表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者じゃなくて運送屋ですが、王国の命綱です  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

第3話:風呂場でステータスを開いたら、トラックがスキルになっていた

 村へ入った途端、空気が変わった。


 小さな家々。

 干された洗濯物。

 土の道を駆ける子どもたち。

 そして、リーナの背負っていた薬草籠を見た途端に安堵の顔をする大人たち。


「リーナちゃん、戻ったのか!」


「薬草は!?」


「持ってきました!」


 リーナが振り返る。

 そこで壮太は、預かっていた籠を取り出した。


 ぽん、と何もない空間から籠が現れた瞬間、村人たちがざわつく。


「おお……っ」


「収納魔法か?」


「すげえ……!」


(やめてくれ。

 そんなに見られると照れる)


(いや、ちょっと気分はいいけど)


 薬草を受け取った年配の女が、何度も頭を下げた。


「助かります。

 あの子、熱が下がらなくて」


「間に合ってよかったです」


 思わずそう返すと、リーナが横で嬉しそうに笑った。


 その顔が妙に眩しくて、壮太は少しだけ視線を逸らした。


(若い娘の笑顔って破壊力あるな)


(いや、見た目は俺も若いんだった)


(でも中身は四十だぞ。

 落ち着け)


 結局そのまま、壮太はリーナの家へ招かれることになった。


「そんな、悪いですよ」


「悪くありません。

 命の恩人ですし、薬草も運んでいただいたんです。

 せめて食事と、お風呂くらいは」


 お風呂。


 その言葉に、壮太の耳がぴくりと動いた。


(風呂)


(異世界にも風呂あるのか)


(いや待て、食いつくところそこか)


 だが、前世で汗と排気ガスにまみれた生活をしてきた壮太にとって、風呂は偉大だった。

 極めて偉大だった。


「じゃ、じゃあ……少しだけ」


「はい!」


 案内された家は、木と石でできた素朴な造りだった。

 広くはないが、きちんと掃除されている。

 干し草の匂いと、煮込みの香りが混ざっていて、妙に落ち着く。


 出された食事は、野菜のスープと黒パン、それに香草を焼き込んだ鶏肉だった。


「うま……」


 思わず声が漏れる。


「本当ですか?」


「はい。

 すごくうまいです」


(異世界メシ、もっと大味かと思ってた)


(いや、この家の料理がうまいのか)


(リーナ、家庭的なのかもしれん)


(家庭的な女性、いいな……)


 食事の間も、リーナはよく笑った。

 森での緊張がほどけたのか、昼より表情が柔らかい。


「ソータさんって、不思議な人ですね」


「よく言われます」


「強いのに、強そうに見せようとしませんし」


「強くないです」


「籠を消したり出したりできるのに?」


「あれは、まあ……運搬特化というか」


「運搬特化」


 リーナはその言葉を気に入ったらしく、くすくす笑った。


「やっぱり、変わってます」


(悪い意味じゃなさそうだな)


(よし)


 食後、リーナは風呂の支度までしてくれた。

 石造りの小さな浴室。

 木桶に張られた湯から、白い湯気が立っている。


「どうぞ。

 狭いですけど」


「十分です。

 ありがとうございます」


 ひとりになると、壮太はしみじみと息を吐いた。


「異世界で風呂……」


(ありがてえ……)


(生き返る……いや一回死んでるんだけど)


 服を脱ぎ、湯に肩まで沈む。

 熱がじわりと肌へ染みた。


「はあああ……」


(最高だ)


(このために生きてるまである)


(いや、結婚のためにも生きてるけど)


 ふと、自分の腕を見る。

 前世のごつい筋肉はなく、今の体はすらりとしていた。


「ほんとに別人みたいだな……」


 見た目は好青年。

 だが中身は、配送一筋四十歳独身男。


(これ、詐欺では?)


(いやでも俺なんだから詐欺ではないのか?)


(でも女性が勘違いしたら申し訳ないよな……)


 そこまで考えて、壮太は急に思いついた。


「そういえば、異世界ってあれか」


「ステータス、とかあるのか?」


 何気なくつぶやいた、その瞬間だった。


 目の前に、青白い半透明の板がふわりと現れた。


「うわっ!?」


 思わず湯をばしゃっと跳ね上げる。


 板には文字が並んでいた。


名前:ソータ・タジマ

年齢:20

種族:人族

状態:正常


固有スキル:《神速積載庫ゴッド・ロジスティクス》Lv1


補助スキル

《荷台拡張》 [未解放]

《保冷》 [未解放]

《固定》 [未解放]

《運搬効率》 [未解放]

《安全拡張》 [未解放]

《ルート感覚》 [未解放]

《救急活動》 [未解放]

《最強》 [未解放]


「……あるんだ」


(あるんだステータス)


(異世界っぽい!)


(いや、今さらだけど本当に異世界なんだな)


 壮太はおそるおそる《神速積載庫》の文字へ触れた。


 すぐに説明が開く。


神速積載庫ゴッド・ロジスティクス》Lv1

触れた物品を収納・保管・取り出し可能。

荷物として認識した対象に限る。

現在は近距離取り出し、簡易保管のみ使用可能。


「やっぱりトラックじゃねえか……」


 思わず天井を仰ぐ。


(俺のトラック、スキルになってる……)


(いやまあ、便利だけどさ)


(事故車両の転生先が俺の能力って、だいぶ特殊だな)


 続いて灰色の補助スキルへ触れてみる。


《荷台拡張》

神速積載庫Lv5で解放。

収納容量を大幅拡張。

大型資材、複数貨物の同時管理が可能。


「なるほど」


《保冷》

神速積載庫Lv8で解放。

食品、薬品など温度管理を必要とする荷の品質を維持。


「冷蔵機能か」


《固定》

神速積載庫Lv10で解放。

収納中および取り出し時の荷崩れ・破損リスクを極小化。


「それ絶対いる」


《運搬効率》

神速積載庫Lv15で解放。

連続収納・連続排出時の魔力消費軽減。

配送速度補正。


「燃費改善みたいなもんか」


《安全拡張》

神速積載庫Lv20で解放。

危険物搬送、悪路対応、衝撃軽減、損害抑制を補助。


「プロ仕様だな……」


《ルート感覚》

神速積載庫Lv25で解放。

目的地までの最適経路、危険域、遅延要因を感知。


「それ便利すぎるだろ」


《救急活動》

神速積載庫Lv30で解放。

短時間の患者搬送、応急支援、生命維持補助を実行可能。


 壮太の顔が少し引き締まる。


「人も運べるようになるのか」


 そして最後。


《最強》

神速積載庫Lv50で解放。

条件未達成。

詳細非公開。


「雑ッ!?」


(最強って何だよ)


(説明がいきなりふわっとしたぞ)


(運送で最強って何)


(国ごと運べるのか?)


 そこまで考えた時。


 こんこん、と扉が鳴った。


「ソータさん」


 リーナの声だった。


「はい?」


「その、昼のお礼に……お背中、流させてください」


「はい?」


 聞き間違いかと思った。


「え、いや、大丈夫です!」


「でも助けていただきましたし」


「いえ、本当にお気遣いなく!」


「そんなわけにはいきません!」


 声が近い。

 まずい。

 すごくまずい。


(待て待て待て)


(この流れ、異世界ってそんなサービスあるのか?)


(いや違う。

 たぶん純粋にお礼だ)


(純粋にお礼だからこそ断りづらい!)


 がらり、と扉が少し開いた。


「失礼します」


「ちょっ――」


 入ってきたリーナは、タオル姿だった。


 肩が白い。

 髪はほどけていて、湯気の中でしっとりと頬にかかっている。

 布面積はきちんとある。

 あるのだが、十分にまずい。


「昼のお礼ですから」


「い、いや、その、気持ちだけで!」


「そんな。

 私、何もお返しできていませんし」


 必死な顔でにじり寄ってくる。

 壮太は湯船の中で後ずさった。


「ほんとに、気にしなくていいんで」


「でも」


「大丈夫ですから!」


「でもでも」


 押し問答の末、狭い浴室で距離が詰まる。

 リーナが桶を持ったまま踏み込み、つるりと足を滑らせた。


「きゃっ」


「うわっ!」


 支えようとして、壮太の腕が彼女の脇腹へ触れる。

 リーナの手は壮太の肩に。

 タオル越しとはいえ、やわらかい感触が一瞬だけ伝わった。


 壮太の思考が停止する。


(終わった)


(俺の理性が死ぬ)


(いや死なない死なせるな)


(近い近い近い近い!!)


「す、すみません!」


「いえこっちこそ!」


 二人同時に離れる。

 湯気が妙に濃い。

 壮太の心臓は配送センターのベルトコンベアみたいに全力で回っていた。


(どうする)


(断り続けたら逆に不自然では?)


(いやもう十分不自然だろ)


(でも彼女は善意だ)


(ここで全力拒否したら傷つくかもしれん)


(しかし受けたら俺の精神がもつのか?)


 リーナが潤んだ目で見上げてくる。


「……ご迷惑、でしたか」


「迷惑じゃないです!」


 即答してしまった。


(何を言ってるんだ俺)


 壮太は目をぎゅっと閉じた。


「わ、わかりました」


「本当ですか?」


「ただし!」


「は、はい」


「俺はずっと目を閉じてます」


「え?」


「ずっとです」


「はい……?」


「だから安心してください」


(安心したいのはこっちだよ!)


 結局、壮太は桶の前に座り、目をぎゅうっとつぶった。

 後ろでリーナが湯をすくう音がする。


「失礼しますね」


「は、はい」


 背中へ湯がかかる。

 次に、柔らかな布が肩を撫でた。


 それだけなのに、壮太の脳内は大騒ぎだった。


(目を開けるな)


(絶対開けるな)


(ここで開けたら終わりだ)


(俺は紳士だ。

 元四十歳だぞ。

 若造とは違う)


(いや見た目は若造なんだけど)


(背中に集中しろ)


(背中はただの背中だ)


(でも後ろにタオル姿の若い女性がいるという情報が強すぎる!)


「力、強くないですか?」


「ちょうどいいです!」


 声が裏返った。

 自分でも情けないと思う。


 だが、リーナは気にしていないらしい。


「よかった。

 普段こういうこと、あまりしないので」


「そ、そうなんですか」


「はい。

 でも、助けてもらったのが嬉しくて」


 その何気ない一言が、壮太の胸へ妙にしみた。


(ああもう)


(こういうの弱いんだよ俺は)


(困ってる女性にも弱いし、素直に感謝してくる女性にも弱い)


(つまり全面的に弱い)


 しばらくして、背中流しは本当に背中流しだけで終わった。

 何事もなく。

 本当に何事もなく。


 それなのに壮太は、終わる頃にはぐったりしていた。


「ありがとうございました」


「い、いえ……こちらこそ?」


(何で俺がお礼言ってるんだ)


 浴室から出ていくリーナの足音を聞きながら、壮太はその場で天井を見上げた。


「異世界、刺激が強すぎる……」


 だが同時に、胸の奥では別の熱も灯っていた。


 ステータス。

 スキル。

 解放される補助機能。

 そして《神速積載庫》という、自分だけの運ぶ力。


 この世界で自分が何をできるのか。

 その輪郭が、少しだけ見え始めていた。


(よし)


(まずはレベルを上げるか)


(運んで、稼いで、役に立って)


(できれば、ちゃんとモテる方向で)


 最後だけ少しだけ俗っぽい決意を胸に、壮太はもう一度湯へ沈んだ。


 異世界の二日目は、思った以上に忙しくなりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ