99話 再会
翌日の昼。
俺たちは、ようやく王都の外壁を目にした。
「……大きい」
エリスが思わず呟く。
高い城壁。
巨大な門。
その向こうには、今まで見たことのないほど大きな街が広がっている。
「これが王都か……」
俺も思わず見上げた。
冒険者として旅を始めてから、それなりに遠くまで来た。
でも、ここは今までとは明らかに違う。
「まずはギルドへ行こう」
「うん」
レティシアが頷く。
ルナは少し緊張した様子で、俺たちの後ろを歩いていた。
---
王都のギルドは、今まで利用してきたギルドとは比べ物にならないほど大きかった。
「ここが……」
レティシアが入口を見上げる。
「冒険者、多いね」
中には様々な装備をした冒険者がいる。
剣士。
魔法使い。
弓使い。
中には、俺たちよりずっと強そうな冒険者もいた。
「俺たち、まだまだだな」
思わず呟く。
「そうかな?」
レティシアが笑う。
「だからこそ面白いんじゃない?」
その言葉に、俺も笑った。
---
受付で事情を説明すると、すぐに奥の部屋へ案内された。
「こちらで少々お待ちください」
現れたのは、魔導士らしき男性だった。
「黒き核と繋がっている少女……」
ルナを見る。
「本当に?」
「はい」
ルナは静かに頷く。
魔導士は慎重に魔力を探る。
そして――
「……これは」
顔色が変わった。
「何か分かりましたか?」
「非常に特殊な魔力構造です」
魔導士はルナから少し距離を取った。
「この子の魔力そのものに、古代魔法の痕跡がある」
「古代魔法?」
俺が聞き返す。
「はい」
魔導士は頷く。
「しかも、かなり高度なものです」
---
魔導士は棚から古い本を取り出した。
「これは王都でもほとんど知られていない記録です」
本を開く。
そこには――
黒き核について書かれていた。
「やっぱり……」
俺たちは身を乗り出す。
「黒き核は、魔物を強化するためだけのものではありません」
魔導士が説明する。
「古代に存在した、とある封印魔法の一部です」
「封印魔法……」
ルナが呟く。
魔導士はページをめくる。
「そして、その封印を維持するために――」
そこで手が止まった。
「『器』が必要だったと記されています」
全員がルナを見る。
---
そのとき。
部屋の扉が開いた。
「その記録、私にも見せて」
静かな女性の声。
俺たちが振り返る。
水色の髪。
そして、綺麗に揃った前髪。
女性はゆっくりと部屋へ入ってきた。
俺はその姿を見た瞬間――
どこかで見たような気がした。
「あなたは……?」
女性は答えず、ルナを見る。
そして目を見開いた。
「……ルナ?」
ルナも驚いている。
「どうして……その名前を?」
女性は小さく息を吐いた。
「やっぱり、あなたなのね」
俺の胸が高鳴る。
「まさか……」
女性は俺たちを見る。
「私は――」
そして、静かに名乗った。
「リリー」
---
ルナの目に涙が浮かぶ。
「……リリー」
その名前を聞いた瞬間。
ルナの中で何かが弾けた。
「……知ってる」
頭を押さえる。
「この人を……私は知ってる」
「無理しないで!」
俺が支える。
リリーは静かにルナを見つめていた。
「長い間、探していたの」
「私を?」
「ええ」
リリーは頷く。
「アシュレインも、リゼッタもずっと探していた」
俺は息を呑んだ。
「二人も……生きてるんですか?」
「もちろん」
リリーが少し笑う。
「ただ――」
その表情が険しくなる。
「今は、あなたたちに会わせるわけにはいかない」
「どうして?」
レティシアが尋ねる。
リリーは俺を見る。
「あなたたちは、まだ知らないことが多すぎる」
---
「黒き核は敵ではない」
リリーは黒い結晶の記録を閉じた。
「一つだけ、覚えておいて」
「何を?」
「黒き核そのものを敵だと思わないこと」
俺は黙って聞く。
「本当に恐ろしいのは、それを利用している者たち」
リリーの目が鋭くなる。
「そして――」
彼女はルナを見る。
「ルナを『器』として利用しようとしている者たちよ」
部屋が静まり返る。
「あなたたちが王都へ来たことは、もう敵にも知られているでしょう」
俺は杖を握る。
「だったら――」
リリーを見る。
「俺たちも戦います」
リリーはしばらく俺を見つめた。
そして――
「……そう」
小さく笑った。
「その目なら、いつか――」
言葉を止める。
「いいえ。まだ早いわね」
「え?」
「あなたたちには、まだ越えなければならない壁がある」
その言葉が、妙に心に残った。
---
その夜。
王都の外。
一人の男が黒い魔石を握り潰した。
「大賢者リリーが動いたか」
黒い魔力が溢れる。
「ならば――」
男は王都を見上げる。
「計画を早める必要がある」
そして闇の中へ消えていった。
第99話 終




