104話 1本の剣
「――やっと来たか」
遺跡の奥から響いた声。
キラは剣を構えたまま、入口を睨む。
「誰だ!」
返事はない。
ただ、遺跡の中で足音が響いた。
――コツ。
――コツ。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
レティシアがキラの隣に並んだ。
「罠かもしれない」
「ああ」
エリスも弓を構える。
「でも、あの声……」
「知っているのか?」
キラが尋ねると、エリスは首を横に振った。
「知らない。でも、嫌な感じがする」
ルナは遺跡を見つめたまま動かなかった。
「……この場所、知ってる」
「え?」
キラが振り返る。
「昔……来たことがあります」
「本当に?」
「はい。でも、記憶が途中で途切れていて……」
ルナは頭を押さえた。
「ここで……誰かと戦った」
その瞬間。
――ズキン。
「っ……!」
ルナの膝が崩れた。
「ルナ!」
キラが支える。
すると、ルナの頭の中に映像が流れ込んできた。
燃える遺跡。
黒い霧。
そして――
三人の姿。
金色の髪の男。
水色の髪の少女。
オレンジ色の髪の女性。
「アシュレイン……」
ルナが呟く。
「リリー……リゼッタ……」
かつて自分を守ってくれた三人。
その三人が、目の前にある遺跡で戦っていた。
「ここで……三人が何かを封じていた」
キラは黙って話を聞いていた。
「黒き核を?」
「違います」
ルナは首を横に振る。
「黒き核は……もっと別の場所にありました」
「じゃあ、この遺跡には何が?」
その問いに。
遺跡の奥から声が返ってきた。
「――知りたいか?」
全員が構える。
闇の中から、一人の男が姿を現した。
黒い外套。
胸元には、あの黒い紋章。
「またお前たちか……!」
キラの目が鋭くなる。
男は微笑んだ。
「ルナを連れてここまで来るとは、思ったより早かったな」
レティシアが一歩前に出る。
「ルナをどうするつもり?」
「どうする?」
男は肩をすくめた。
「彼女は我々にとって重要な存在だ」
「器にするつもりだろ」
キラが言い切る。
男の笑みが消えた。
「……よく知っているな」
「お前たちがそう言っていたからな」
キラは剣を握る。
「ルナには絶対に手を出させない」
「威勢がいい」
男が手を上げる。
すると――
遺跡の壁に刻まれていた黒い紋章が、一斉に光った。
「なっ……!」
エリスが後ろへ跳ぶ。
地面から黒い魔力が噴き出す。
キラはすぐにルナの前へ移動した。
「《ウィンドシールド》!」
――ゴォン!
風の壁が展開され、黒い衝撃波を受け止める。
「キラ!」
「大丈夫!」
キラは剣を構え直す。
だが、男は攻撃してこなかった。
「試しただけだ」
「試した?」
「お前たちが、どこまで成長したのかをな」
キラの眉が動く。
「……俺たちを知ってるのか?」
男は答えない。
代わりに、遺跡の奥を指差した。
「来い」
「何?」
「お前たちが知りたがっているものが、そこにある」
キラは警戒する。
「罠じゃない保証は?」
「もちろん、ない」
男は笑った。
「だが――」
その瞬間。
男の姿が黒い霧へと変わった。
「お前たちは、いずれここへ来ることになる」
「待て!」
キラが駆け出す。
だが、霧はすでに消えていた。
「逃げられた……」
レティシアが周囲を見回す。
エリスは弓を下ろさない。
「どうする?」
キラは遺跡の奥を見る。
そこには巨大な扉があった。
扉には三つの紋章。
剣。
魔法。
弓。
キラは目を見開いた。
「これ……」
ルナが呟く。
「アシュレインたちの……」
三人の英雄を示す紋章だった。
そして中央には、もう一つ。
見たことのない紋章が刻まれている。
それは――
黒き紋章とは正反対の、白い紋章だった。
キラは剣を握り直した。
「……行こう」
レティシアが頷く。
「ええ」
エリスも続く。
「何が待っていてもね」
ルナは扉を見つめた。
そして、ほんの少し震えながら言った。
「この先に……私の失われた記憶があります」
四人は巨大な扉の前に立った。
キラが手を伸ばす。
――ギィィィィ……。
古代の扉が、ゆっくりと開き始めた。
その向こうから現れたのは――
巨大な地下空間だった。
そして、その中央には。
一本の剣が、台座に突き刺さっていた。
第104話 終




