120話 リリーの警告
「……その紋章が、目覚めたのね」
村の入口に立つリリー。
キラたちは驚いて彼女を見る。
「リリー!」
キラが駆け寄る。
「どうしてここに?」
「東の封印と西の封印に異変が起きたでしょう?」
リリーは息を整えながら答えた。
「あなたたちから報告を受ける前に、魔力の流れを追ってきたの」
「さすが大賢者……」
エリスが感心する。
リリーは小さく笑った。
「それより――」
視線がルナへ向く。
「その紋章を見せて」
「はい」
ルナが胸元を見せる。
青白い紋章。
リリーはそれをじっと見つめた。
「……間違いない」
「何が分かった?」
キラが尋ねる。
リリーは少し黙ってから答えた。
「これは、古代の封印を開くための鍵じゃない」
「じゃあ……?」
「封印を守るための力よ」
ルナが目を見開く。
「やっぱり……」
「ただし」
リリーの表情が険しくなる。
「普通の守護魔法とは違う」
「どういう意味?」
レティシアが聞く。
「この紋章は、封印そのものと繋がっているの」
リリーは地面にしゃがみ、枝で簡単な図を描いた。
「複数の封印があって、それぞれが独立しているように見える。でも本当は――」
東。
西。
そして、その間を繋ぐ線。
「全部が一つの大きな封印になっている」
キラが眉をひそめる。
「じゃあ、一つ壊れたら……」
「他の封印にも影響する」
「……!」
エリスが息を呑む。
「それって、かなりまずいんじゃ……」
「ええ」
リリーは頷いた。
「だから黒き紋章の組織は、封印を一つずつ壊そうとしている」
キラは拳を握った。
「じゃあ、俺たちは全部守らないといけない」
「その通り」
リリーはキラを見る。
「でも、あなたたちだけで全部を守ろうとしないで」
「……?」
「東と西。どちらも守れたのは大きいわ」
リリーは穏やかに続ける。
「でも相手も、もうあなたたちを警戒している」
「つまり……」
レティシアが言う。
「次は私たちの裏を狙ってくる?」
「可能性は高いわ」
その時。
村人の一人が駆け寄ってきた。
「す、すみません!」
「どうしたの?」
「さっき倒れていた青年が……!」
キラたちが振り返る。
青年が目を覚ましていた。
「俺は……大丈夫だ」
青年は身体を起こす。
「黒い紋章は……消えている」
ルナが近づく。
「よかった……」
青年はルナを見る。
そして――
「あ……」
顔色が変わった。
「その紋章……」
「何か知ってるんですか?」
「昔、村に伝わっていた話で……」
青年は震える声で続ける。
「西の山のさらに向こうに、古い神殿がある」
「神殿?」
「そこに……同じ紋章が描かれていた」
リリーが立ち上がる。
「……古代神殿」
キラを見る。
「もしかすると、そこにルナの過去に関する手掛かりがあるかもしれない」
「行こう」
キラは即答した。
リリーが少し驚く。
「すぐ決めるのね」
「ルナのことなら、放っておけない」
ルナがキラを見る。
「キラ……」
「それに、黒き紋章の連中もそこを狙うかもしれない」
レティシアが剣を握る。
「だったら先に行くしかないわね」
エリスも頷く。
「今度こそ、逃がさないようにしよう」
リリーは三人を見て、ふっと笑った。
「本当に成長したわね」
「そうかな?」
「ええ」
リリーは少しだけ真剣な顔になる。
「でも、まだ焦らなくていい」
「……」
「今のあなたたちはDランク冒険者」
キラは頷く。
「分かってる」
「強くなる必要はある。でも、今は無理に力を求める時期じゃない」
リリーはルナを見る。
「まずは情報を集めること。そして、仲間と協力すること」
「はい」
ルナが答える。
リリーは空を見上げた。
「それから……アシュレインとリゼッタにも知らせましょう」
「二人にも?」
「ええ」
リリーの表情が少しだけ険しくなる。
「この紋章が目覚めた以上、二人にも伝えておいた方がいい」
キラは頷いた。
「分かった」
こうしてキラたちは、古代神殿を目指すことになった。
だが、その夜。
村から少し離れた森の中。
黒き紋章の男が一人、立っていた。
「……大賢者リリーまで動いたか」
男は手の中の白い欠片を見る。
「ならば、予定を変えるしかない」
白い欠片に、青白い亀裂が走る。
「神殿を先に奪う」
そして男は――
「ルナの記憶が、すべて戻る前に」
そう呟いて、闇の中へ消えていった。
第120話 終




