返却窓口に届いたのは、王子の嘘でした
「君に贈ったものを、すべて返してもらう」
婚約破棄の翌朝、第一王子は王宮返却窓口に箱を積み上げた。
窓口係のノエルは、制服の襟を整え、台帳を開く。
「返却申請を受理します。品目、贈与日、所有権移転の有無を確認いたします」
「まだそんな地味な言葉を使うのか。君はもう婚約者ではない。ただの窓口係だ」
「はい。ですので、規則通りに処理できます」
最初の箱には真珠の首飾り。王子は勝ち誇ったが、台帳には王妃からノエルへの成年祝いとある。
二つ目は舞踏会用の扇。これはノエルの実家が外交費で購入したもの。
三つ目の金細工だけが、王子名義だった。
ただし、備考欄に赤い印がついている。
「こちらは王宮備品です。個人への贈与はできません」
王子の新しい恋人リリアが、隣で息を呑んだ。
「わたくし、それを殿下からいただきました」
ノエルは静かに頷く。
「では返却先は、わたしではなく王宮金庫です」
王子が机を叩いた。
「そんな記録ひとつで、私を嘘つきにするつもりか」
「記録ひとつではありません。申請者、所有者、保管者、返却先。この四つが揃わない品は、窓口では動かせません」
背後で、王室監査官シルヴァンの羽根ペンが走る音がした。
「殿下。王宮備品の私的流用として、確認対象にします」
「監査官まで呼んでいたのか」
「窓口に監査官がいるのは、返せないものが出た時のためです」
ノエルは金細工の箱へ、赤い保留札を貼った。
返却窓口は、物を戻す場所だ。
けれど時々、嘘まで持ち込まれる。
今日最初に返るべきものは、婚約者の贈り物ではなく、王宮の信用だった。
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