51.簡単にできてしまった
4歳児だからもちろん性徴はゼロで、多分男の子と変わりない。
それでも自分の顔が母親に似ていることは判った。
将来美人になりそう。
まあ醜いよりはいいけど顔の美醜は僕にとって問題ではない。
ヒキニートにモテはいらない。
むしろ下手に目立って色々と絡まれたりするのは御免だ。
かといって凡人はそれなりに面倒なんだよなあ。
大きくなってから考えよう。
さて。
前世での経験を思い出しながら身体をうつぶせに水に沈めてみる。
問題なく浮いた。
泳ぎでも前世の経験が役に立つとは。
顔を水に浸けてみる。
簡単にできてしまった。
おいおい、これってチートなんじゃ?
まあ泳げるというか浮けるだけだけど。
母親が心配するといけないので、泳ぐんじゃなくて手を使ってプールを這い進んでみる。
なかなか楽しい。
でもこれでは身体を鍛えるというわけにはいかないか。
しばらくプールを這い回ってから立ち上がって母親のところに行く。
母親は妹と一緒にプールサイドの寝椅子の所にいた。
妹は眠っているようだった。
それは疲れるだろうな。
初体験だし。
「スーちゃん、ちょっとメノを見ていてくれる?」
母親が言ってきた。
「わかった」
「お願いね」
4歳児に1歳児の世話を丸投げする親というのも凄い。
僕がそれだけ信用されているということか?
母親がぶっ飛んでいるだけかも。
寝椅子によじ登って妹の隣に座り込んでいると、母親はスタスタと50メートルプールの方に進んで簡単なストレッチをしてから飛び込んだ。
いきなりかよ。
クロールで泳いで向こう側の端をタッチしてからそのまま引き返してきた。
速くない?
ひょっとして僕の母親、水泳の選手とかだったの?
唖然としている内に母親はプールからザバッと上がってそのままスタスタと戻って来た。
僕たちの隣の寝椅子に寝そべる。
「堪能した」
もう?
常識外れは僕だけじゃなかったのか。
小説の主人公みたいだ。
2人の子持ちだけど。
そういえば僕の母親って何歳なんだろう。
年長の子供が4歳ってことは、ひょっとしたらまだ20代?
いや前世の常識に囚われていた。
僕の晩年には女性の社会進出が進んで、それに伴って結婚年齢や出産年齢も上がっていた。
30歳で結婚なんて若い方だった。
赤ちゃんがいても親は三十代が当たり前だったもんなあ。
でもこの時代はまだ女性の結婚が早かったし、子供も二十代のうちに作るのが当たり前だったと思う。
二人の子持ちでもまだ若くて綺麗ならヒロインやれるのでは。
いやいや、小説じゃないんだし。
幸いにして僕たちのところには誰も近寄ってこなかった。
ナンパなんか滅多にあるもんじゃない。
遊び場ならともかく市内の屋内プールではね。
そもそもあまり人がいない。
僅かにいる人たちは全員、黙々と泳いでいるだけだ。
それが本来の目的なんだよ。
どうも僕の思考って小説の影響が強いみたいだ。
前世ではそれなりに読んでいたけど、それも若い間だけだった。
中年以降は露骨にオヤジだったからなあ。
晩年は目や身体がボロボロだったのでエンタメから遠ざかっていたし。
そもそもロマンスや恋だの青春だのとは無縁の人生だったからな。
まあいい。
僕はまた子供用プールに行って泳ぎ回った。
あまり楽しくない。
やっぱり大人用のプールじゃないと。
1時間くらいで引き上げる時に母親がパンフレットを貰っていた。
帰宅してお風呂に入った後、部屋で休んでいたら母親に呼ばれた。
「スーちゃん、どうだった?」
「あまり面白くなかった」
「そうよね。
幼児向けのスイミングスクールがあるみたいだけど」
母親によるとあのプールは会員になれば自由に使うことは出来るけど、有料で泳ぎを教えてくれるコースもあるらしい。
「いらない」
「スーちゃんならそう言うと思った」




