119話 守るもの
黒い魔力が村全体を包み込む。
「……これは、まずい」
キラが剣を構える。
黒い霧の向こうから、何体もの魔物が姿を現した。
「来るよ!」
エリスが弓を引き絞る。
「キラ、前は任せて!」
「分かった!」
レティシアが一気に駆け出した。
「はあっ!」
ガキィン!!
迫ってきた魔物の爪を剣で受け流す。
そのまま身体をひねり、横薙ぎ。
「――せいっ!」
魔物が後退する。
そこへエリスの矢が飛んだ。
ヒュンッ!
「今!」
「任せろ!」
キラが踏み込む。
剣に炎をまとわせ――
「《フレイムスパイラル》!」
炎の螺旋をまとった斬撃が魔物を吹き飛ばした。
「よし!」
しかし、まだ魔物は残っている。
「数が多い!」
レティシアが叫ぶ。
「ルナは?」
キラが振り返る。
ルナは村人たちの前に立っていた。
胸元の青白い紋章が、強く輝いている。
「……私が……守らなきゃ」
「ルナ!」
キラが駆け寄ろうとする。
その前に、黒き紋章の男が立ちはだかった。
「邪魔はさせん」
「どけ!」
キラが剣を振る。
男は黒い魔法で受け止めた。
ギィィン!!
「くっ……!」
「まだ私には勝てない」
男の魔力が膨れ上がる。
キラは押し返される。
「キラ!」
レティシアが援護に入ろうとする。
だが、別の魔物が襲いかかってきた。
「こっちは私がやる!」
「頼む!」
キラは再び男と向き合う。
剣と黒い魔力がぶつかる。
「ルナを……利用するな!」
「利用しているのではない」
男は冷たく笑う。
「本来あるべき姿へ戻しているだけだ」
「何を言ってる!」
「その少女は――封印を守るために作られた器だ」
「……!」
キラの動きが一瞬止まる。
その言葉を聞いたルナの表情も変わった。
「私が……器……?」
男が手を伸ばす。
「そうだ。お前の力を使えば、古代の封印をすべて開くことができる」
「違う!」
ルナが叫んだ。
「私は……そんなことのためにいるんじゃない!」
その瞬間。
青白い紋章が強く輝いた。
――パァァァッ!!
村全体が光に包まれる。
「なに!?」
男が目を細める。
ルナの足元から、青白い光の紋様が広がっていく。
その光に触れた魔物たちが、次々と動きを止めた。
「魔物が……止まった?」
エリスが驚く。
レティシアも剣を下ろさずに様子を見る。
「攻撃してない……」
ルナは震える手を前へ伸ばした。
「お願い……」
青白い光が魔物たちを包む。
すると、身体に刻まれていた黒い紋章が――
一つ。
また一つ。
消えていく。
「……!」
キラが息を呑む。
黒い魔力が抜けた魔物たちは、その場に倒れ込んだ。
「ルナが……黒い紋章を消した」
エリスが呟く。
男の顔から笑みが消えた。
「ありえない……」
「何が?」
キラが男を見る。
「その力は……封印を開くためのものではない」
男が後退する。
「まさか……」
ルナの紋章から、さらに強い光が放たれる。
「封印を……守る力だと?」
「……守る?」
ルナ自身も驚いていた。
すると、どこからともなく声が聞こえた。
――守る者よ。
ルナが顔を上げる。
「……誰?」
――お前は、器ではない。
――お前自身が、鍵なのだ。
「鍵……?」
その言葉と同時に、ルナの記憶が一気に流れ込んでくる。
幼い自分。
アシュレイン。
リリー。
リゼッタ。
そして、黒き紋章の男。
三人が自分を守っている。
リリーが何かを叫んでいる。
『この子の力を封じるんじゃない』
アシュレインが剣を構える。
『この子自身に選ばせるんだ』
リゼッタが弓を構えながら笑う。
『守るか、壊すか。それを決めるのは、この子だよ』
――記憶が途切れる。
「……私が……決める……」
ルナはゆっくりと顔を上げた。
そして黒き紋章の男を見る。
「私は……あなたの器にはなりません」
「……!」
「私の力は――私が守るために使います!」
青白い光が弾けた。
男の黒い魔力が押し返される。
「ぐっ……!」
「今だ!」
キラが叫ぶ。
レティシアが一気に踏み込む。
「――はあっ!」
男の腕を狙って斬撃を放つ。
男は後ろへ跳んでかわす。
エリスの矢がその逃げ道を塞ぐ。
「逃がさない!」
男は舌打ちした。
「……今日は退く」
「待て!」
キラが追う。
だが男は黒い霧に包まれ、そのまま姿を消した。
「また逃げた……!」
キラが悔しそうに剣を握る。
レティシアが近づく。
「でも、今回はかなり追い詰めたわ」
「そうだね」
エリスも頷く。
その後ろでは、ルナが村人たちを見つめていた。
胸元の青白い紋章は、もう光っていない。
「……私、この力をどうすればいいんでしょう」
キラは少し考えた。
「分からない」
「……」
「でも、一人で決めなくていい」
キラは笑う。
「俺たちも一緒に考えるから」
レティシアも頷いた。
「そうよ」
エリスも笑う。
「私たちは仲間でしょ?」
ルナの目に、涙が浮かぶ。
「……はい」
その時。
遠くから――
「キラ!」
聞き覚えのある声が響いた。
全員が振り返る。
村の入口に立っていたのは――
水色の髪を揺らす少女。
「……リリー?」
大賢者リリーが、キラたちを見つめていた。
そして彼女は、ルナの胸元に刻まれた青白い紋章を見て――
驚いたように目を見開いた。
「……その紋章が、目覚めたのね」
第119話 終




