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勇者じゃなくて運送屋ですが、王国の命綱です  作者: naomikoryo


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第72話:街へ戻る道は、少し静かだった

翌朝。

村の空は、薄く晴れていた。

風は穏やかで、畑の草を小さく揺らしている。

いつもなら、村人たちの声が朝早くからあちこちで聞こえる。

井戸の水を汲む音。

家畜に餌をやる声。

畑へ向かう者たちの足音。

けれど、その朝の村は、どこか静かだった。

昨日、北の森で見つかった形見の話が村へ広がったからだろう。


大声で騒ぐ者はいない。

けれど、誰もがそのことを知っている。

リーナの父だけではなく、帰ってこなかった男たちのことを、それぞれの家で思い出している。

そんな朝だった。

ソータは宿の前で、グランデリアへ戻る準備をしていた。

準備といっても、見た目はほとんど何もない。

荷物はソータの《神速積載庫》の中に入っている。

食料。

水。


野営道具。

村長から預かった報告用の控え。

リーナからミレイユへの言葉。

そして、北の森で起きた出来事のすべて。

最後のものは、収納に入れられるわけではない。

けれど、ソータの胸の中には確かに積まれていた。


(グランデリアに戻ったら、ミレイユに全部話す。)

(リーナのお父さんのこと。)

(アマゾネス砦のこと。)

(バルクさんのこと。)

(オルドアイのこと。)

(フルムーンのこと。)

(……キスのこと。)


最後の項目で、ソータは顔をしかめた。

何度考えても胃が痛い。

しかし、隠すという選択肢はない。

ガルドにも、エルザにも、レオンにも言われた。

逃げるな。

隠すな。

正直に話せ。

何より、ソータ自身がそれを分かっている。

ミレイユに嘘をつくことだけはしたくなかった。


「ソータさん。」

声がして振り返ると、リーナが立っていた。

その隣にはマルタがいる。

リーナは昨日より少しだけ落ち着いた顔をしていた。

目元はまだ赤い。

けれど、髪はきちんと整えられていて、胸元には青い石の腕輪の欠片を入れた小さな布袋が下げられている。

「見送りに来てくれたのか。」

「はい。」


リーナは小さく頷いた。

「ミレイユさんに、伝えてほしいことがあります。」

「うん。」

「薬草軟膏のこと、ちゃんと頑張りますって。」

「伝える。」

「それから……。」


リーナは胸元の布袋に手を添えた。

「お父さんを連れて帰ってきてくれて、ありがとうございましたって。ソータさんにも言いましたけど、ミレイユさんにも。商会が村との道を作ってくれなかったら、きっとここまで来られませんでした。」

ソータは少しだけ胸が詰まる。

ミレイユは直接、北の森へ行ったわけではない。

けれど、村の品を街へ繋げる道を作り、ソータを支え、村との関係を形にした。

リーナはそれをちゃんと分かっている。

「必ず伝える。」

「はい。」


マルタが腕を組んで言った。

「それと、ミレイユ嬢ちゃんにはこう伝えな。」

「はい?」

「あんたが帰ってきたら、まず叱って、それから褒めてやってくれってね。」

「マルタさん。」

「何かやらかした顔をしてるからね。」


ソータは固まった。

リーナが少しだけ目を丸くする。

レオンが後ろで吹き出しそうになっていた。

エルザは静かに目を逸らし、ガルドは無言だった。

「やっぱり、何かあったんですか?」


リーナが不思議そうに聞く。

「いや、その……説明が難しいことが少し。」

「ソータさん。」

リーナの声が少しだけ真面目になる。

「ミレイユさんを悲しませたら、駄目です。」

「はい。」


即答だった。

リーナは少しだけ微笑んだ。

「でも、ソータさんはちゃんと帰ってきますよね。」

「うん。」

「なら、ちゃんと話せば大丈夫だと思います。」

「……ありがとう。」


その言葉が、思ったよりありがたかった。

リーナは昨日、父の死を知ったばかりだ。

それでも、ソータの心配をしてくれている。

強い子だと、改めて思った。


◆◇◆


村の入口には、村長と数人の村人たちも集まっていた。

トムも杖をつきながら来ている。

まだ体は本調子ではなさそうだが、見送りだけはしたかったのだろう。

村長はソータたちに深く頭を下げた。

「ソータ殿。皆様。改めて、ありがとうございました。」

「俺たちは、できることをしただけです。」

「そのできることが、この村にとって大きかった。」


村長は静かに言った。

「形見の件、北の森の情報、そして今後の可能性。どれも軽いものではありません。」

「はい。」

「グランデリアへ戻られたら、ミレイユ殿へよろしくお伝えください。村としても、商会との話を引き続き進めたいと。」

「分かりました。」

「それと、フルムーンの件についても、村は慎重に協力する用意があります。ただし、アマゾネス砦との関係は、まず商会と相談してからにしましょう。」

「はい。」


村長の判断は堅実だった。

焦って動かない。

隠すべきことは隠す。

でも、道を閉ざさない。

それは今の村にとって一番良い姿勢のように思えた。

トムがソータへ歩み寄る。

「ソータさん。」

「はい。」

「俺も、もう少し体が戻ったら、思い出せることを整理しておく。」


「無理はしないでください。」

「分かっている。」

トムは少しだけ苦笑した。

「でも、俺が覚えていることが、リーナや村の役に立つなら、ちゃんと話したい。」

「助かります。」

「それから……。」


トムは言葉を詰まらせた。

リーナの方を見て、それからまたソータを見る。

「リーナを、いつかあの人たちの墓へ連れて行く話。俺も、力になれることがあれば協力する。」

「はい。」

「俺も……行けるなら行きたい。謝るためじゃない。覚えていると伝えるために。」


ソータは頷いた。

「その時は、一緒に行きましょう。」

トムの目が少し潤む。

「ああ。」


◆◇◆


出発する時、リーナはもう一度ソータの前に立った。

胸元の布袋を握りしめ、しっかりと顔を上げている。

「ソータさん。」

「うん。」

「行ってらっしゃい。」


その言葉に、ソータは少しだけ驚いた。

以前なら、リーナは

「気をつけて。」

とか

「戻ってきてください。」


と言ったかもしれない。

もちろん、それも大事な言葉だ。

でも、今の

「行ってらっしゃい。」

には、また帰ってくることが当然だという響きがあった。

待つだけではない。

送り出す側としての強さがあった。

ソータは微笑む。

「行ってきます。」


リーナは小さく頷いた。

マルタが横から言う。

「ちゃんとミレイユ嬢ちゃんに叱られてきな。」

「そこも行程に入るんですか。」

「一番大事な行程かもしれないよ。」

「怖い。」


レオンが小声で言う。

「ソータさん、道中より帰ってからの方が大変そうっすね。」

「言わないでくれ。」

エルザが静かに微笑む。

「でも、逃げ道はないわよ。」

「分かってます。」


ガルドが短く言う。

「出るぞ。」

その一言で、空気が切り替わった。

ソータ、ガルド、エルザ、レオン。

四人は村を出発した。

バルクはいない。

その空白を背中に感じながら、ソータはグランデリアへ続く道を歩き出した。


◆◇◆


村を離れてしばらくの間、一行はあまり話さなかった。

道は穏やかだった。

空は薄く晴れており、風も強くない。

荷物はすべてソータの収納に入っているため、歩みは軽い。

それでも、空気は少し静かだった。

理由は分かっている。

バルクがいないからだ。

いつもなら、道中で何かしら大きな声が聞こえた。

飯の話。


肉の話。

盾の重さの話。

暑いとか腹が減ったとか、分かりやすい言葉。

それがない。

レオンが歩きながらぽつりと言った。

「静かっすね。」

「そうだな。」


ソータは頷いた。

「ここでバルクさんなら、そろそろ飯の話してるっす。」

「まだ朝出たばかりだぞ。」

「でも、バルクさんならするっす。」

「否定できない。」


エルザが少しだけ笑う。

「昨日の夜も言っていたわね。」

「だって本当にいないと分かるんすよ。」

レオンは少し照れくさそうに頭をかいた。

「あの人、うるさいけど、いると安心するというか。」

「分かる。」


ソータも頷いた。

「盾役ってだけじゃなくて、空気を重くしすぎない人だったんだな。」

ガルドが前を歩きながら言った。

「あいつは生きている。」

「はい。」

「なら、また会える。」


短い言葉。

けれど、それはソータの胸に深く響いた。

リーナの父は帰ってこなかった。

けれど、バルクは生きている。

場所は違う。

道は分かれた。

でも、また会える可能性がある。

その違いは大きい。

レオンも少しだけ明るい顔になった。


「フルムーンで会えるっすかね。」

「その可能性は高いわね。」

エルザが答える。

「むしろ、バルクがこちらとの繋ぎになるかもしれないわ。」

「バルクさんが繋ぎ役。」


レオンは少し考えた。

「大丈夫っすかね。」

ソータも同じ不安を感じた。

だが、同時に妙な確信もあった。

「たぶん、飯を食いながら何とかするんじゃないか?」

「納得っす。」


エルザが苦笑する。

「それはそれで才能ね。」

ガルドも短く言った。

「強みだ。」

四人は少しだけ笑った。

バルクがいない寂しさは消えない。

でも、笑えた。

それだけで、少し道が軽くなった。


◆◇◆


昼前になると、道はさらに開けてきた。

村から街へ向かう街道に近づくにつれ、人の通る気配が増える。

轍の跡。

踏み固められた土。

道端の小さな祠。

以前通った景色が少しずつ現れる。

ソータは歩きながら、収納の中を確認した。

村長から預かった報告用の控え。

村の品に関する追加のメモ。


リーナからの伝言。

バルクが残ったという事実。

それらを頭の中で並べる。

そして、ミレイユへ話す順番をまた考える。


(まず、ただいま。)

(無事に帰ってきたこと。)

(バルクは無事だけど残ったこと。)

(いや、バルクの話を最初にすると混乱するか。)

(北の森の全体報告から?)

(リーナ父の形見を届けたことは、先に伝えたい。)

(オルドアイのことは……後回しにすると隠しているみたいになる。)


頭の中が絡まり始めた。

ソータは思わず足を止めそうになる。

エルザが横から言った。

「また報告の順番?」

「はい。」

「考えすぎても、相手の反応で変わるわよ。」

「それはそうなんですけど。」

「最初に言うべきことだけ決めておきなさい。」

「最初に。」


「ええ。無事に帰ったこと。そして、隠さず話すつもりがあること。」

ソータは少し考えた。

確かに、細かい順番にこだわりすぎても、ミレイユの質問で変わるだろう。

彼女は鋭い。

そして、知りたいところをすぐ突いてくる。

なら、まずは姿勢を示すべきかもしれない。

隠さない。

全部話す。

その上で怒られるなら、受ける。


「分かりました。」

ソータは頷いた。

「最初に、全部正直に話すって言います。」

「それがいいわ。」

レオンが振り返る。

「俺たちも証人っす。」

「証人という言葉が怖い。」

「実際、証人っすよ。ソータさんが途中でごまかそうとしたら、俺が補足するっす。」

「補足しなくていい。」


「いや、必要なら。」

「必要にならないようにする。」

ガルドが短く言った。

「必要なら言う。」

「ガルドさんまで。」

「隠すよりいい。」

「はい……。」


味方なのに逃げ場がない。

ソータはそう思った。


◆◇◆


午後は、順調に進んだ。

荷物がないぶん、やはり足取りは軽い。

村へ戻った時もそうだったが、ソータの収納は移動速度に大きく影響している。

ただし、バルクがいないため警戒の配置は少し変わった。

ガルドが前寄り。

レオンが先行。

エルザが後方と側面を見て、ソータは中央。

バルクの盾がない分、開けた場所では少し不安がある。

それでも、全員が慣れているため大きな問題はなかった。


途中、一度だけ小型の魔物の気配があった。

レオンが早めに気づき、エルザが弓を構える。

しかし魔物は近づく前に離れていった。

「こちらの人数が少ないからって寄ってくるかと思ったけど、そうでもなかったっすね。」

レオンが言う。

ガルドは周囲を見た。

「こちらが警戒していると分かったのだろう。」


エルザも頷く。

「無駄に戦わない方がいいわ。」

「ですね。」

ソータは少しほっとした。

戦闘になれば、自分にできることは限られる。

もちろん、道具や盾代わりになるものを出すことはできる。

だが、直接戦えるわけではない。

バルクがいないことで、その現実が少しだけ強く感じられた。


(護衛体制、本当に見直さないとな。)

(ミレイユに相談。)

(また報告項目が増える。)


ソータは小さくため息を吐いた。

レオンがそれに気づく。

「今度は何のため息っすか?」

「護衛体制のこと。」

「ああ、バルクさんの穴っすね。」

「うん。」

「新しい盾役、必要かもしれないっすね。」


エルザが言う。

「ただ、誰でもいいわけではないわ。ソータの能力を知ることになる可能性がある。」

「そうなんですよね。」

ソータの収納は便利だ。

だが、知られすぎると危険でもある。

軍や貴族、大きな商会が欲しがる可能性がある。

ミレイユがそれを何度も気にしていた。

「信頼できる人を探すしかないですね。」

「ミレイユ様の人脈に頼るのが一番でしょうね。」


「またミレイユ頼みだ。」

「頼れる人がいるなら、頼ればいいのよ。」

エルザの言葉に、ソータは少しだけ頷いた。

ミレイユに頼る。

それは今のソータにとって自然なことになっている。

だからこそ、裏切りたくない。

だからこそ、報告が怖い。


◆◇◆


夕方が近づく頃、一行は街道脇の小さな休憩地に着いた。

以前も使ったことのある場所だった。

大きな木があり、近くに小さな水場がある。

道から少し外れているため、野営には向いている。

ガルドが周囲を確認する。

「今日はここで止まる。」

「はい。」


ソータはすぐに野営道具を出した。

防水布。

寝具。

簡単な火道具。

鳴子の紐。

食事用の道具。

バルクがいない分、設営の人数は減ったが、作業自体は慣れている。

レオンが鳴子を張り、エルザが見張り位置を決める。

ガルドは薪を集め、ソータは食事を用意する。


ただ、鍋を出した時、ソータはまた少し手を止めた。

バルクの分の量を考えてしまったのだ。

「少し多く作ってもいいか。」

ソータが言うと、レオンが笑った。

「バルクさんの分っすか?」

「余ったら明日の朝に回せばいい。」

「いいっすね。」


エルザも微笑む。

「多めに作りましょう。あの人なら文句は言わないわ。」

「むしろ食べられないのを悔しがりそうですね。」

ソータはそう言って、いつもより少し多めにスープを作った。

干し肉と根菜。

香草。

塩。

湯気が立つ。

バルクがいれば、この時点で鍋を覗き込んでいた。


その姿を思い出し、四人は少しだけ笑った。

食事の時、レオンが椀を持ちながら言った。

「バルクさん、今頃何食ってるんすかね。」

「アマゾネスの砦の飯なら、かなり喜んでると思う。」

ソータが言うと、エルザが頷いた。

「肉料理は気に入っていたものね。」


ガルドも短く言った。

「困ってはいないだろう。」

「そこは安心ですね。」

少し静かな夕食だった。

でも、暗いだけではなかった。

バルクが生きていること。

また会えるかもしれないこと。

それが、寂しさを少しだけ和らげていた。


◆◇◆


食後。

ソータは火のそばで、明日のことを考えていた。

明日にはグランデリアへ着く可能性が高い。

荷物がないため、予定より早く進めている。

問題は、着いてからだ。

クラウゼン商会。

ミレイユ。

アルベール。

報告会。


ソータは思わず頭を抱えた。

レオンがすぐに気づく。

「またっすか。」

「またです。」

「練習します?」

「した方がいいかな。」


エルザが少し考えて頷いた。

「一度やっておきましょう。私がミレイユ様役をするわ。」

「怖い。」

「まだ何もしていないわよ。」

「エルザさんが真顔でやると怖そう。」

「では始めるわ。」

「もう?」


エルザは姿勢を正し、やや冷たい目でソータを見た。

その瞬間、空気が変わった。

「ソータ。」

「はい。」

「報告してもらえるかしら。」

「似てる。」


レオンが小声で言った。

ソータは顔を引きつらせる。

「えっと、まず無事に戻りました。」

「それは見れば分かるわ。」

「怖い。」

「続けなさい。」

「はい。」


ソータは深呼吸した。

「北の森の奥には、アマゾネスの砦がありました。迷いの霧で守られていて、最初は迷わされましたが、オルドアイという姫に通されました。」

「その姫は女性ね。」

「はい。」

「綺麗だった?」

「えっ。」


ソータは固まった。

レオンが吹き出した。

「エルザさん、そこ聞くんすか。」

「ミレイユ様なら聞く可能性があるわ。」

「ありますね。」


ソータは顔を覆う。

「答えにくい。」

「答えにくいなら、答えは決まっているわ。」

エルザの声が冷静すぎて怖い。

ソータは観念した。

「綺麗でした。」

「そう。」


エルザのミレイユ風の目が細くなる。

ガルドが火を見たまま言った。

「続けろ。」

「はい。」

「リーナのお父さんらしき人たちの形見を預かり、村へ届けました。」

「それは大事ね。」

「バルクさんは、アマゾネスの女性と互いに気に入り、北の部族村へ行くために残りました。」

「護衛契約の問題があるわね。」

「はい。」


「それで、あなたとその姫は?」

「……婿入りを迫られました。」

「断ったの?」

「断りました。」

「他には?」

「フルムーンに来いと言われました。」

「他には?」

「……キスされました。」

「されました?」


エルザの声が低くなる。

ソータは胃が痛くなった。

「一度は、俺からもしました。」

しばらく沈黙が落ちた。

レオンが小さく言う。

「うわあ、本番怖いっすね。」

「練習で心折れそうなんだけど。」


エルザはミレイユ役をやめて、普通の声に戻した。

「でも、そのまま言うしかないわ。」

「ですよね。」

「言い訳より先に、事実と謝罪。そこから事情を説明すること。」

「はい。」


ガルドが短く言う。

「逃げるな。」

「分かってます。」

何度目か分からない返事だった。

でも、言うたびに少しだけ腹が決まっていく気がした。


◆◇◆


夜が深くなった。

見張りの順番を決め、ソータは最初に休むことになった。

寝具に横になり、空を見る。

木の枝の隙間から、二つの月が見えた。

片方は満ちかけている。

もう片方も、少しずつ丸みに近づいている。

フルムーンはもうすぐ。

オルドアイの声が頭に残っている。

約束は忘れるな。


忘れない。

忘れられない。

だが、それをどう扱うかは、これから決めなければならない。

ミレイユと。

商会と。

村と。

自分自身と。


(俺、前世では荷物を運ぶだけだったのにな。)

(今は、人の人生とか、村の未来とか、恋愛問題まで運んでる。)

(積み荷の種類が増えすぎだろ。)


そう思うと、少し笑えてきた。

笑ってしまった自分に、少しだけ驚く。

つい昨日まで、リーナの涙を見て胸が潰れそうだった。

今もその重さは消えていない。

でも、それだけではない。

バルクの新しい道もある。

アマゾネス砦との繋がりもある。

ミレイユへの不安もある。

全部が重なって、前へ続いている。


ソータは目を閉じた。

(明日、帰る。)

(ミレイユに会う。)

(全部話す。)

(怒られても、逃げない。)


そう心に決める。

焚き火の音が小さく響く。

レオンが見張りに立つ気配がする。

ガルドとエルザの静かな呼吸が聞こえる。

バルクのいない夜は少し静かだった。

けれど、完全に寂しいだけではない。

また会える。

そう思えるだけで、静けさの色は変わる。

ソータはそのまま、浅い眠りへ落ちていった。


夢の中で、なぜかミレイユとオルドアイが向かい合って座っていた。

二人とも笑っている。

だが、その笑顔はどちらも怖かった。

ソータは夢の中で、静かに逃げ道を探した。

もちろん、どこにもなかった。


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