110話 戦わない戦い
「――来る!」
キラが叫んだ。
守護者が地面を蹴る。
巨体からは想像できないほどの速さだった。
「キラ!」
レティシアが横から斬り込む。
――ガキィン!!
守護者の爪と剣がぶつかる。
レティシアはそのまま押し込まれる。
「くっ……!」
「レティシア!」
キラが走る。
守護者が腕を振り上げた。
「させない!」
キラは剣を振り抜く。
――ズバッ!
守護者の腕に傷が入る。
だが、すぐに黒い霧が傷口を覆った。
「やっぱり再生するか……!」
「キラ、右!」
エリスの声。
キラが反射的に横へ跳ぶ。
直後、巨大な爪が目の前を通過した。
「危なっ……!」
「動きは分かってきた!」
エリスが弓を構える。
「私が足を狙う!」
――ヒュン!
う
矢が飛ぶ。
守護者の脚へ突き刺さった。
「今!」
レティシアが踏み込む。
「はぁっ!」
――ズン!!
剣が守護者の脚を斬りつける。
守護者が体勢を崩した。
「キラ!」
「任せろ!」
キラが一気に距離を詰める。
「《フレイムスパイラル》!」
炎の渦が剣の軌道に沿って巻きつく。
――ゴォォッ!!
キラはそのまま斬り抜けた。
守護者の胸元に大きな傷が走る。
「効いた!」
しかし――
守護者は倒れなかった。
むしろ、さらに激しく咆哮する。
「グォォォォォッ!!」
黒い魔力が周囲に広がる。
「まずい!」
ルナが叫んだ。
「石碑が!」
キラが振り返る。
守護者が暴れたことで、石碑の亀裂がさらに広がっている。
「攻撃しすぎると封印が壊れる……!」
キラは剣を下ろしかける。
「じゃあ、どうするんだ?」
ルナは必死に魔法陣を抑えていた。
「守護者を倒してはいけません!」
「でも、止めないと……!」
「守護者が攻撃している理由を考えてください!」
キラは守護者を見る。
守護者は何度もこちらへ襲いかかってくる。
しかし――
そのたびに、必ず石碑の前へ戻っている。
「……守ってる」
キラが呟いた。
「そうです!」
ルナが頷く。
「この守護者は、封印を守るために存在しています!」
「なら……」
キラは周囲を見る。
「守護者が俺たちを敵だと思わなければいい」
レティシアが驚く。
「そんなことできるの?」
「分からない」
キラは笑った。
「でも、やってみる」
キラは剣を構える。
ただし、今度は攻撃の構えではない。
守護者の動きを待つ。
「キラ?」
「俺が守護者の攻撃を受ける」
「危険すぎる!」
レティシアが叫ぶ。
「大丈夫」
「大丈夫じゃない!」
「レティシア」
キラは真剣な目で言った。
「こいつは俺たちを殺したいんじゃない」
「……」
「だったら、俺たちが敵じゃないって分からせる」
守護者が咆哮する。
そして――
突進。
「来い!」
キラが構える。
巨大な爪が振り下ろされた。
――ガァン!!
キラの剣が爪を受け止める。
「ぐっ……!」
腕が痺れる。
足が後ろへ滑る。
それでも――
キラは斬らなかった。
「俺たちは……」
さらに力を込める。
「お前の敵じゃない!」
守護者が唸る。
もう一度、爪を振り上げる。
「キラ!」
レティシアが叫ぶ。
キラは避けなかった。
剣の腹で攻撃を受け流す。
――ガキン!
そして、そのまま守護者の横へ回り込む。
「俺たちも、守る!」
守護者の動きが止まった。
「……?」
黒い目がキラを見る。
キラは剣を地面へ突き立てた。
「この封印を壊させない」
沈黙。
すると――
守護者の身体を覆っていた黒い霧が、少しずつ薄くなっていく。
「……効いてる?」
エリスが呟く。
ルナも目を見開いた。
「守護者が……理解している」
その瞬間。
「そんな馬鹿な!」
黒い外套の男が叫んだ。
「止めろ!」
男が魔力を放つ。
黒い光が守護者へ飛んでいく。
「させるか!」
エリスの矢が黒い光を撃ち抜いた。
――バシュッ!
「何!?」
男が驚く。
「エリス!」
「今度は外さないよ!」
レティシアも走る。
「キラ、あいつは私たちが抑える!」
「分かった!」
レティシアが男へ向かう。
男が黒い魔法を放つ。
――ドン!
レティシアは横へ飛び、魔法をかわす。
「遅い!」
一気に間合いを詰める。
――キィン!
男の短剣とレティシアの剣がぶつかった。
「……!」
「あなたたちには、ルナを渡さない!」
二人の刃が激しく交差する。
その間に。
キラは守護者と向き合っていた。
守護者の黒い霧は、もうほとんど消えている。
そして――
守護者がゆっくりと片膝をついた。
「……!」
ルナが息を呑む。
「封印を守る意思が……戻っています」
キラは剣を握り直す。
「よし……!」
だが。
石碑から――
「……まだだ」
ルナの顔が強張った。
「何?」
「封印そのものが……限界です」
――パキッ。
石碑に新たな亀裂が走る。
キラたちは凍りつく。
そして石碑の奥から。
あの巨大な黒い目が、再び開いた。
『――久しいな』
低い声が山頂を揺らす。
ルナの顔から血の気が引いた。
「……この声」
キラが振り返る。
「知ってるのか?」
ルナは震えながら答えた。
「はい……」
「昔、私がこの声を聞いたとき――」
ルナは目を閉じる。
「アシュレインたちは、私を逃がしたんです」
キラは目を見開いた。
そして石碑の向こうから――
巨大な何かの腕が、ゆっくりと伸びてきた。
第110話 終




