122話 神殿に響く声
「その本を開くのは、まだ早い」
神殿の奥から響いた声。
キラはすぐに剣を構えた。
「……誰だ!」
レティシアも剣を抜く。
エリスは素早く周囲を見回し、矢を番えた。
「声は……奥から」
「私も感じます」
ルナが本を閉じる。
すると、祭壇の奥からゆっくりと人影が現れた。
「……!」
キラたちは身構える。
だが、現れた人物を見て――
「え?」
エリスが目を丸くした。
「リリー?」
そこにいたのは、大賢者リリーだった。
「……どうしてここに?」
キラが驚いて尋ねる。
リリーは苦笑した。
「先に王都へ戻ると言ったでしょう?」
「うん」
「でも、少し気になることがあってね」
リリーは祭壇へ近づく。
そして、ルナが持っている本を見る。
「やっぱり……」
「知ってるの?」
レティシアが尋ねる。
「ええ」
リリーは静かに頷いた。
「この本は、ただの記録じゃない」
「じゃあ何なんだ?」
「記憶を封じている本よ」
「記憶を……?」
キラが驚く。
リリーはルナを見る。
「ルナ。あなたの記憶は失われたんじゃない」
「……え?」
「誰かによって、意図的に封じられているの」
ルナの顔が強張った。
「私の記憶が……封じられてる?」
「そう」
リリーは本に手を伸ばす。
「この本は、その封印を少しずつ解くためのもの」
「だったら、今すぐ開けば……」
キラが言う。
リリーは首を横に振った。
「危険なの」
「危険?」
「一度にすべての記憶を戻したら、ルナの心が耐えられない可能性がある」
「……!」
ルナは本を見つめる。
「じゃあ……私は、まだ思い出せないんですか?」
「違うわ」
リリーは優しく答えた。
「少しずつなら、思い出せる」
「少しずつ……」
「今までにも、あなたは何度か記憶を取り戻しているでしょう?」
ルナは頷く。
「アシュレインさんたちのこと……」
「それも封印が少し緩んだからよ」
キラは本を見る。
「じゃあ、この本には何が書かれてる?」
リリーは表紙に刻まれた文字を指差す。
「ルナがなぜ黒き紋章の組織に狙われているのか」
「……!」
「そして、なぜアシュレインたちが昔あなたを守っていたのか」
ルナの手が震える。
「全部……ここに?」
「一部だけね」
その時――
パラッ。
誰も触れていないのに、本のページがめくれた。
「……!」
ページには、一枚の古代文字が描かれていた。
中央には幼いルナ。
その周囲を、複数の封印が囲んでいる。
そして――
三人の英雄。
アシュレイン。
リリー。
リゼッタ。
そのさらに後ろに、大きな黒い影が描かれていた。
「これは……」
エリスが息を呑む。
「黒い核?」
ルナが首を振る。
「違います」
「え?」
「この影……黒き核より、もっと大きい」
リリーの表情が険しくなる。
「そう」
リリーが答えた。
「これが、古代の封印が閉じ込めているもの」
キラは絵を見つめる。
「じゃあ、東と西の封印は……」
「その存在を封じるためのものの一部」
「……!」
レティシアが剣を握る。
「つまり、黒き紋章の組織は、それを外に出そうとしてる?」
「おそらくね」
神殿の空気が重くなる。
その時。
――ドンッ!!
入口の方から大きな音が響いた。
エリスが振り返る。
「来た!」
「敵?」
「分からない。でも、複数いる!」
キラが剣を抜く。
「リリー、ルナを頼む!」
「分かったわ」
レティシアが隣に並ぶ。
「キラ、私たちで止めるわよ」
「うん!」
エリスが弓を引き絞る。
「後ろは任せて!」
神殿の入口から、黒き紋章の者たちが雪崩れ込んでくる。
「本を渡せ!」
「断る!」
キラが一気に踏み込む。
敵の剣を受け流し、反撃する。
ガキィン!
「はっ!」
レティシアも別の敵へ斬り込む。
エリスは遠距離から次々と矢を放ち、敵の進路を封じていく。
「右から二人!」
「分かった!」
キラが振り向く。
「《ウィンドバレット》!」
風の弾丸が敵を吹き飛ばす。
「今!」
レティシアが一気に間合いを詰める。
「――せいっ!」
敵の武器を弾き飛ばした。
だが――
「まだ来る!」
エリスが叫ぶ。
敵の数が増えていく。
その時。
ルナの持っていた本が、再び光った。
「……え?」
本のページに新しい文字が浮かび上がる。
『第三の封印――南』
キラがそれを見た。
「南……?」
リリーの顔が変わる。
「……まずい」
「何が?」
「南の封印は――」
リリーが言葉を止める。
そして、低い声で続けた。
「まだ一度も、守護者が確認されていない場所なの」
「……!」
神殿の奥で、本がさらに強く輝いた。
そして新たな文字が浮かび上がる。
『急げ。南の封印は、すでに開き始めている』
キラは剣を握り直した。
「……行こう」
次の目的地は――
南。
第122話 終




