121話 私の名前?
西の封印を守った翌日。
キラたちは、村で聞いた情報を頼りに、山のさらに奥へ進んでいた。
目指すのは――古代神殿。
「この辺りのはずなんだけど……」
エリスが地図を広げる。
「地図では道があることになってるよ」
「かなり古い地図だからな」
キラが周囲を見回す。
「実際には道が消えてるみたいだ」
「……待って」
エリスが突然、弓を構えた。
「何かいる」
「魔物?」
レティシアが剣に手をかける。
エリスは目を細め、森の奥を見つめた。
「ううん。動物……たぶん鹿。でも、その奥に何かいる」
「人か?」
キラも警戒する。
エリスが矢を一本放つ。
ヒュンッ!
矢は敵を狙ったものではなく、少し離れた木に突き刺さった。
「……反応なし」
「さすがエリス」
「索敵は私に任せて」
エリスは微笑んだ。
「こういう場所では、弓が一番役に立つからね」
キラたちは慎重に先へ進む。
しばらくすると――
「……あれ?」
ルナが足を止めた。
目の前には、大きな岩壁。
「ここに……空間があります」
「この岩壁の向こう?」
「はい」
エリスが岩壁の周囲を確認する。
「キラ、右側に小さな隙間があるよ」
「本当だ」
キラが近づく。
そこには、人一人が通れそうな細い道が隠れていた。
「これなら中へ入れそうだ」
四人は慎重に進む。
すると、岩壁の向こうに――
古代の石造りの階段が現れた。
「……神殿への入口だ」
レティシアが呟く。
「でも、誰かが最近通った跡がある」
エリスが地面を見る。
そこには新しい足跡が残っていた。
「黒き紋章の連中……」
キラの表情が険しくなる。
「先に入ってるみたいだな」
「急ごう」
レティシアが剣を抜く。
「でも、罠には気をつけて」
エリスが先頭に立つ。
「私が前を見ていく」
「頼む」
四人は階段を下りていった。
地下深く。
長い階段を下りた先には、巨大な石造りの通路が広がっていた。
壁には古代文字。
そして至るところに――
青白い紋章が刻まれている。
「この紋章……」
ルナが胸元を押さえる。
「私の紋章と同じです」
エリスが壁を見る。
「でも、ところどころ傷つけられてる」
「黒き紋章の連中が壊したのか?」
「たぶん」
その時。
エリスが突然手を上げた。
「止まって」
全員が止まる。
「前方、何かいる」
暗闇の先。
カツン。
カツン。
足音が聞こえる。
「何人?」
キラが小声で尋ねる。
「……五人。いや、もっといる」
エリスが目を細める。
「奥にもいる」
「囲まれる前に行こう」
キラが剣を抜く。
その瞬間――
「来たぞ!」
黒き紋章の男たちが一斉に現れた。
「戦闘準備!」
レティシアが前へ出る。
「キラ、右!」
「分かった!」
キラは迫ってきた敵の剣を受け止める。
ガキィン!
そのまま相手の腕を押し返し、剣を振る。
「はっ!」
敵が後退する。
そこへ別の男が襲いかかる。
「キラ!」
エリスの矢が飛ぶ。
ヒュンッ!
矢が敵の足元に突き刺さり、動きを止める。
「今!」
「助かる!」
キラが踏み込み、剣の柄で敵を倒す。
反対側ではレティシアが二人を相手にしていた。
「――せいっ!」
一人の斬撃をかわす。
「遅い!」
そのまま懐に入り、剣を振り抜く。
ガキィン!
敵の剣を弾き飛ばす。
「エリス!」
「任せて!」
ヒュンッ!
もう一人の手元に矢が突き刺さる。
「今!」
レティシアが一気に間合いを詰める。
「はあっ!」
敵を倒した。
「ナイス!」
エリスが笑う。
「そっちもね!」
残った敵が一斉にルナへ向かう。
「ルナ!」
キラが走る。
だが、エリスの方が早かった。
「させない!」
弓を引き絞る。
「――そこ!」
三本の矢が連続して放たれた。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
敵の足元、武器、肩。
すべて正確に射抜き、動きを止める。
「今なら!」
キラとレティシアが同時に踏み込む。
二人の剣が交差する。
敵たちは次々と倒れていった。
「……これで最後」
キラが剣を収める。
「助かったよ、エリス」
「ふふ。今回はちゃんと役に立ったでしょ?」
「最初から頼りにしてるって」
「ならよし!」
エリスが笑った。
その時――
「……みんな」
ルナが奥を見つめていた。
「扉があります」
通路の先。
そこには巨大な石の扉があった。
中央には三つの紋章。
剣。
魔法。
弓。
「これって……」
エリスが目を見開く。
「アシュレイン、リリー、リゼッタ?」
キラが頷く。
「たぶん、そうだ」
ルナが扉へ近づく。
青白い紋章が輝く。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な扉がゆっくり開いていく。
その先には――
広大な祭壇。
中央には、一冊の古びた本が置かれていた。
「……本?」
エリスが弓を下ろす。
「でも、普通の本じゃなさそう」
ルナが震える。
「知っています……」
「え?」
「この本……昔、見たことがあります」
キラがルナを見る。
「本当に?」
「はい」
ルナはゆっくりと祭壇へ歩く。
そして本の表紙に手を触れた。
――パァァァッ!
青白い光が広がる。
祭壇の奥に、三人の姿が浮かび上がった。
金色の髪。
水色の髪。
オレンジ色の髪。
「……アシュレイン」
「リリー……」
「リゼッタ……」
ルナの目に涙が浮かぶ。
三人は幼いルナを守るように立っていた。
そして、その背後には――
巨大な白い扉。
その中央に刻まれていた文字。
『封印の真実』
キラが息を呑む。
「ここに……ルナの過去がある」
レティシアが剣を握る。
「そして、黒き紋章の連中もこれを狙ってる」
エリスが周囲を警戒する。
「……だったら、早く調べないと」
ルナは本を見つめる。
「これを開けば……」
小さく息を吸う。
「私の記憶が、戻るかもしれません」
キラが頷いた。
「みんなで見よう」
ルナが本を開く。
最初のページに――
一つの名前が記されていた。
『ルナ・セレスティア』
「……私の名前?」
ルナが呟く。
その瞬間。
神殿の奥から――
ドンッ!!
巨大な音が響いた。
エリスがすぐに弓を構える。
「……誰か来る!」
キラも剣を抜く。
「まだ敵がいる!」
そして、暗闇の奥から聞こえてきた声は――
「その本を開くのは、まだ早い」
聞き覚えのある声だった。
第121話 終




