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勇者じゃなくて運送屋ですが、王国の命綱です  作者: naomikoryo


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第45話:キングゴブリンまで出てきたので、さすがにトラックを呼ぶしかなかった

 沢へ抜ける細道は、思った以上にきつかった。


 若い男を支えながら走るソータ。

 担架には意識の薄い年配の男。

 その横を、レオンが先導し。

 エルザが後方へ矢を飛ばし。

 バルクが盾で狭い道を塞ぎ。

 ガルドが剣を振るう。


 だが、追ってくる気配は減らない。


 いや。

 むしろ増えている。


「ソータ!」

 エルザが叫ぶ。

 「後ろ、まずいわ!」


 ソータは一瞬だけ振り返った。


 普通のゴブリンが何体もいる。

 しかも、その奥。

 火の明かりを背負って、ひときわ大きな影が立ち上がっていた。


 大きい。


 他のゴブリンより頭一つ分どころではない。

 肩幅が広く、腕も太い。

 粗末な鎧らしきものまで着けている。

 手には、丸太みたいな棍棒。


「……うわ。」


 思わず本音が漏れた。


「何だあれ。」

 バルクが盾を構えたまま唸る。


「キングゴブリンだ。」

 ガルドが低く言う。

 「たぶん、この集落の頭だ。」


「頭。」

 ソータが乾いた声を出す。


(頭、いるんだ。)


(いや、そりゃ村ならいるか。)


(でも、いらないだろこんなの。)


 キングゴブリンは、部下たちを押しのけるように前へ出ると、沢へ響くほどの大声で吠えた。


 びり、と空気が震える。


 若い男が青い顔で呟いた。


「あ、あいつ……。」


「知ってるの?」

 ソータが聞く。


「あいつが……人を、選んでた……。」


 それだけで十分だった。

 あれをここで止めないとまずい。

 追手の中心も、士気も、全部あいつが握っている。


 だが、この細道で正面から受けたくはない。

 しかも今は二人守らなければならない。


 ソータは必死で頭を回した。


(どうする。)


(罠で止まる相手じゃない。)


(ガルドさんとバルクさんでも、ここで受けるのは危ない。)


(でも、ここを抜けられたら追いつかれる。)


 キングゴブリンが、地面を踏み砕くみたいな勢いで走り出した。

 その後ろから、普通のゴブリンたちも雪崩れ込んでくる。


「ソータ!」

 レオンが叫ぶ。

 「決めろ!」


 その一言で、腹が決まった。


「……みんな、伏せて!」


「は?」

 エルザが目を見開く。


「バルクさん、担架守って!」


「おう!」


「ガルドさん、少しだけ時間稼いで!」


「わかった!」


 ソータは若い男を地面へ座らせると、深く息を吸った。


 胸の奥。

 あの懐かしくておかしな感覚へ意識を向ける。


 白い車体。

 積み荷の匂い。

 前世で何度も握ったハンドルの感触。


(やっぱり俺のトラックだよな……。)


(だったら、こういう時に呼ばないでどうする。)


 キングゴブリンが、目の前まで迫る。

 棍棒を振り上げる。


 ソータは腹の底から叫んだ。


「《車体爆裂突進トラック・アタック》!!」


 次の瞬間。


 夜の沢道に、白い巨大な光が現れた。


 最初は幻みたいに。

 だが一瞬で実体を持ち、懐かしいあの白いトラックの形を取る。


 前世で命を落とした、あの白い車体。

 けれど今は、それが異世界の夜を裂くように巨大化していく。


「なっ……!」

 レオンが目を剥く。


「何よそれぇ!?」

 エルザが叫ぶ。


「来たか!」

 バルクだけがなぜか少し嬉しそうだった。


 ガルドは一歩退きながら、短く言った。


「すごいな。」


 トラックは咆哮のような音を響かせながら、真正面からキングゴブリンへ突っ込んだ。


 どごぉんっ!!


 すさまじい衝撃音が沢へ響く。

 キングゴブリンの巨体が、ありえない勢いで吹き飛んだ。

 後ろのゴブリンたちまでまとめて巻き込み、木と岩に叩きつけられる。


「うおおおおっ!?」

 バルクが思わず叫ぶ。


 土が舞い。

 石が跳ね。

 ゴブリンたちの悲鳴が一瞬だけ上がり。

 そして、急に静かになった。


 ソータは肩で息をしながら前を見る。


 キングゴブリンは、もう動いていなかった。


 他のゴブリンも何体もまとめて潰れている。

 巻き込まれた連中も、もう立ち上がれない。


「……やっぱ俺のトラックじゃん。」


 つい、口に出た。


 エルザがぽかんとした顔で振り返る。


「今、何て?」


「いや、何でもない!」


 ガルドが剣を構え直しながら言う。


「まだ生きてるのがいる。」


 たしかに、端の方でうめいているゴブリンがいる。

 ソータはすぐに我に返った。


「倒したらすぐ収納する!」


「了解!」

 レオンが飛び出す。


 エルザの矢が一体の額を射抜く。

 バルクが盾で別の一体を踏み潰す。

 ガルドが手早く首を落とす。


 ソータはその死体へ次々に触れて収納した。


 ふっ。

 ふっ。

 ふっ。


 死体が消えていくたび、道が少しずつきれいになる。

 後続のゴブリンが来ても、何が起こったか一瞬で把握できない。


「便利すぎる!」

 エルザが叫ぶ。


「今はほんとにそう思う!」

 ソータも叫び返す。


 最後に、キングゴブリンの死体へ触れる。


 ずしり、と重い感覚。

 だがそれも《神速積載庫》へ飲み込まれて消えた。


 その瞬間。


 頭の中で、あの音が鳴った。


 ピコーン!


「……あ。」


 ソータが思わず間の抜けた声を出す。


「何だ!?」

 バルクが振り返る。


「いや、たぶんレベル上がった!」


「今!?」

 レオンが叫ぶ。


「今!」


 だがステータスを見る暇はない。

 奥の森で、まだゴブリンたちの怒鳴り声がしている。


「ソータ!」

 ガルドが低く言う。

 「今は走れ。」


「ですよね!」


 ようやく現実へ戻ったソータは、若い男をもう一度支えた。

 バルクとレオンが担架を持ち上げる。

 エルザが後方警戒。

 ガルドが最後尾。


 全員、もう一度沢沿いを駆ける。


 キングゴブリンを失ったせいか、追ってくる気配は一気に鈍った。

 普通のゴブリンたちも、さっきの異様な一撃に完全に勢いを削がれている。


 それでも止まらない。

 止まるのは村が見えてからだ。


 ソータは走りながら、さっき鳴ったレベルアップの音を思い出していた。


(また上がったな……。)


(でも今は見るな。)


(帰ってからだ。)


(帰るまでが仕事。)


 そう自分へ言い聞かせる。


 運ぶ男は、最後まで運び切らなければならない。


 今夜の荷物は、重い。

 でも絶対に落とせない。


 その荷物を抱えて、ソータたちは森を抜けた。


 村の灯りが、ようやく見え始める。


 その小さな明かりを見た瞬間、ソータはようやく少しだけ息を吐いた。


(帰ってきた。)


(まだ終わってないけど、帰ってきた。)


 そして村ではきっと、あの人たちが待っている。


 マルタ。

 リーナ。

 ミレイユ。


 説明も必要だ。

 報告も必要だ。

 それに、たぶんミレイユにはまたかなり怒られる。


 でも今は、それすら少しだけ嬉しい気がした。

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