46.急ぐことはないんだ
次の週には小さいながらも立派なジョギングシューズが届いて、僕は早速ウォーキングに出かけた。
町内一周もしないうちにバテた。
こんなに体力なかったのか。
ついてきてくれたえみちゃんに背負われて家に戻ってぶっ倒れる。
これはイカン。
次の日はもう筋肉痛だったけど、僕は無理にでもストレッチした。
これ、筋肉の柔らかさには効果あるけど体力がつくわけじゃないんだよね。
えみちゃんに相談して無理なく鍛えられそうな運動ノルマを作って貰う。
「最初は歩きね。
目標達成出来たら距離を伸ばしたりタイムリミット決めたりすれば」
「わかった」
急ぐことはないんだ。
まだ僕、3歳だし。
そうして僕の一日のパターンが出来上がった。
朝起きたらまずストレッチして身体をほぐしてから母親と一緒にご飯を食べて、午前中は通信教育をやる。
まずは小学校高学年というか私立中学受験対策用の問題に挑んでいるんだけど結構難しくて満点は取れない。
完璧になるまではここで足踏みだ。
気分転換にシンセ弾いたりしながらノルマ分の勉強を終わらせてお昼ご飯を食べ、午後にはその日の運動ノルマをこなす。
最初は町内一周でバテてたんだけど、最近ではちょっと遠くにある公園まで平気で往復できるようになった。
当たり前に思えるけど3歳児には遠い。
現在は図書館まで歩いて行けるようになることが目標だ。
「本を背負って?」
「そうだった」
手押し車とかダサいな。
そういえばもっと速い移動手段があるじゃないか!
「自転車が欲しい」
「まずは三輪車でしょ」
えみちゃんに頼んだら返された。
そうか。
あれもペダル式だった。
えみちゃんが早速手配してくれたらしくて、翌週には紅い三輪車が届いた。
両親、僕に甘すぎない?
「メノちゃんも使うからいいんだって。
どっちにしても大した金額じゃないそうよ」
「助かる」
なるほど。
妹が免罪符になっているのか。
でも妹の奴、自分が貰える物が全部僕のお下がりだと知った拗ねない?
「適当に新しい物も混ぜるって」
僕の両親もいい加減だな。
まあいいけど。
僕は早速三輪車でのサイクリング? を毎日のルーティンに導入した。
これ、歩くより疲れるんだけど。
しかも荷台がないから本を積めない。
あまり役に立ちそうにも無い。
「自転車はまだ無理だと思うよ。
どっちみち身体を鍛えるんでしょ」
「そうだった」
地道にウォーキングを頑張るしかないか。
季節が変わって妹の誕生パーティがあったりしているうちに、いつの間にか僕の努力の成果? が現れてきた。
私立中学受験対策用の通信教育は満点とまではいかないまでも、ほぼ安定して9割を取れるようになった。
なので今は有名私立中学の入試問題集を買って貰ってやっている。
実際の入試に合わせて時間制限でやったら最初は5割も取れなかった。
時間無制限でも合格点までいかない。
「こういう問題って解き方を教えて貰わないと無理なんじゃない?」
えみちゃんが言うには私立中学の受験問題は義務教育の要項に従う義務がないらしい。
公立の小学校で使うのは教育指導要領に従って作られた教科書なんだけど、私立の受験ではそれに載ってない知識や解法がバンバン出てくる。
そういうのはお受験用の塾に行かないと教えて貰えないらしい。
僕がやっていた通信教育って何だったのか。
「知らなかった」
「私も。
世知辛いよね」
愚痴をこぼしても仕方が無い。
幸いにして私立中学や中高一貫校の過去問題集には答えと解説が載っている。
両親に相談して貰ったら無条件で買ってくれた。
もう諦められている臭い。
これってあれかな?
異世界物の小説に出てくる出来が良すぎて親に放置される姉と可愛がられる妹の図?
「さくらさんとロクさんは別にスーちゃんを放置しているわけじゃないと思うよ」
えみちゃんが呑気に言った。
「ただ理解出来ないから好きにさせているだけで」
それが放置、いや育児放棄というのでは。
僕が望んだことではあるけど(泣)。




