49.前世で聞いたけど何百万もかかるのでは
僕はヘルメット被って自転車で公園内を走り回って怒られた。
危ないから禁止されているそうだ。
一人で町内を回りたかったけど、そうするとまた母親が怒られるので我慢。
でもすることがない。
そもそも公園にはママたちと乳幼児しかいなかった。
4歳にもなれば普通は保育園か幼稚園に行っているそうだ。
お節介なママ友の人が「おともだち欲しくないの?」とか話しかけてきたけど「いらない」と言って撃退した。
それでもしつこく絡んでくる人からは子供らしく逃げる。
ここで小学生用の教科書とか読んでみせれば一発なんだろうけど、そうしたら神童の噂が広まってしまう。
なので我が儘な子供一本槍でいく。
母親に連れて行かれた公園で最低限遊んだ後、「もう帰る」といって引き上げる事にした。
そして自分の部屋でヨガやったりシンセ弾いたり通信教育やったりして一日が過ぎていく。
飽きないかって?
僕、社会人として何十年も働いた経験があるんだよ。
無味乾燥な仕事を延々とやらされることに比べたら何でもない。
しかもここには話が通じない上司も話の判らない同僚も言うことを聞かない部下も、そして何より無茶ぶりしてくる顧客もいない。
それだけで天国だ。
独学にしてはシンセの腕も結構上がった。
もともと前世では子供の頃にちょっとピアノとか弾いていたんだよ。
親に塾に通わされて。
半世紀以上前に覚えた鍵盤の叩き方はもちろん錆び付いていたけど、基礎は身に染みこんでいる。
ネットがあったら幼女の演奏風景を撮ってアップしたいところだけど、残念ながらまだスペースネットは存在しない。
まだ家庭用コンピュータも黎明期で。
僕の前世では、コンピュータ自体は第二次大戦前に発明されていたと思う。
最初はリレー式の奴で、半導体とかチップなしでも電子計算機は作れるから。
第二次大戦で暗号解読のための計算機が作られて、それからどんどん発展した。
僕も前世では一応技術者だったから、そこら辺の歴史は知っている。
こっちの世界でも大体似たような発展をすると思うんだけど。
でもまた一般庶民には無縁な話だ。
あと十年もしたらパソコンが一般にも広まるはずなんだけど。
今はまだ一部のマニアのオモチャだろう。
将来ヒキニートとして生きるためにはコンピュータとネットは不可欠だからね。
一般向けに発売されたら親に強請って手に入れるつもり。
そういうわけで毎日結構忙しく過ごしていたら、ある日夕食後に両親から聞かれた。
「スーちゃん、何かしたいことはない?」
「別にない」
何なのかと思ったら、母親がママ友たちから聞かされたそうだ。
普通の子供は保育園や幼稚園の他にお稽古事やスポーツ教室に通うものらしい。
「水泳とかスケートとか」
「本気でピアノ、やってみない?」
「バイオリンなんかもいいのでは」
お金がかかりそうだな。
バイオリンか。
前世で聞いたけど何百万もかかるのでは。
「いい」
塾通いなんかまっぴらだ。
勉強が嫌なんじゃなくて、教師とか先生とかに命令されたり同年代の子供と一緒に何かするのも絶対嫌だ。
いや待てよ。
僕の将来の目標はヒキニートだけど、自活出来て健康であることが必須条件だ。
引きこもりは不健康になるから早死にしそうだし。
なので体力をつけるというか、身体を鍛える必要がある。
でもスポーツはやりたくない。
とすれば。
「泳ぎを覚えたい」
言ってみた。
本当は体操がいいんだけど、この時代にそれだけを教えてくれそうな場所は思いつかない。
もしあったとしても教師がいて色々言われそうだし。
泳ぎなら基本的に個人競技だ。
リレーとか団体戦とかはもっと後で、4歳児だったらパチャパチャやってるだけでいいはず。
「あら、いいわね」
案の定、母親が乗ってきた。
「私も随分泳いでないわ。
ていうか結婚してからは一度もなかったような」
「だな。
新婚旅行が最後か」
両親の話によると新婚旅行で伊豆に行ったらしい。
ハワイとかじゃないのか。




