表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

捨てられた婚約指輪の持ち主を探します

 午後、窓口に古い婚約指輪が届いた。


 差出人不明。箱には「もう要らない」とだけ書かれている。


 ノエルは指輪の内側を見た。刻印は削られているが、台帳番号が残っている。


「十年前の王宮登録品です」


 シルヴァンが記録を取り寄せると、指輪はある子爵令嬢のものだった。だが彼女はすでに修道院へ送られ、婚約破棄の記録もない。


「返却されないまま、誰かが持っていた」


「つまり、婚約破棄すら正式に処理されていない」


 物には持ち主がいる。


 そして、名誉にも持ち主がいる。


 ノエルは返却通知を書いた。


『あなたのものが、王宮に届いています』


 翌日、年若い修道女が窓口に現れた。


 彼女は指輪を見て、泣いた。


「捨てられたのは、わたしではなかったのですね」


 ノエルは静かに答える。


「少なくとも、記録はそう言っています」


 修道女の名はエマ。十年前、婚約者に突然捨てられたとされ、実家からも責められたという。


「指輪を返さなかったから、わたしが契約を破ったことになったのです」


 シルヴァンが古い受領書を机に並べる。


「受領印がありません。誰かが指輪を隠し、返却不能のまま処理した」


 ノエルは新しい申請書を出した。


「返却だけでは足りません。未処理の婚約登録を訂正します」


 エマは震える指で署名した。


 十年前に失くしたのは、指輪ではない。

 自分が悪くなかったという記録だ。


 窓の外を見て、シルヴァンが言う。


「この窓口は、思ったより忙しくなりそうですね」


 ノエルは台帳を閉じる。


「返すべきものが多すぎますから」

読んでくださってありがとうございます。面白かったら評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ