116話 器を奪いに
キィィィン!!
キラの剣が最後の黒い糸を捉えた。
「――いけぇぇぇっ!!」
ザンッ!!
黒い糸が、真っ二つに切れた。
その瞬間。
「グォォォォォォッ!!」
白翼の守護者が大きく咆哮した。
「うわっ!」
キラは衝撃で吹き飛ばされる。
「キラ!」
レティシアが駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「……ああ」
キラは立ち上がった。
その目の前で――
守護者の身体から、黒い魔力が一気に噴き出していく。
「黒い霧が……!」
エリスが弓を下ろす。
黒い魔力は守護者から離れ、空へと昇っていく。
「成功です!」
ルナが叫んだ。
「操られていた魔力が……消えていきます!」
「じゃあ、守護者は……」
キラが見上げる。
白翼の守護者は、ゆっくりと翼を広げた。
先ほどまで赤く輝いていた瞳が――
青白い光へ変わっていく。
「……侵入者」
低い声が響く。
キラは剣を構えたまま、警戒する。
だが守護者は攻撃してこない。
「お前たちは……我を倒さなかった」
「……ああ」
「なぜだ?」
キラは少し考えてから答えた。
「お前は敵じゃなかったからだ」
守護者の瞳が揺れる。
「我を……敵ではないと?」
「操られていただけだろ」
キラは剣を下ろした。
「だったら、斬る必要なんてない」
レティシアが隣で微笑む。
「キラらしいわね」
エリスも頷く。
「うん」
その時――
パキッ。
石碑から小さな音がした。
「……!」
ルナが振り返る。
「まだです!」
「何が?」
「封印が……完全には安定していません!」
石碑を見ると、中央に大きな亀裂が残っている。
黒い魔力は消えた。
しかし――
亀裂そのものは消えていない。
「黒き紋章の男が傷つけた部分です」
ルナが石碑に手を触れる。
「このままだと……また壊れてしまいます」
キラは石碑を見る。
「じゃあ、直す方法は?」
ルナは首を横に振った。
「分かりません……」
その瞬間。
「我ならば、知っている」
守護者が口を開いた。
「え?」
全員が守護者を見る。
「この封印は、力によって修復するものではない」
「じゃあ、どうするんだ?」
「守護者だけでは足りぬ」
守護者がキラを見る。
「封印を守ろうとする者の意思が必要だ」
キラは目を見開いた。
「俺たちの……意思?」
「そうだ」
守護者が翼を広げる。
青白い光が石碑へ集まっていく。
ルナも手を添えた。
「私も……」
レティシアが続く。
「私も手伝う」
エリスも石碑へ近づいた。
「もちろん私も」
キラは三人を見る。
そして自分も石碑へ手を置いた。
「……みんなで守る」
その瞬間。
――ドクン。
石碑が強く光った。
青白い光が亀裂を包み込む。
パキ……
パキパキ……
そして――
ヒュゥゥゥン……
亀裂がゆっくりと閉じていった。
石碑の表面に、新たな文字が浮かび上がる。
『西の封印、再封印完了』
「……終わった」
エリスが呟く。
キラも息を吐いた。
「これで……」
だが。
守護者が突然、空を見上げた。
「まだ終わってはいない」
「え?」
キラたちも空を見る。
西の空。
そこに、一瞬だけ黒い光が走った。
守護者が言う。
「黒き紋章を持つ者は、この地を捨てた」
「逃げたってことか?」
「否」
守護者の声が低くなる。
「次なる封印へ向かったのだ」
「……次なる封印」
ルナの顔が青ざめる。
「西でも失敗したから……次は別の場所を狙う」
キラは拳を握った。
「また追いかけるしかないな」
その時。
遠くから、かすかな声が聞こえた。
「……キラ」
ルナだった。
「どうした?」
「今……感じました」
ルナが東の方角を見る。
「黒き核とは違う……でも、封印とも違う」
「何を感じた?」
ルナはしばらく黙っていた。
そして――
「誰かが……助けを求めています」
キラたちの表情が変わった。
西の封印を守ったばかりなのに。
新たな異変が、すでに動き始めていた。
そして山の麓。
黒き紋章の男は、一人歩いていた。
「……二つの封印を守ったか」
男は振り返らずに呟く。
「ならば、次は封印そのものではない」
その手には――
見たことのない、白い欠片が握られていた。
「器を先に奪う」
男の口元が、不気味に歪む。
「……ルナをな」
第116話 終




