返せない贈り物には、理由があります
王子は声を荒げた。
「ノエルが返したくないだけだ」
「返せない理由は三つあります」
ノエルは台帳を指でなぞる。
「一つ目、所有権がわたしにない。二つ目、返却申請者が所有者ではない。三つ目、王宮備品を私物化している疑いがある」
窓口に沈黙が落ちた。
リリアが小さく尋ねる。
「では、わたくしが身につけているものも……?」
「確認しましょう」
彼女の耳飾りは、王宮儀礼室の貸与品だった。首元の宝石は、国賓接遇用の装飾品。愛の証だと告げられていたものは、どれも返却期限つきの品だった。
「知らなかったのです」
リリアの声は震えていた。
ノエルは申請書を一枚差し出す。
「知った今、返せばいいのです」
王子が顔を赤くする。
「余計なことを」
そこで初めて、シルヴァンが口を開いた。
「余計ではありません。返却窓口は、王宮の信用を守る最後の棚です」
ノエルはその言葉を、少しだけ胸にしまった。
リリアは耳飾りを外し、両手で申請書の上に置く。
「わたくし、返します。受け取ってはいけないものだと知りませんでした」
「返却理由は、所有者誤認。悪意なし。証言あり」
ノエルが書き込むと、リリアの肩から力が抜けた。
一方で、王子の顔色は悪くなる。
知らなかった者は返せる。
知っていて渡した者は、返すだけでは済まない。
シルヴァンが王子の前に立つ。
「殿下。次は、貸与記録を誰が改ざんしたかを確認します」
ノエルは台帳を閉じなかった。
返せない贈り物には、必ず理由がある。
そして理由は、嘘より長く記録に残る。
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