第三十一話 新体制の音
〜前回のあらすじ〜
お化け屋敷で啓一と遭遇し、パニックを起こしてしまった貴子だったが、五組の和装甘味処の苺大福ですっかり機嫌を取り戻した。
だが、五組には因縁の香織と菫がいた。
静かに気持ちを抑える香織と、苛立ちを露わにする菫。
智子の計らいで事なきを得たが、二人の間の確執の謎は深まるばかり。
そして彼らは、ようやく初ライブのステージを迎える。
隆志たちはそれぞれの思いを胸に、力強く音を鳴らした。
歓声が鳴り止まない。
目の前に広がるのは、講堂いっぱいのオーディエンス。
隆志はそのエネルギーを肌で感じながら、ジャラジャラと弦を弾いた。
観客を煽る。歓声が更に爆発していく。
五人を呼ぶ声が止まらない。
——ボン。ベルルーバラン。
白田の刺すようなベースラインが、その喧騒を打ち消した。歯切れのいいスラップと、冷静に刺すような音圧が、一瞬で空気の色を変えていく。
アドリブソロパートが終わり、大歓声が再び巻き起こったタイミングで、好恵のハイハットカウントが、力強く響いた。
♫♫♫
——ナギサノユラギ キーボード 南ゆうか
思い返せば、本当にあっという間だった。
いろんなことが起こりすぎて、感傷に浸る暇もなかった。
まとまりのなかった頃の音も、
合宿で亀裂が入ったときも、
女子メン四人でコンテストの話をしたら思いっきり対立した夜も、想像もつかないような嫌なことも次々と起こった。
一喜一憂なんてしていたら、きっと生きていけなかっただろう。
イントロ中、貴子と隆志の目が合う。
優しく微笑む二人。
貴子も隆志も、念願のステージに心を躍らせている。
その表情に応えるように、右手を滑らかに転がしていく。
好恵の緊張も、少しずつ解れてきている。
知らない男先輩二人がいる中で、本当によく頑張ってくれた。
白田に至っては口も悪いし、当たりも強い。
今だから言えるけど、何度か除名したくなったこともあった。
私や貴子や隆志が何かといちゃもんをつけられることで、練習が中断することもあった。
好恵は理不尽に詰められていたことも少なくなかった。
けれど、その言葉には一周回って単純な"愛"が込められていた。
どれだけ言い合いなったとしても、
白田は絶対に手はあげる人ではなかった。
スタジオにも絶対に一番早く来て、床や機材の掃除を欠かさず行っていた。
だからこそ、余計に憎めなかった。
Aメロのベースラインが、いつもより軽やかだ。
…やっぱり、ちゃんと嬉しそうにしてる。
隆志の高速アルペジオが長い冒険へと全体を誘っていく。貴子は大きく手を叩いて、観客を煽っている。
斜め後ろだから表情はしっかり見えないけど、
最上級の笑顔なんだろうな。
ああ。これだ。
この瞬間を、ずっと夢見ていた。
もし最初からこのメンバーで、この五人で合宿をやっていたら、私たちのバンドはどうなっていただろうか。
考えなくてもわかる。
多分その世界線だったら、私たちはここに立てていないどころか、音楽もやめてしまっていたかもしれない。
だからこそ、これでよかった。
人生に無駄はない。
大人はそのフレーズで、諦めたらダメだと諭してくる。少し前までなら、苦悩を強いるための綺麗事としか思っていなかった。
けれど、今、私たちは胸を張って言える。
——私たちのこれまでに、意味のなかった時間も言葉も、一つもなかった。
だからこそ、鍵盤を音と音の隙間に差し込む。
私たちを待っている人たちに届けるために。
そして——
貴子の歌声を、もう一度世界へ轟かせるために。
——最高にカッコいいよ。貴子
かつての伝説の歌声が、
講堂一面を、深い海の中に魔法をかけていく。
♫♫♫
——ナギサノユラギ ドラムス 直居好恵
リズムの揺らぎは魂の揺らぎ。
師は決まってそう言っていた。
吹奏楽部にも、音楽教室にも、そこにいたのは厳しい大人と、意識の高い演奏者だけだった。
人見知りな性格だけど、緊迫感には慣れている。
いじめられることもあったけど、自分を見てくれる人はちゃんといる。誰かに守ってばかりじゃいられない。そんな思いで、私はずっとドラムを叩いてきた。
吹奏楽部での活動が終わり、同期や新部長の後輩とお茶をしていたところに、貴子さんから突然飛んできた連絡。
——お願い。もう一度力を貸して。
それだけだったのに、背筋が震えた。
コンクールのときとも、大人たちの存在感とも違う、なんとも言葉にし難い異様な雰囲気だった。
次の日に会った貴子さんとゆうかさんは、いつもより堅かった。
緊張した空気の中、貴子さんから三つの内容を告げられた。
自分たちのバンドに入ってほしいこと。
バンドコンテストに出場したいこと。
そして——
兄と喧嘩別れになったこと。
その理由は、自分が想像しているよりも悲哀で、
バンドの決別も、他人事だとは思えなかった。
少しの間、言葉を飲み込んでいたが、
頼ってくれたからには、断る理由なんてなかった。
何より、貴子さんがまた歌ってくれていることが、心の底から嬉しかった。
だからこそ、私はその思いをスティックに込める。
サビ前のフィルが、宴の鐘のように響いた。
川村先輩のワウペダルを合図に、白田先輩の低音も軽やかに弾んでいく。
お二人とも、本当に親身になってくれた。
川村先輩はアレンジの提案をいくつもしてくれた。
白田先輩は厳しいけど、とても暖かい言葉で励ましてくれた。
まだまだ内気な性格の私だけど、先輩たちの恩には、ちゃんと応えたい。
キックの圧とハイハットの手数を細かく絡め、空気の枠組を整えていく。ピアノの音色とギターの愉快な振動が、そこに彩りと景色を足していく。
描くのは私たち五人と、客席の歓声。
これから先には、どんな景色が待っているだろう。
まだまだ不安は絶えない世界だけど、
誰かのためになるなら、乗り越えられる。
先輩たちはそうやって、バンドの居場所を作ってくれた。だから今度は、私の番だ。
スネアの高速ストロークで会場を煽ると、歓声が更に大きくなる。
最上級の熱気を残したまま、一回目のサビの最後の音が通り抜けていく。
その瞬間は、今でも鮮明に覚えている。
♫♫♫
——ナギサノユラギ ベース 白田真介
ステージに立つことが、
こんなにも気持ちいいなんて知らなかった。
父の教え子だという人のサポートで、何度かステージに立たせてもらったことはあった。
けれど、大人の中にぽつんと放り込まれた当時中二の俺は、うまく馴染むこともできなかった。
そんなところに目をつけられた俺は、理不尽にリンチに合うことも少なくなかった。
あの人だけは最後まで守ろうとしてくれていたが、結局、俺はそこから逃げ出してしまった。
もうステージには上がらないと決めた。
決めたはずなのに、どうしてだろう。
こんなに楽しいことなのに、いつの間にか忘れていた。
今思えば、逃げていただけだったのかもしれない。
トラウマなんてものは、ただの自分の思い込み。
目の前に、馬鹿みたいに騒がしい景色が広がっている。嫌いだったはずの賑やかな光景にも、いつの間にか慣れてしまった。
二コーラス目に突入し、澤森の歌に引き込まれている観客たち。
その中心から少し離れた後方で、弟たちがじっとステージを見ている。一番下とその一つ上は、いつもと変わらず手を振って大はしゃぎ。
二番目は母親と一緒に、大人しく見守っている。
その反対側には、陽菜がうっとりとした表情で笑っている。
幼馴染みで中学までは同じ学校だった陽菜は、俺がサポートで立たせてもらったステージを、一度見にきてくれたことがある。
一方的にボコられたときは、必ず手当てをしてくれた。父と一緒に、直談判しに行ってくれたこともあった。どれもこっちから頼んだわけでもないのに、健気に笑って傍にいてくれた。
バンドに入るきっかけをくれたのも、陽菜だった。
あのラーメン屋の後、バンドに誘われていると、ボソッと打ち明けると、アイツは目を輝かせてこう言ってきた。
——白田くんの音、また聴きたい。
——文化祭見に行くから、絶対弾いてよね。
まだメンバーですらないのに、本当に清々しかった。
南や川村みたいなその表情が、少しだけ羨ましかった。
そういうところも苦手だったはずなのに、気づいたらスタジオに足が動いていた。
なんでかはわからない。
多分、理由なんて必要ないのかもしれない。
見てくれている人がいる。
期待してくれている人がいる。
求めてくれる仲間がいる。
それだけで充分だった。
そういえば、文化祭の日もあの人も来ていたんだっけ。昔、サポートで世話になったあの歌い手の人。
少し前にメジャーデビューも決まって忙しいはずなのに、こうして見に来てくれている。
それだけで、充分すぎるくらいに幸せだった。
俺は今、最高に気持ちいい。
弦を弾く両手が、こんなにも軽やかだ。
直居のビートも、南の鮮やかな音色も、川村のうざったい弾き癖も、澤森の壮大な歌声も、
全部だ。
……大好きだぞ、お前ら。
♫♫♫
——ナギサノユラギ ギターボーカル 澤森貴子
中学の頃よりも、歓声も温度も桁違いに暑い。
これまで立ったステージで、一番の感動だ。
曲のパートが切り替わり、好恵のスネアが歯切れ良く脈を打つ。
いつも私たちを影で支えてくれた。
自分でも、無理を強いてしまったと思う。
けれど彼女は、私が思っていたよりずっと強かった。
二回目のサビになると、ゆうかと隆志のコーラスが華やかに合わさっていく。
歌い手として生きていた頃の、懐かしい感覚が蘇ってきた。
あの頃からずっと夢に見ていた光景。
一度は叔父によって、跡形もなく壊された夢。
けれど今は違う。
こうして一緒に、闘ってくれる仲間がいてくれる。
それだけで、私は救われている。
好恵。ゆうか。隆志くん。
それと、白田くん。
彼も、本当によくやってくれた。
抜けた三人とのことも、私の過去の活動のことも、何も知らないのに付き合ってくれた。
文化祭の準備期間中。
隆志くんと白田くんの三人で食材の買い出しに行った日の帰り道。彼は何気なく口にした。
——澤森も、大変だったんだな。
——お前の歌、なんか懐かしいと思ってた。
彼にだけは、まだ話していなかった。
経緯を聞いたら、意外なあの人からだった。
お父様の教え子で、家族とも親交が深いらしく、隆志くんがイタズラで撮ったバンド写真に写る私を見て気づいたらしい。
本当に、ご縁はどこで繋がるかわからない。
菫ちゃんのことといい、彼のことといい、人の世はご縁で廻っているといっても過言ではない。
その人も文化祭にも来てくれると、恥ずかしそうに呟いていた。
騒ぎの中心から離れた奥で、そっと立っていた。
初対面のときとは違って、とても穏やかで、父のような眼だった。
その温かな期待に応えるために、私は歌声に思いを乗せる。
もしかしたら。
白田くんがここにいるのも、その人のおかげなのかもしれない。
ありがとう。
たくさんの人に支えられて、私たちはここにいる。
サビ終わりの隆志くんのギターソロが、人々を次の物語へと動かしていく。
思えば、こうして再び音楽ができているのは、彼がきっかけだった。
バンドを始めてからも、
合宿のときも、夏祭りのときも、
三人が抜けた後も、ずっと私を気にかけてくれていた。
あなたには、まだ伝えてないことがある。
意外に鈍感だから、ちゃんと口に出して言いたい。
…けれど、やっぱりそれはもう少し先になりそうね。
あなたの勇気には、ちゃんと応える義務がある。
だから、私はその思いを、
次の歌詞に込める。
——私も、
——あなたが、好きですわ。
——たぁくん。
その一息だけで、講堂の空気が少しだけ甘く変わった。
♫♫♫
——ナギサノユラギ ギター 川村隆志
気づけばいつだって、全身が動いてしまう。
だからこそ、やるなら全力でやりたかった。
どうせ弾くなら、すげー奴と音を重ねたい。
そんな振動数を、ずっと探していた。
そのときは、ある日突然訪れた。
中学のときに、美羽が偶然見つけた歌い手。
"りさこわも"。
原体験と呼ぶには、ギリギリ遅かったかもしれない。
それでも俺の心には、確かに深く刻まれている。
あれほどの歌声には、きっともう出会うことはない。
そう思っていた。
夢中で追い続け、いつか一緒に演奏する。
どこの馬の骨かもわからないのに、本気でそんなことを思っていた。
その夢が、ようやく叶う瞬間に辿り着いた。
ここまでの道のりは、簡単じゃなかった。
もう一度歌うと言ってくれた貴子。
そんな彼女に、いつでも寄り添っていた南。
初めて結成したバンド。合宿。
道中のいざこざで、三人が脱退。
結局、理由はまだちゃんと聞けてない。
香織や啓一はともかく、菫までいなくなったことは、未だに腑に落ちていない。
そんなモヤモヤが募っていく中、バンドを繋いでくれた好恵。
そして、真介。
正直、俺たち五人の中でバンドへの功労者は、
間違いなく彼だろう。
いつも言葉はキツかった。
南や好恵ほどではないが、俺とも曲の解釈で言い合ったこともあった。
全員、俺以上に本気だった。
南はバンドの名誉のため。
好恵は俺たちを支えるため。
真介は父親との約束のため。
貴子は、もう一度夢を掴むため。
勝手に断定するなって怒られそうだが、
全員、音を鳴らす理由が明確にあった。
みんな"誰かのために"、音楽と向き合っていた。
六人時代になかったのは、
そういう明確な理由だったのかもしれない。
結成も、合宿も、全部がノリと勢いだった。
だからこそ、俺がやることは一つしかない。
みんなの思いに、音で応える。それだけだ。
そんな思いで弾いたギターソロは、格別に気持ちいい。歓声は、とっくに天井を突き抜けていた。
五つの力強い波の振動は、水平線をゆっくり繋ぐように、ひかりの橋をかけていく。
雨の後に優しく笑いかける光。
この歓声が、俺たちへの答えで。
これから先に待っている、未来への記憶だ。
この景色も、この音も、
俺たちで、守り抜くんだ。
南。好恵。真介。貴子。
出会ってくれて、ありがとう。
ラスサビ前に、貴子がこちらへそっと笑いかけてくる。
その笑顔も、声も、
俺が一生守り抜く。
——貴子。
俺は…。
その続きを、俺はギターに託した。
♫♫♫
ラスサビの最後のコードが、壮大に鳴り響く。
五人の音は、あの日から一度も途切れることはなかった。
文化祭での大歓声は、想像以上の迫力だった。
コンテストでの舞台は
これの比じゃないほどのものなのだろう。
その予感は、彼らのイメージの範疇を軽々と打ち破って的中した。
動画審査でも、何度か出た対バンライブでも、予選ライブでも、味わったことのない規模の熱気。
最上級のパフォーマンスで食らいついてきた五人の演奏も、とうとう終盤を迎えた。
最後の曲。ラスサビでの転調。
南の奏でる鍵盤の音色が、夏の夕暮れをドラマチックに魅せていく。
——あなたのように 歌いたい
——まだ素直じゃない 私だけど
香織と一緒に作った言葉を、
最後にもう一度繰り返す。
そのフレーズで、最前列の香織の目から、再び涙が溢れていく。
——ここにいるから ちゃんと見ていてよ
隆志への気持ちを乗せた歌詞。
だけどその瞬間は、どうしてか自分のことも対象に含まれているような、そんな歌い方だった。
嫌味でも、自慢でもない。
ただただ純粋で、儚い理想を追い求める少女の叫びだった。
最後の言葉を歌う前の、一瞬のフリーズ。
その独白中、貴子は会場全体を見回した後、もう一度最前列に視線を向ける。
智子。美羽。雪穂。香織。
そして、菫。
全員へ優しく笑いかけ、深く息を吸い込んで、吐く。
——夏が揺れている。
貴子の歌声は、どこまでも遠くへ。
あの日の講堂を越え、
今、この大舞台の果てまで真っ直ぐに響き渡った。
裏返るほどの声援が上がり、歓喜の嵐が渦を巻いた。
その熱気を切り裂くように、好恵がスティックを高く掲げた。
タン、タタタン。
力強く、それでいて繊細に。手数を誇るのではなく、仲間との”会話”を大切にする音。
師から教わったリズムが、そのまま今の自分になっていた。
予想外のアドリブに、
貴子たちは息を呑みながら見守る。
白田だけは背中を向け、水を飲むふりをしながら、小さく笑った。
香織たちも真剣に見つめる中——
菫だけは、面白くなさそうに眼鏡を吹くだけだった。
やがて白田がフレットに指を滑らせ、ボーンと高めのベース音を長く伸ばした。
その音で瞬時に、ドラムのビートが変わる。
ここからは白田のソロタイム。
ボン。ボボン。
一音一音が軽やかなのにしっかりと厚みがある。
流れるような高低差と緩急に、全員が息を呑む。
好恵はキックとハイハットを刻み続けながら、そっとソロを支えている。
語りかけるような低音は、白田の耳にも、亡くなった父の声のように、ホール内を包んでいく。
あれから一年。
あれだけ他人を拒絶していた自分に、こうして尽くしてくれている仲間がいてくれる。
——見てるか。親父。
母は静かに涙を拭った。
三人の弟も、兄の背中から目を離さない。
この後出番を控える同じパートの智子は、ニヤニヤしながら白田の”返事”を聞いていた。
客席の奥の青年と目が合う。
長く伸びた襟足を結び、右手の馬のタトゥーが見えるように腕を組んでいる。
その男は恩師との思い出にふけり、静かに目を閉じる。
陽菜も憧れの目を潤ませながら、幼馴染みの本音に聞き惚れている。
やがて柔らかなフレーズは激しいスラップへ変わり、講堂中が歓声に包まれた。
だんだんとゆっくりになり、最後の一音が、ゆっくりと消えていく。
その叫びを受け継いだのは——
隆志だった。
キーン、という刺すようなチョーキングを鳴らした後、白田へ笑いかける。
南と貴子も仲良く寄り添い、手を高く上げて客席を煽る。智子と美羽が真っ先に食いつくと、全体も再び賑わい始めた。
白田とのミニセッションが終わると、
隆志は視線を自分に集めてから、空間を割くように弦を鳴らした。
オーバードライブのエフェクトに乗せ、六本の弦を縦横無尽に踊らせていく。
同じパートの雪穂は、気不味そうに溢れる息を舌打ちで誤魔化した。
香織と美羽は、幼馴染みの自慢の音色をまじまじと受け入れる。
あの音に惹かれる表情だけは、貴子とよく似ていた。
得意のリフを刻んでいく隆志の幸せそうな顔が、二人の心を、大きく満たしていく。
好恵と白田は微細な音で、隆志の音を前に出していく。
そのギターの歪みを優しく抱き留めるように、
南のコードが響く。
ポロロンと穏やかに笑いかける音色の後で、
少しずつ色合いが足されていく。
低音と高音の軽やかな掛け合いが、会場に鮮やかに包み込むと、そのまま右手が最後の瞬間を惜しむように、鍵盤を沈めていく。
客席の雪穂と智子はうっとりと聴き惚れ、美羽は憧れの眼差しを向けた。
香織と菫も、共に過ごした日々を思い返しながら、その音色を静かに受け止めていた。
ソロ終盤、南は一人一人を見つめる。
好恵。
人見知りで怖がりだけど、
誰よりも努力家な自慢の後輩。
白田。
口が悪く、憎たらしいぐらいに可愛げもない男だけど、誰よりも人の痛みがわかる最高の助っ人。
隆志。
いつでもマイペースで、遊びの絶えない音ばかりだけど、やるときはちゃんとやってくれる頼れる仲間。
最後に、貴子。
子どもの頃からずっと一緒にいる、好奇心が旺盛なお嬢様。
だけど本当は誰よりも繊細で、心から音楽を愛している正真正銘のソウルメイト。
その全てを音で伝え、五人の音がもう一度重なり合っていく。
壮大なアウトロが、エンドロールのように今日までの軌跡を蘇らせていく。観客たちも五通りの波の揺れの違いをもう一度体感していく。
四人の音が、一台の馬車になる。
南が道を照らし、
好恵と白田が力強く支え、
隆志がその隣で笑う。
その中心で、貴子は歌う。
やがてアウトロが終わり、まだ残されていた言葉が歌われる。
——赤く染まる坂道
——小さな風の揺らめき
——当たり前の全てが
——ただ ただ 愛おしい
読んでくださりありがとうございます。
初ライブから現在のステージへ帰ってきました!!
こうして今の体制になっていったんですね〜
隆志たちのパフォーマンスもついに終幕!
彼らの演奏を経て、コンテストはどう動く?
さて、第一部はあと二回で完結となります!!
次回もお楽しみに
夜留タクト




