102話 まだ何かが。
――グォォォォォッ!!
巨大な魔物の咆哮が森を揺らした。
木々の間から現れたのは、全身を厚い毛皮に覆われた四足の魔物。
額には一本の角。
そして胸元には、あの黒い紋様が浮かんでいる。
「大きい……」
エリスが弓を構える。
「俺が前に出る!」
俺は剣を抜いた。
魔法だけじゃない。
近づかれたなら、剣で戦う。
「キラ、無茶しないで!」
レティシアが叫ぶ。
「分かってる!」
---
魔物が地面を蹴った。
――ドドドドッ!!
ものすごい勢いで迫ってくる。
「速い!」
俺は横へ飛ぶ。
直後、魔物の角が俺のいた場所をえぐった。
「くっ!」
身体をひねりながら着地。
そのまま踏み込む。
「はぁっ!」
――ザシュッ!
剣が魔物の脇腹を斬り裂く。
だが――浅い。
「硬い……!」
魔物が振り返る。
巨大な爪が迫る。
俺は剣を横に構えた。
――ガキィン!
「ぐっ……!」
衝撃で腕が痺れる。
そのまま押し込まれる。
「キラ!」
レティシアが飛び込んできた。
「下がって!」
――ザンッ!
レティシアの剣が魔物の前脚を斬りつける。
魔物が一瞬怯んだ。
「助かった!」
「今のうち!」
---
俺とレティシアは左右に分かれる。
魔物が俺を見る。
「こっちだ!」
俺が駆ける。
魔物が爪を振る。
剣で受け流す。
――ガキン!
続けて二撃目。
――ザンッ!
今度は肩を斬る。
魔物が咆哮する。
「そこ!」
レティシアが背後から斬り込む。
――ザシュッ!
「効いてる!」
エリスが叫ぶ。
「二人とも、右!」
俺たちは同時に飛び退く。
魔物の爪が目の前を通過した。
「エリス!」
「はい!」
――シュッ!
一本の矢が飛ぶ。
矢は魔物の目のすぐ横へ突き刺さった。
魔物が怯む。
「今だ!」
---
俺は剣を握ったまま走る。
魔力を右手へ集める。
炎を剣へ纏わせる。
「――いける!」
魔物の懐へ入り込む。
「はぁぁぁっ!」
――ザンッ!!
炎を纏った斬撃が、魔物の胸を斜めに切り裂いた。
黒い紋様が揺らぐ。
「やった!」
しかし――
魔物はまだ倒れない。
「まだだ!」
黒い紋様が光る。
傷口から黒い魔力が溢れ出した。
「また強くなる……!」
レティシアが構える。
「なら、もう一度!」
---
俺は剣を一度収める。
「二人とも、少し下がって!」
「分かった!」
レティシアとエリスが距離を取る。
俺は杖を取り出した。
炎が周囲に集まっていく。
「これで終わらせる!」
炎が渦を巻く。
「《フレイムスパイラル》!!」
――ゴォォォォォッ!!
巨大な炎の渦が魔物を包み込む。
魔物が必死に耐える。
黒い紋様が激しく明滅する。
「まだ倒れない!」
俺は再び剣を抜いた。
「だったら――」
炎の中へ飛び込む。
「これで!」
――ザァンッ!!
魔物の胸元。
黒い紋様を真っ二つに斬り裂いた。
魔物の動きが止まる。
そして――
ズズンッ!!
巨大な身体が地面へ倒れた。
---
倒れた魔物から、黒い霧がゆっくりと抜けていく。
その霧は、やがて空へ消えていった。
「……今の黒いもの」
エリスが呟く。
「魔物そのものじゃなかった」
俺は頷く。
「たぶん、あの紋様が魔物を強化していた」
レティシアが倒れた魔物を見る。
「じゃあ、この魔物も被害者なのかな」
「……そうかもしれない」
ルナが静かに近づく。
「この子は、自分の意思で戦っていたわけじゃありません」
「分かるの?」
「黒い魔力がなくなったから……」
ルナは悲しそうに魔物を見る。
「もう、苦しくないと思います」
---
俺は自分の剣を見る。
さっきの一撃。
魔法だけじゃなく、剣と魔力を組み合わせて攻撃した。
以前なら思いつかなかった戦い方だ。
「キラ」
レティシアが笑う。
「今の剣、結構よかったよ」
「本当?」
「うん。ちゃんと剣士みたいだった」
「俺、一応剣も使うからね」
「一応なんだ」
三人で笑う。
でも――
俺は分かっていた。
まだまだ剣の技術は足りない。
もっと速く。
もっと強く。
もっと自由に剣と魔法を使えるようになりたい。
その先に――
アシュレインのような強さがあるのかもしれない。
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ルナが突然立ち止まった。
「……待って」
「どうした?」
「この先に……」
森の奥を見る。
「黒き核じゃない」
ルナの顔が険しくなる。
「でも、もっと大きな魔力があります」
俺たちは顔を見合わせる。
依頼は終わった。
なのに――
この森には、まだ何かがいる。
第102話 終




