114話 西の封印
西の山から響いた轟音。
キラたちは、町へ戻る予定を変更して、そのまま西へ向かっていた。
「……さっきより魔力が強くなってる」
ルナが息を切らしながら言う。
「封印が壊れかけてるのか?」
「はい……。でも、東の時とは少し違います」
「違う?」
「西の封印の中には……何かがいます」
キラは眉をひそめた。
「何かって?」
ルナは首を横に振った。
「分かりません。でも……すごく大きい」
「だったら急ごう」
キラが速度を上げる。
レティシアとエリスも続いた。
やがて森を抜けると、西の山が見えてきた。
「……あれ」
エリスが指差す。
山の中腹。
そこから黒い霧が空へ向かって伸びている。
「黒き紋章の連中……」
レティシアが剣の柄を握る。
キラも剣を抜いた。
「行くぞ」
四人は山道を駆け上がった。
山頂へ近づくにつれて、空気が重くなっていく。
「……っ」
キラの足が止まった。
目の前には巨大な石碑。
その周囲には、黒いローブを着た者たちが何人も立っていた。
そして――
「来たか」
中央にいた男が振り返る。
東の石碑で見た、黒き紋章の男だった。
「お前……!」
キラが剣を構える。
男は笑う。
「東の封印を守った程度で、勝ったつもりか?」
「勝ったなんて思ってない」
キラは一歩前へ出る。
「だから今度も止めに来た」
「……面白い」
男が手を上げる。
「ならば、お前たちの力を見せてもらおう」
「来るよ!」
エリスが叫ぶ。
黒い霧が地面から噴き出した。
「《ウィンドシールド》!」
キラの前に風の壁が生まれる。
ドンッ!!
黒い魔力がぶつかる。
「ぐっ……!」
キラが踏ん張る。
その隙に、黒い獣が飛び出した。
「レティシア!」
「分かってる!」
レティシアが迎え撃つ。
ガキィン!
爪と剣がぶつかる。
「このっ!」
レティシアは一歩引いて攻撃をかわす。
次の瞬間、獣の懐へ踏み込んだ。
「――そこ!」
斬撃が走る。
だが、獣は身体をひねって避けた。
「速い……!」
「エリス!」
「任せて!」
ヒュンッ!
矢が獣の足元へ突き刺さる。
動きが止まった瞬間。
レティシアが再び踏み込む。
「はあっ!」
今度こそ、黒い紋章を斬り裂いた。
獣から黒い霧が抜けていく。
「よし!」
その一方。
キラの前にも二体の獣が迫っていた。
「二体同時か……!」
キラは剣を構える。
一体目の爪を受け流す。
二体目の攻撃を横へ跳んでかわす。
「今だ!」
キラは剣に魔力をまとわせる。
「――《フレイムスパイラル》!」
炎が螺旋を描きながら剣へ絡みつく。
キラはそのまま一気に踏み込んだ。
「はああっ!」
斬撃と炎の螺旋が同時に走る。
二体の獣が吹き飛んだ。
「今の、かなりうまくなってる!」
エリスが声を上げる。
「まだ改良できそうだけどな!」
キラは息を整える。
だが――
「……待って」
ルナの声。
全員が振り返る。
ルナは石碑を見つめていた。
「この封印……」
「どうした?」
「東の封印とは違います」
ルナが石碑へ近づく。
「東は、何かを閉じ込めていました」
そして石碑に手を触れる。
「でもここは――」
ドクン。
石碑が震えた。
「……何かを守っています」
「守ってる?」
キラが聞き返した瞬間。
石碑の奥から巨大な音が響いた。
――ゴゴゴゴゴ……。
地面が揺れる。
「何だ!?」
亀裂が一気に広がっていく。
そして。
石碑の中央がゆっくりと開いた。
その奥から現れたのは――
巨大な白い翼。
「……翼?」
エリスが呟く。
だが、その翼には無数の傷が刻まれていた。
そして白い翼の奥から、
巨大な瞳が開く。
「……人間……」
低い声が山全体に響いた。
キラは剣を構える。
「お前は……何なんだ?」
巨大な存在は、ゆっくりとキラを見る。
「我は……この封印を守る者」
「守る者……?」
ルナが驚く。
すると黒き紋章の男が笑った。
「そうだ」
男は石碑へ手を伸ばす。
「こいつこそ、西の封印を守る最後の守護者」
「だったら、なんでお前が起こした!」
キラが叫ぶ。
男は答えた。
「守護者を操れば、封印を壊すこともできる」
「……!」
キラの表情が険しくなる。
「また同じことを……!」
東の時と同じ。
守るために存在するものを、無理やり敵に変えている。
キラは剣を握り直した。
「レティシア、エリス」
「分かってる」
「うん」
キラは巨大な白い翼を見上げる。
「こいつを倒すんじゃない」
「じゃあ、どうするの?」
レティシアが尋ねる。
キラは答えた。
「――助ける」
その瞬間。
守護者の巨大な瞳が赤く輝いた。
「侵入者……排除する」
ズンッ!!
巨大な翼が振り下ろされる。
キラたちは、とっさに散開した。
西の封印を巡る戦いが――
始まった。
第114話 終




