表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/35

第三十三話 決意の音

〜前回のあらすじ〜


ナギサノユラギの演奏は、確かな反響を呼んでいた。


その中で藤井楓は、二年前に立ったステージを思い出していた。


出番を終えた隆志の元へ現れた、源馬という青年。彼は白田の父の教え子で、かつて貴子に栄治郎の不正を伝えてくれた『竹島』だった。

久しぶりの再会に、彼らは何を語るのか。


昼休みになり、それぞれが午後の部へ準備を進める中、菫はVIPルームへと呼び出される。


そこにいたのは、貴子の叔父——金村栄治郎。

なんと菫は、彼の隠し子で、不倫した秘書との間に産まれた娘だった…!


 時は進み、午後の部へ。


 ステージ上では、ベースボーカル藤井楓が甘い誘惑のハスキーボイスで、ライブホールを埋め尽くしていく。

 ギターの平沢とキーボードの小塚原、そしてドラムの家田の四人の作るキャッチーなグルーヴが、食後の眠気を吹き飛ばしていく。


 その中で、出番を控える香織たちは、舞台袖へと向かっていた。


「…菫。お客さんって誰だったの?」


 様子を気にしていた香織と雪穂が、菫の顔を覗く。


「…別に、大した人じゃないわよ」


 菫は何事もなかったかのように冷静を保つ。

 バッサリと切られたボブヘアーが、奮い立たせるように揺れた。


「しかしさ、アタシらの出番も早かったねぇ」


 智子は自信満々に胸を張って笑っている。


「ほんそれ!ウチマジ緊張やばい」


 美羽は結衣から貰ったお守りを握りしめる。


「美羽のは絶対嘘だろ」

「ほんとだし!ゆきゆきマジひど〜!!」


 美羽と雪穂のやり取りに、空気が少しずつ和んでいく。いつでも場を動かすのは、大体美羽か智子だった。

 香織はこれまでの日々を思い出しながら、五人の中心を歩いていた。ステージからのバンドサウンドにも、華やかさが増していく。


 しばらく歩いていると、昼休みから戻ってくる五人の影があった。


 隆志たちだ。

 さっきまで間近で感じた熱気が、はっきりと蘇った。


 香織たちは足を止める。

 少しだけ、五人に震えが走った。


「…いよいよか。お前ら」


 先に隆志が笑いかける。

 共に過ごした仲間の挑戦が、いよいよ始まる。


「…負けない、から」


 香織は真っ直ぐ、隆志たちの目を見る。

 少し懐かしい空気が、二人の間を通り抜けていく。


「……私も楽しみにしているわ」


 貴子は一歩踏み込み、香織と菫に視線を向ける。

 演奏を見た彼女たちの中で、始まる前のバチバチした炎が内側で蒼く揺れた。


「……吠え面かかせてやるよ」


 雪穂は貴子と隆志にガンを飛ばすが、貴子は表情一つ崩さず笑っている。


「白田のベース。やっぱり何度聞いても震え上がるね〜」

「知らねえよ!聞いてねぇこと喋んなボケ!」


 智子はかったるそうにしている白田へちょっかいをかけるが、簡単にあしらわれる。その反応が尚更面白い。


「ゆうっぺ!!ウチの音マジ鬼聞きよろ〜!」

「音外したら聞かないからね」


 美羽は南へいつものように絡むが、今日はそのやり取りが、別の深い意味があるように感じた。

 菫だけは、四人の様子を俯瞰したように見守ってから好恵に視線を向けた。


「…あなた、ドラムは誰から教わったの?」


 菫の鋭い言葉が、好恵にぶつかる。

 好恵は一瞬躊躇うも、


「…吹奏楽部が、名門でしたので」


 それだけを答えた。


「……そう」


 菫は一度言葉を飲み込むと、もう一度好恵に視線を向ける。


「…あなたのプレイスタイルが、私の先生とよく似ていたので、少し気になったの」


 意味深な会話はそれで終わった。


 ステージの曲が切り替わる。

 近くにいたスタッフが、香織たちへ合図を送る。


「…では、私たちもいきましょうか」

「楽しんでけよ!お前ら」


 香織と雪穂は、小さく頷く。

 美羽と智子は、最後まで大袈裟に手を振っていた。


 菫は一度だけ振り返る。


 好恵へ。

 そして、その隣に立つ貴子へ。


 二人を数秒見つめると、何かを飲み込むように小さく息を吐いた。


「……また、あとで」


 それだけ残し、踵を返す。


 誰に向けた言葉だったのか。

 好恵も、貴子も答えなかった。


 大きな運命を抱えた背中が、

 決意の幕の中へ消えていった。



♫♫♫



 舞台袖。

 ホールの盛り上がりは、想像以上のものだった。


 緞帳が下がりきる最後の瞬間まで豪快に客席を煽る四人の音が、控える五人の五感を刺激する。


 ぞろぞろとハケていく四人。

 名残惜しそうに去る背中が、少しだけ胸を締め付けた。


「…香織。いくよ」


 菫がそっと背中に手を添える。

 自分たちには、自分たちの選んだ居場所と音がある。


 前のバンドから、ずっと一緒に歩んできた菫。

 決別した理由も経緯も違うが、こうしてここまで歩んでくれた。そんな仲間の声が、何よりも温かい。


「ウチもバッチリだよ!!」


 美羽が金髪を揺らしながら、間に顔を挟んで戯れてくる。子どもの頃からリアクションが大袈裟で相槌もくだらないままだけど、困ったときは、持ち前の明るさで不器用なりに慰めてくれた。


「…おい。アタシら忘れてんじゃねぇよ」

「お三方。アタシたちも混ぜたまえ〜」


 雪穂と智子も加わり、気づけば円陣の体制になっている。


 夏祭りの失恋後、わがままで雪穂に電話をかけた。

 深くまで事情を知らないのに、どこまでも親身になってくれた。

 智子は私を慰めるため、バイクで遠くに連れ出してくれた。


 二人がいなかったら、このバンドはきっと成立していない。


 だからこそ、今度は自分の番。


 スタンバイを終え、アコースティックギターにそっと頬を寄せる。

 

 緞帳の向こうでは、何千もの歓声が待っている。香織はゆっくりと目を閉じ、一人の少年の顔を思い浮かべた。


 ——私だけを見てよ。隆志。


 スタッフの合図とともに、緞帳がゆっくりと上がっていく。


 夢に見た大歓声が広がる。

 香織は深く息を吸い、大きな決意を音に込めた。


 その音は、まだ誰も知らない未来へ鳴り響く。

 



 ♫♫♫  第一部 完  ♫♫♫


 第二部へ続く




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 第二部予告


隆志たちのステージは、無事に終幕。


大会全体に大きな爪痕を残した五人の音は、

午後の部のハードルを、確実に引き上げた。


そして、少しずつ明かされる、それぞれの過去。


白田と竹島に繋がる、父との絆。

菫と栄治郎の確執。

香織と菫が決別した、本当の理由。

好恵が強さに秘められた過去。


そして——


啓一が最後まで守りたかったものとは。


新たなライバル・藤井楓。

香織たちの運命を懸けたステージ。

優勝者が決まる、その瞬間が少しずつ近づいていく。


それぞれの理由を胸に——


香織。

美羽。

雪穂。

智子。

菫。


彼女たちの挑戦が、今、始まる。



 第二部 近日連載開始

ご覧くださりありがとうございました。


第一部、遂に完結です!!

この回は第二部へ向けてのプロローグのような回でしたので、実質の最終回は前回でしたね笑


第二部はどんな物語が音を鳴らすのか。

こうご期待!


それでは第二部の更新を、お楽しみに!!


夜留タクト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ