバッ!
「一体!」
「次!」
エリスの矢が飛ぶ。
ヒュッ!
矢はレティシアの横を抜け、背後から襲いかかろうとしていた獣の額へ突き刺さった。
「助かった!」
「まだいる!」
エリスは次の矢をつがえる。
キラも前へ走った。
「――《ウィンドバレット》!」
風の弾丸が一直線に飛ぶ。
一体を吹き飛ばし、さらにキラ自身が踏み込む。
「はぁっ!」
剣を振り下ろす。
ガキンッ!
爪と剣がぶつかる。
「こいつ……普通の魔物じゃない!」
黒い紋章が獣の身体に浮かび上がっていた。
「また黒い紋章……!」
ルナが叫ぶ。
「キラ!」
「分かってる!」
キラは力任せに押し切るのではなく、一度剣を引いた。
獣の爪が空を切る。
その瞬間。
「――そこだ!」
斜めに斬り抜ける。
黒い紋章の部分だけを狙った一撃。
パァンッ!
紋章が砕け散った。
獣の身体から黒い魔力が抜けていく。
「……!」
獣はその場に倒れた。
「やっぱり」
キラが呟く。
「こいつらも操られてる」
「なら!」
ルナが一歩前へ出る。
胸の青白い紋章が輝いた。
「私が……!」
「ルナ、無理はするな!」
「大丈夫!」
青白い光が広がる。
残った獣たちの身体から、次々と黒い紋章が剥がれていく。
「グルル……」
獣たちは力を失い、その場に伏せた。
静寂が戻る。
エリスが周囲を確認する。
「……全部、動かなくなった」
レティシアが剣を収める。
「ルナの力、確実に強くなってるね」
「うん……」
ルナは自分の胸の紋章を見る。
「でも、これが何なのか……まだ分からない」
リリーが静かに言った。
「南の封印に行けば、その答えの一部が分かるかもしれないわ」
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さらに奥へ進む。
やがて古代の転移装置が見えてきた。
巨大な円形の石。
その中央には、三つの紋章。
剣。
魔法。
弓。
「これ……」
キラが目を見開く。
「アシュレイン、リリー、リゼッタの紋章と同じだ」
「ええ」
リリーが頷く。
「三人が昔、南の封印にも関わっていた証拠ね」
ルナが装置へ近づく。
すると――
青白い紋章が光った。
ゴォォォン……!
古代装置が動き始める。
「動いた!」
エリスが驚く。
しかし。
装置の中央に、突然黒い亀裂が走った。
「……!」
リリーの表情が変わる。
「全員、離れて!」
バキィィィン!
転移装置の一部が砕けた。
その向こう側。
一瞬だけ、景色が映る。
巨大な山。
荒れ果てた大地。
そして――
遠くに見える、巨大な青白い柱。
その柱には無数の亀裂が走っていた。
「……あれが……」
キラが息を呑む。
リリーが答えた。
「南の封印よ」
その瞬間。
映像の中で――
青白い柱の根元から、黒い霧が噴き出した。
ルナの胸の紋章が強く輝く。
「……痛い……!」
「ルナ!」
キラが駆け寄る。
ルナは胸を押さえながら、震える声で言った。
「聞こえる……」
「何が?」
「誰かが……」
ルナの目から、一筋の涙が落ちた。
「……助けてって……言ってる」
全員が黙った。
そして。
映像の奥から、低い声が響いた。
『――南の封印を、守る者はもういない』
『――だからこそ』
『――今度こそ、少女を迎えに行く』
キラの表情が険しくなる。
「……あいつか」
黒い紋章の男。
レティシアが剣を握り直す。
「南で待ってるってことね」
エリスも弓を構える。
「だったら、急ごう」
キラは頷いた。
「ルナを渡すつもりはない」
ルナも顔を上げる。
「……私も行く」
青白い紋章が、強く輝いた。
その光はまるで――
南で待つ何かに、答えるようだった。
第123話 終




