109話 封印の守護者
「さあ――古き封印を、終わらせよう」
黒い外套の男が手を上げる。
石碑の亀裂から伸びた巨大な黒い腕が、さらに外へ出ようとしていた。
「させるか!」
キラが駆け出す。
「キラ!」
レティシアも続く。
エリスは少し後ろへ下がり、弓を構えた。
「援護する!」
「頼む!」
キラが地面を蹴る。
黒い腕が振り下ろされた。
――ドォン!!
地面が砕ける。
キラは横へ跳んでかわした。
「速い……!」
すぐさま剣を振る。
――ガキィン!
刀身が黒い腕にぶつかった。
「硬っ……!」
斬れない。
キラは距離を取る。
「《ウィンドバレット》!」
風の弾丸が黒い腕へ直撃する。
――バシュン!
しかし、わずかに表面を削っただけだった。
「効いてない……!」
「なら、私が!」
レティシアが踏み込む。
黒い腕が横薙ぎに振られる。
「っ!」
レティシアは身を低くしてかわす。
そのまま腕の懐へ入り込み――
「はぁっ!」
――ズバッ!
剣が黒い腕を切り裂いた。
「斬れた!」
だが――
「……!」
切り裂いた場所から、黒い霧が噴き出す。
そして傷口が、ゆっくりと塞がっていく。
「再生するの!?」
エリスが驚く。
「普通の攻撃じゃ駄目だ!」
キラは剣を握り直す。
そのとき。
ルナが石碑へ駆け寄った。
「待ってください!」
「ルナ!?」
「この腕は、封印を壊そうとしているんじゃありません!」
キラが振り返る。
「どういうことだ?」
「封印の中にいるものが……外へ出ようとしているんです!」
「じゃあ、あの黒い腕は――」
「封印の一部です!」
「……何?」
ルナは石碑に手を当てる。
青白い光が広がった。
「この封印は、何かを閉じ込めるためだけのものじゃない」
「じゃあ何のために?」
「抑えるためです」
ルナの声が震える。
「中にいるものの力を、少しずつ抑えている……」
キラは石碑を見る。
ならば――
「黒い紋章の連中が封印を壊しているのは、中のものを出すためじゃない」
「はい」
ルナが頷く。
「力を利用するためです」
黒い外套の男が笑った。
「ようやく理解したか」
キラが睨む。
「お前たちは、あれを利用するつもりなのか」
「その通りだ」
男は石碑へ手を向ける。
「古代の力を手に入れれば、この世界の力関係は変わる」
「そんなことのために、ルナまで利用するのか!」
「彼女は鍵だ」
男の視線がルナへ向く。
「そして、この封印を開くために必要な存在でもある」
「……!」
ルナが後ずさる。
キラがすぐに前へ出た。
「ルナには触れさせない」
「ならば――」
男が指を鳴らす。
――ドン!!
地面から黒い魔力が噴き上がった。
「こいつを倒してみろ」
石碑の前に、巨大な影が立ち上がる。
黒い霧が集まり、獣のような姿へ変わっていく。
二本の角。
巨大な腕。
鋭い爪。
「……また魔物?」
エリスが矢をつがえる。
ルナが首を横に振った。
「違います」
「じゃあ、何?」
「……守護者です」
黒い獣が咆哮する。
――グォォォォォッ!!
その衝撃だけで、周囲の木々が大きく揺れた。
レティシアが剣を構える。
「守護者なら――」
キラも剣を構えた。
「倒せばいい!」
「待って!」
ルナが叫ぶ。
「違います!」
キラが止まる。
「守護者は敵じゃありません!」
「でも、襲ってきてるぞ!」
「封印を守っているだけです!」
ルナは石碑を見る。
「私たちが攻撃すれば……」
――パキッ。
石碑の亀裂が広がった。
「……封印が、もっと壊れます」
キラは息を呑んだ。
「じゃあ、戦えない?」
「倒すんじゃなくて……」
ルナが守護者を見る。
「止める必要があります」
その瞬間。
守護者がキラへ突進した。
「キラ!」
キラは剣を構える。
――ガァン!!
巨大な爪を受け止めた。
「ぐっ……!」
足が地面にめり込む。
「重い……!」
レティシアが横から斬り込む。
「キラ、下がって!」
――ガキン!
守護者の腕を弾く。
エリスの矢が飛ぶ。
――ヒュン!
矢は守護者の肩へ突き刺さった。
だが、守護者は止まらない。
「こいつ……!」
キラは守護者の動きを見る。
ただ暴れているわけじゃない。
石碑から離れようとしない。
攻撃も、石碑を守るように動いている。
「……そういうことか」
キラが呟く。
「何?」
レティシアが尋ねる。
「こいつは俺たちを倒したいんじゃない」
キラは守護者の動きを見つめる。
「封印を守ってるんだ」
そして――
黒い外套の男が、静かに笑った。
「気づいたところで、もう遅い」
石碑の亀裂が大きく開く。
その奥から――
巨大な黒い目が、ゆっくりと開いた。
ルナが青ざめる。
「……目が、開いた」
キラは剣を握り直した。
「まだ間に合う」
「キラ?」
「封印を壊させなければいい」
キラはレティシアとエリスを見る。
「二人とも、あいつを止めるぞ」
レティシアが頷く。
「分かった!」
エリスも矢をつがえる。
「任せて!」
そしてルナは、石碑へ手を当てた。
「私も……封印を支えます!」
四人の反撃が始まった。
第109話 終




