118話 ルナに刻まれた紋章
「……ルナ、その胸の光……」
エリスが心配そうに見つめる。
ルナの胸元には、見たことのない青白い紋章が浮かんでいた。
「これ……さっきまではありませんでした」
ルナが服の上から胸元を押さえる。
「痛くはない?」
レティシアが尋ねる。
「痛くは……ないです」
「なら、まずは落ち着こう」
キラは周囲を警戒しながら言った。
「さっきの男は逃げた。でも、まだ近くに仲間がいるかもしれない」
「そうだね」
エリスが弓を構え直す。
その時――
「う……」
地面に倒れていた青年が、かすかに声を漏らした。
「!」
キラたちはすぐに駆け寄った。
「大丈夫か?」
青年がゆっくりと目を開く。
「ここ……は……?」
「森だ。お前は黒き紋章の連中に狙われていた」
「黒き……紋章……?」
青年の顔が青ざめる。
「逃げろ……」
「え?」
「奴らは……まだ……」
青年は震える手で西の方を指差した。
「村が……」
「村?」
キラが身を乗り出す。
「西の山の向こうに……小さな村がある……」
「そこが狙われてるの?」
エリスが尋ねる。
青年は頷いた。
「俺は……そこから逃げてきた……」
レティシアの表情が険しくなる。
「じゃあ、さっきの黒き紋章の男は……」
「村の人たちを……」
青年が苦しそうに息をする。
「器を探すために……連れて行った……」
「……!」
キラは立ち上がった。
「行こう」
「キラ」
「その村を助ける」
レティシアも頷く。
「当然ね」
エリスも弓を背負い直した。
「急ごう」
だが――
「待ってください」
ルナが言った。
「私も行きます」
キラはルナを見る。
「でも、その紋章が……」
「だからこそです」
ルナは胸元を押さえる。
「この紋章が何なのか……私自身が知りたい」
キラは少し考えた。
「……分かった。ただし、無理はするな」
「はい」
四人は青年を安全な場所まで運び、村へ向かって走り出した。
西の山を越える。
そこには小さな村があった。
だが――
「……静かすぎる」
レティシアが呟く。
家は並んでいる。
畑もある。
それなのに、人の気配がない。
「誰もいない……」
エリスが周囲を見る。
キラは剣に手をかけた。
「警戒しよう」
村の中央まで進んだ時。
カラン……
足元に、小さな金属片が転がってきた。
「これは……」
キラが拾い上げる。
黒い紋章が刻まれた、小さな札だった。
「やっぱり、ここに来てる」
その瞬間。
――ドンッ!!
村の奥から爆発音が響いた。
「行くぞ!」
キラたちが走る。
たどり着いた先には、村人たちが集められていた。
そして、その前に――
黒き紋章の男が立っていた。
「またお前か!」
キラが剣を抜く。
男は振り返る。
「早かったな」
「村の人たちを放せ!」
「断る」
男の手には、あの白い欠片が握られていた。
「この村には、器を作るために必要なものがある」
「何をするつもり?」
ルナが前に出る。
男はルナを見る。
「お前自身が一番よく分かっているだろう」
「……分かりません」
「ならば、思い出させてやろう」
白い欠片が光る。
「やめて!」
ルナの胸の紋章が反応する。
青白い光が広がった。
「ルナ!」
キラが駆け寄る。
だが――
ルナの目の前に、また過去の光景が浮かび上がった。
巨大な白い祭壇。
その前に立つ三人。
剣聖アシュレイン。
大賢者リリー。
弓王リゼッタ。
そして、その三人の後ろに――
幼いルナがいた。
「……私……?」
ルナが驚く。
アシュレインが誰かに向かって叫んでいる。
『この子には手を出させない!』
リリーが魔法を展開する。
『この紋章は、封印の鍵じゃない――』
リゼッタが弓を構える。
『なら、誰がこの子を選んだの?』
そして――
記憶の中の三人が、一斉に振り返る。
その視線の先には、
黒い紋章の男。
「……!」
ルナが目を見開く。
「この人……昔からいた……」
キラも驚く。
「じゃあ、あいつは……」
ルナの記憶の中で、男が口を開く。
『その器は、いずれ完成する』
次の瞬間。
記憶が途切れた。
「……っ!」
ルナが膝をつく。
キラが支える。
「ルナ!」
「大丈夫です……」
ルナは顔を上げた。
そして、男をまっすぐ見つめる。
「あなたは……私が小さい頃から、私を狙っていたんですね」
男は笑った。
「ようやく思い出したか」
キラが剣を構える。
「だったら――」
レティシアも隣に並ぶ。
エリスが矢を番える。
「ここで終わらせる!」
男は不敵に笑う。
「できるものならな」
黒い魔力が村全体を包み込む。
そして――
ルナの胸の青白い紋章が、強く輝き始めた。
「……この力は……」
ルナ自身も知らない力。
それが今、目を覚まそうとしていた。
第118話 終




