幕間3 皇桜
会社に正式に復帰して順調に働き出してから一ヶ月。
行き帰りに託児所に寄るパターンが定着しかけた頃、帰り際に所長に呼び止められた。
「何でしょうか?」
「申し訳ありません」
いきなり頭を下げる中年の女性。
その後ろには数人の若い保育士だか職員だかが並んでいる。
全員、思い詰めた表情だ。
「本当に申し訳ないのですが、こちらの力不足で」
「あの?」
言いにくそうに所長が語ったところによれば、娘が託児所内で浮いているというか恐れられているそうだ。
保育士の人がどんなに話しかけても返してこない。
何か言っても生返事。
子供をあやすことにそれなりの自信があった職員たちが軒並み撃沈。
かといって周りを無視しているわけではなく、お昼とかおトイレ、着替えなどには素直に従う。
ただ干渉を完全に拒否しているだけだと。
「ほっておいて頂ければ」
「そういうわけには参りません。大切なお子さんをお預かりしているのですから最低限度のお世話は当然です。ですが」
結論から言うと追い出された。
娘について責任を持てないそうだ。
いや、別に何があったというわけでもないらしいんだけど、一見すると自閉症にしかみえない娘が黙々と絵本を消化している様子を見ると明らかに違う。
それでも他の子供に迷惑を掛けないのならば、と我慢してきたのだが、最近ついに所内の絵本を読み尽くしてしまったらしく、何もせずにぼーっとしているという。
もう精神科にかかるレベル。
でも相変わらずトイレやお食事は問題なし。
とうとう保育士さんたちの精神に限界が来たと。
しょうがない。
託児所もボランティアじゃないので手に負えない児童は拒否する権利がある。
娘は自宅に戻るといつものように部屋に閉じこもった。
さて、どうするか。
夫に電話して娘の一大事だから早く戻ってくるように言ったところ、大車輪で仕事を片付けたらしくて夕食前に帰ってきた。
娘を寝かしつけてから相談する。
「というわけで託児所を首になりました」
「何だそりゃ。それでもプロか」
「そうは言ってもね。私達はあまり気にしないけど他人からみると」
「まあな」
不気味なことは確かなのよ。
何かあったときに責任取りたくないのも判る。
「だがサクラも仕事に手を抜けないだろう」
「ええ。だからこの際、ベビーシッターを雇おうとか」
夫は顔を顰めた。
「他人をこの家に入れるのはな。それ以前に翡翠を知らん奴に任せる気にはなれん」
「うん、だから知り合いに来て貰えばと思って」
「知り合いって……萩原さんのところの子か!」
「あの子、暇そうだったから来年の就職までだったら引き受けてくれるかも」
あの子もちょっと変だから丁度いいわよね?




