第178話:運送屋、少し自由になる
昼過ぎ、一行を乗せた馬車は王都からかなり離れた街道を進んでいた。
両側に広がっていた農地はいつしか深い森へ変わり、木々の隙間から差し込む午後の日差しが、街道の上へ細かな光の模様を作っている。
道そのものは比較的平坦だったが、ときどき古い轍や浮き上がった石を踏むたびに馬車は大きく揺れ、そのたびにソータは左右に座るエルシアとリシェラを意識しないよう余計な努力をする羽目になっていた。
午前中から《男気》の調子がおかしい。
いや、おかしいというより、日に日に強くなっているのが自分でも分かるようになってきた。
女性へ触れたいと思うことも、近くにいる女性の匂いや体温を意識することも、地球にいた頃の自分ならここまで露骨ではなかったはずだ。
(意識するなって思うほど意識するんだよな……。)
向かいに座っていたアルベールが、不意に窓の外へ目を向けた。
「そろそろ頃合いでございますな。」
「何の?」
ソータが尋ねると、アルベールは懐から小さな懐中時計を取り出した。
「わたくしはここから先に夜の城へ向かい、皆様が明日の夕刻には到着される予定であることをお伝えしてまいります。」
「え?」
ソータだけではなく、双子もアルベールを見る。
「今から?」
「はい。」
「だったら馬車は?」
「御者にはそのまま進んでいただきます。街道もこの先しばらく一本道でございますので、問題はございません。」
アルベールは何でもないことのように答えた。
それでもソータには一つ、大きな問題が残っている。
「いやいや。アルベールがいなくなったら、俺と姫様たちだけになるだろ。」
「御者がおります。」
「車内にはいないだろ!」
「左様でございますな。」
アルベールは穏やかに頷いた。
しかも、続く言葉はソータにとってさらに悪かった。
「ご安心くださいませ。馬車には先ほど結界を張っております。」
「結界?」
「外部から内部の様子は見えません。音もある程度遮断されますので、皆様には安心してお過ごしいただけます。」
「何を安心しろって言ってるんだよ!」
リシェラが口元を押さえた。
エルシアも窓の外を向いたが、肩が僅かに揺れている。
絶対に笑っている。
「待てよ。だったら俺が先に行けばいいだろ。」
ソータは思いついたように言った。
「俺なら《神速積載庫》に必要な物も入ってるし、アルベールより速く行ける方法だって――」
「では、エルシア様とリシェラ様のお相手は、どなたがなさるのでございますか?」
「……。」
ソータは止まった。
二人の事を頼まれたのは自分だ。
アルベールは護衛としては申し分ないが、姫様たちは退屈するに違いない。
「……俺ですね。」
「はい。」
「分かって聞いたよな?」
「もちろんでございます。」
アルベールは満面の笑みで答えた。
「絶対わざとだろ。」
「それでは、ソータ様。お二人をよろしくお願いいたします。」
「その言い方やめろ。」
「エルシア様、リシェラ様。明日の夕刻、夜の城にてお待ちしております。」
二人の王女がそれぞれ礼を返す。
アルベールは走行中の馬車を一度止めさせ、街道へ降りると、杖すら使わず足元へ転移用の魔法陣を展開した。
「アルベール。」
「はい?」
「ミレイユに余計なこと言うなよ。」
「どの辺りまでが余計なことでございましょう?」
「《男気》とか。」
「すでに報告しております。」
「おい!」
淡い光がアルベールの身体を包む。
「では皆様、よい旅を。」
「待て、じじい!」
ソータの抗議を残し、アルベールの姿は光の中へ消えた。
街道に静寂が戻る。
御者が馬車を再び走らせると、車輪が石を踏む規則的な音だけが響き始めた。
ソータはゆっくり左右を見る。
右にリシェラ。
左にエルシア。
二人とも妙に静かだった。
「……何?」
「何も。」
エルシアが答える。
「何もありません。」
リシェラも答えた。
(絶対何かある。)
◆◇◆
アルベールがいなくなってから、まだ十分も経っていなかった。
「暑くありません?」
最初に動いたのはリシェラだった。
「暑い?」
ソータは窓の外を見る。
森の中を抜ける風はむしろ涼しい。
馬車の窓も少し開けてあるため、車内が蒸しているとは思えなかった。
「私は暑いです。」
そう言うと、リシェラは旅用の上着の留め具へ指をかけた。
「じゃあ、少し窓開ける?」
「いえ。服を減らした方が早いです。」
「待って。」
一つ外れる。
「姫様。」
二つ目に指がかかる。
「何です?」
「何で俺を見ながら脱ごうとしてるの?」
「偶然です。」
「絶対違う。」
リシェラは悪びれる様子もなく、上着を脱いだ。
もちろん、その下にもきちんとした薄手の衣服を着ている。
露出そのものが特別多いわけではない。
それでも、普段より身体の線が分かりやすくなった。
騎士として訓練をしている肩や腕は引き締まっているが、女性らしい柔らかさも十分に残っている。
ソータは反射的に視線を外した。
(見るな。)
「ソータ様。」
「何?」
「なぜそちらを見るのです?」
「景色が綺麗だから。」
「森しかありませんよ。」
「森が好きなんだよ。」
「先ほどまで一度も見ていませんでしたけど。」
「今好きになった。」
リシェラがくすっと笑った。
「私を見てもいいですよ?」
「そういうこと言うなって。」
「どうしてです?」
以前なら、ここでソータが慌てている様子を見て満足していたのだろう。
しかし今日は、リシェラの方からさらに身体を寄せてきた。
「リシェラ。」
エルシアが静かに妹を呼ぶ。
「何です?」
「少し露骨です。」
「姉様はしないのですか?」
「何をです?」
「暑くないです?」
「……。」
エルシアが黙った。
ソータが嫌な予感を覚える。
「エルシア様?」
「確かに、少し暑いですね。」
「嘘だろ!?」
エルシアまで外套の留め具を外した。
「姉様も同じじゃないですか。」
「わたくしは単純に暑いだけです。」
「絶対嘘!」
二人とも上着を脱いでしまった。
ソータは両手で顔を覆いたくなったが、それをすれば逆に意識していることを認めるような気がして、必死に平静を装った。
(何だこれ。)
右を見ても王女。
左を見ても王女。
しかも二人とも十九歳で、自分へ好意を持っていることはもう隠しきれていない。
地球にいた頃の自分なら考えられない状況だった。
女性に囲まれるどころか、誰かから露骨に好意を向けられた記憶すらほとんどない。
それが今では、自分へ近づこうとする女性が一人や二人ではない。
ミレイユ。
オルドアイ。
ルシア。
そして、今隣にいるエルシアとリシェラ。
王都でもパン屋の娘や教会の女性から好意的な視線を向けられた。
(……これ、そりゃ自信もつくよな。)
その時、ソータはようやく一つ理解した。
《男気》が何もないところから突然生まれているわけではないのかもしれない。
自分を好きだと言ってくれる女性がいる。
必要としてくれる人がいる。
自分が近づいても嫌がられず、むしろ喜ばれる。
そんな経験の積み重ねが、地球にいた頃の少し内気だった自分の心を変え始めている。
そこへ《男気》が加わり、変化をさらに強くしているのではないか。
(……って、冷静に分析してる場合じゃない。)
ソータは自分の身体に起きているもっと単純な変化に気づいていた。
ムラムラする。
非常に単純だった。
(俺、普通に欲情してるんだ。)
今までなら、その感覚を認める前に必死で否定していた。
だが今日は違う。
近くに綺麗な女性が二人いる。
しかも二人とも自分を嫌っていない。
意識しない方が無理だった。
◆◇◆
「ソータ様。」
リシェラが名前を呼んだ。
「何?」
「さっきから、私たちの顔をあまり見ませんね。」
「気のせい。」
「では、こっちを見てください。」
「何で?」
「話をする時は相手を見るものですよ。」
正論を使われた。
ソータが仕方なく顔を向けると、思っていた以上にリシェラの顔が近かった。
「近っ。」
「そうですか?」
「近い。」
「昨日まで、もっと近いこともありました。」
「それは馬車が揺れたからだろ。」
「今日は揺れていませんね。」
「じゃあ離れろよ。」
「嫌です。」
「即答?」
リシェラは笑っていた。
そして少しだけ顔を傾ける。
唇が近い。
あからさまだ。
以前から何度も「事故」を装ってキスを狙っていた彼女だが、今日はもう転ぶふりすらしていない。
「リシェラ。」
「はい?」
「それ、俺からキスするの待ってるだろ。」
リシェラの目が大きくなった。
ソータ自身も、口にしてから少し驚いた。
以前なら、気づいていても言えなかった。
「……分かります?」
「今日はさすがに。」
「では?」
「では、じゃない。」
「残念。」
言葉とは裏腹に、リシェラは離れない。
ソータも以前ほど慌てていなかった。
それどころか、あと少し顔を近づければ届く距離にある唇を、はっきり意識している。
(キスくらいなら。)
そんな考えが浮かぶ。
(いや、待て。)
自分で止める。
だが、その止め方すら以前とは違った。
嫌だから止めたのではない。
今ここで勢いだけで進むのが正しいのか分からないから止めただけだった。
「ソータ殿。」
今度は反対側からエルシアの声がする。
振り向く。
こちらも近かった。
「エルシア様まで何してるの?」
「わたくしは普通に座っています。」
「普通の距離じゃない。」
「リシェラには近づかれても、わたくしには駄目なのですか?」
「何で今日二人ともそんな強いの?」
「ソータ殿が、最近逃げなくなったからでしょうか。」
その言葉に、ソータは一瞬黙った。
エルシアは落ち着いた表情をしている。
けれど頬には薄い赤みがあり、本人も緊張しているのが分かる。
「わたくしたちだけが恥ずかしがるのは、不公平だと思います。」
「不公平?」
「ソータ殿は何も気づかない顔で、手を握ったり、抱き寄せたり、髪へ触れたりするでしょう?」
「それは……。」
「なのに、わたくしたちが近づくと逃げます。」
「言われてみると。」
「ですから今日は、少しくらい困っていただきます。」
エルシアにしては珍しく、意地の悪い笑みを浮かべた。
(姉の方まで攻めるようになってる。)
リシェラだけならまだ対処できた。
しかしエルシアが参加すると、逃げ道が一気に減る。
「ソータ様。」
また右から声。
「ソータ殿。」
左からも声。
「何で挟むんだよ。」
返事の代わりに、二人がさらに少し近づいた。
ソータは天井を見上げた。
(アルベール。絶対わざと置いていっただろ。)
◆◇◆
夕方近くになる頃には、ソータの方にも変化が出始めていた。
最初のうちは双子が近づくたびに距離を取っていた。
しかし何度も繰り返されるうち、逃げること自体が馬鹿らしく感じ始めたのだ。
リシェラが肩を寄せてくる。
以前なら離れた。
今はそのままにする。
エルシアが窓の外を見るためにソータの前へ身体を寄せる。
以前なら慌てて身体を引いた。
今は、ぶつからないよう腰を軽く支えるだけだった。
「ソータ殿。」
「何?」
「今、自然に触れましたね。」
エルシアが自分の腰へ置かれた手を見る。
「あ。」
ソータも気づいた。
「嫌だった?」
以前なら、すぐ謝って離していただろう。
だが今日は先にそう尋ねた。
エルシアが目を瞬く。
「……いいえ。」
「じゃあ、窓見るなら落ちないようにね。」
そう言ってから手を離す。
エルシアは少し赤くなった。
そのやり取りを見たリシェラが、当然のように寄ってくる。
「私は?」
「何が?」
「姉様には腰へ触ったでしょう。」
「必要だったから。」
「私にも必要な状況を作ります。」
「作るな。」
「では転びます。」
「もっと駄目。」
ソータは笑った。
以前なら必死で否定していた状況なのに、なぜか少し楽しくなっている。
胸の奥の熱は消えていない。
むしろ強い。
それなのに、怖さだけが少しずつ薄れていた。
(そうか。)
ソータはぼんやりと思った。
自分はずっと、誰かを好きになることにも、好かれることにも責任を考えすぎていたのかもしれない。
もちろん、相手の気持ちを軽く扱うつもりはない。
ミレイユも、オルドアイも、ルシアも大切だ。
エルシアとリシェラの気持ちも、遊びで受け取るつもりはない。
ただ。
(この世界では、俺はもう少し自由でいいんじゃないか?)
地球にいた頃の常識だけを握りしめて、目の前の気持ちから逃げ続ける必要はないのかもしれない。
複数の女性から好意を向けられている。
その関係を、こちらの世界の彼女たちは最初から完全には否定していない。
なら、自分だけが頑なに「こんなのはおかしい」と決めつけることもない。
(……ちゃんと相手が望んでるなら。)
そこまで考えた瞬間、《男気》が胸の奥で大きく脈打った。
姿勢が自然に伸びる。
隣にいたリシェラが、何かを感じたようにソータを見る。
「ソータ様?」
「何?」
「今、少し雰囲気が変わりました。」
「そう?」
「はい。」
リシェラが見つめてくる。
以前のソータなら目を逸らしていた。
今日は逸らさなかった。
「リシェラ。」
「はい。」
「そんなに近づいてると、本当にキスするかもしれないよ。」
「……。」
リシェラが固まった。
数秒後、顔が真っ赤になる。
ところが。
「……いいですよ。」
小さく答えた。
今度はソータが固まった。
「そこで即答するの?」
「先に言ったのはソータ様です。」
「そうだけど。」
胸の熱が一気に増す。
ソータがわずかに顔を近づける。
リシェラは逃げない。
あと少し。
その時。
「リシェラ。」
エルシアの声が入った。
「何です?」
「抜け駆けです。」
「姉様が止めたら、また事故しか狙えなくなるではありませんか。」
「そもそも事故を狙わないでください。」
「では姉様が先にします?」
「そういう話ではありません!」
結局、キスは流れた。
ソータは座席へ背を預け、長く息を吐く。
「……俺、本当にキスするところだった。」
「してもよかったのに。」
「リシェラ。」
「何です?」
「今それ言われると本気で危ない。」
「では言いません。」
少し間を置く。
「今は。」
「追加するな!」
エルシアが呆れたように笑った。
しかし、その目は少しだけ羨ましそうだった。
◆◇◆
日が暮れる前、一行は街道脇にある小さな休憩地で馬車を止めた。
石造りの古い水場と簡素な屋根だけがある場所で、旅人が夜を越すために使う場所らしい。
御者は馬の世話をするため外へ出たが、アルベールが張った結界のおかげで馬車の中は外から見えず、鍵をかければ安全性も高い。
ソータは《神速積載庫》から食事と毛布を出した。
「今日はここで寝ます。明日朝早く出れば、予定通り夕方過ぎには夜の城へ着くはず。」
「分かりました。」
エルシアが答える。
問題は寝る場所だった。
馬車の座席は向かい合わせで、背もたれを倒せば簡易寝台として使える。
三人なら十分な広さはある。
十分な広さはあるはずだった。
「何で二人ともこっち側なの?」
「反対側は揺れます。」
リシェラが答えた。
「止まってる馬車の何が揺れるんだよ。」
「寝返りです。」
「意味が分からない。」
エルシアは少し離れた場所へ毛布を敷いている。
「わたくしは普通に寝ます。」
「さすがエルシア様。」
「ただし、ソータ殿は中央で。」
「何で?」
「護衛です。」
「またそれ!?」
結局、ソータが中央。
右にリシェラ。
左にエルシア。
(昨日の馬車から何も進歩してない。)
灯りを落とすと、車内は静かになった。
外では虫の声が聞こえ、遠くで馬が鼻を鳴らしている。
「ソータ様。」
「何?」
「起きています?」
「今寝ようとしてた。」
「一つだけ聞いていいですか?」
「何?」
暗闇の中で、リシェラの声が少し真面目になる。
「今日言ったこと、本気でした?」
「どれ?」
「私が近づいたら、キスするかもしれないって。」
ソータは少し黙った。
誤魔化すこともできた。
でも今日は、なぜかそれをしたくなかった。
「本気。」
リシェラが息を止めたのが分かった。
「俺も自分でちょっと困ってるけど、本気だった。」
「……そうですか。」
声が嬉しそうだった。
反対側からエルシアの声がする。
「ソータ殿。」
「エルシア様も起きてたの?」
「この距離で眠れると思いますか?」
「俺に言われても。」
「わたくしにも一つだけ。」
「何?」
「リシェラだけですか?」
ソータは天井を見上げた。
(今日は逃がしてくれないな。)
それでも、不思議と嫌ではなかった。
「……エルシア様も。」
静かになった。
数秒後。
「そうですか。」
エルシアの声も、少しだけ嬉しそうだった。
それ以上は誰も何も言わなかった。
リシェラも強引には近づいてこない。
エルシアも静かに横になっている。
だからこそ、ソータは余計に二人の存在を意識した。
(夜の城まで、あと一日か。)
そこへ着けばミレイユがいる。
オルドアイがいる。
ルシアもいる。
今の自分の中に溜まっている熱を、少なくとも気持ちとして受け止めてくれる相手がいる。
(あと一日。)
そう考えながら目を閉じる。
しばらくして、ソータは眠りへ落ちていった。
◆◇◆
翌朝。
鳥の声で目を覚ましたソータは、まだぼんやりした頭のまま天井を見つめた。
朝の光が窓から差し込んでいる。
「……ん。」
身体を起こそうとして、違和感に気づいた。
妙に静かだ。
左右にいたはずのエルシアとリシェラがいない。
「姫様?」
上半身を起こす。
すると二人はいた。
ソータの足元付近に。
しかも並んで座り、何かを真剣な顔で見ている。
「……何してるの?」
双子が同時に顔を上げた。
「おはようございます。」
エルシアが言う。
「おはようございます、ソータ様。」
リシェラも言う。
「いや、おはようじゃなくて。」
二人の視線が、また下へ戻る。
ソータもつられて自分を見る。
毛布の下。
寝起きの男なら珍しくもないはずの、生理的な主張があった。
「……。」
ソータの眠気が一瞬で吹き飛んだ。
「見るな!!」
慌てて毛布を引き上げる。
リシェラが首を傾げた。
「でも、かなり分かりやすかったので。」
「言うな!」
エルシアは頬を赤くしながらも、妙に真面目な顔をしていた。
「男性には朝、そのようなことがあるとは聞いていましたが。」
「解説しなくていいから!」
「姉様、私も初めて見ました。」
「わたくしもです。」
「感想会を始めるな!」
ソータは毛布を腰までしっかり引き上げた。
「いつから見てた!?」
双子が互いを見る。
「少し前から。」
リシェラが答えた。
「起こすべきか迷っていました。」
エルシアが続けた。
「迷うところじゃないだろ!」
「触ったりはしていません。」
「当たり前だ!」
リシェラが少しだけ残念そうに見えた。
「リシェラ、その顔やめろ。」
「どんな顔です?」
「興味津々な顔。」
「興味はあります。」
「認めるな!」
エルシアが妹を止める。
「リシェラ。あまりソータ殿を困らせてはいけません。」
「姉様も見ていたでしょう。」
「それは……目が覚めたら視界に。」
「途中から観察していましたよね?」
「観察という言い方はやめなさい。」
「二人ともやめろ!!」
朝の静かな街道に、結界で外へ漏れることのないソータの叫びが響いた。
昨日ソータは思った。
(この世界では、俺はもう少し自由でいいのではないか?)
その考え自体は、たぶん間違っていない。
しかし。
(自由にも限度は必要だ。)
少なくとも、双子の王女を相手にするときだけは。
ソータは毛布を抱えたまま、心の底からそう思った。




