44.むしろライフワークかな
えみちゃんは僕の憂鬱を晴らしてくれただけじゃなくて、僕と両親との通訳(笑)をやってくれることになった。
月に一回くらい遊びに来てくれて、僕の要望を聞き出して両親に伝えるという役目だ。
僕が直接言ってもいいんだけど、そうすると僕の異常性が露わになって両親との仲がぎくしゃくするかもしれないらしい。
「私はほら、そういうことの専門家ということになっているから」
「本当?」
「嘘。
神童との付き合い方なんか知らないし」
心理学関係の学位を持っているからといって何でもかんでも出来るなんてあり得ないそうだ。
でも世間の人にはそんなこと判らないのでハッタリで行くらしい。
「だからスーちゃんも合わせて」
「わかった」
そういうことなら協力するのにやぶさかではない。
それにしてもスーちゃん、僕のことに時間と手間を使いすぎなのでは。
仕事はともかく趣味や遊びが犠牲になってない?
友達と会う暇ってあるの?
聴いてみたら淡々と応えられた。
「スーちゃんが趣味みたいなものだし。
むしろライフワークかな。
神童の成長をかぶりつきで見られるなんて心理学徒冥利に尽きる」
そんなもんですか。
「それに私、友達いないし」
さらっと自白したけど、そんな気はしていた。
いいんだよ。
僕だって前世では友達なんかいなかったし(泣)。
社会人はそれでもやっていける。
それから僕は好きなようにやった。
ていうか両親が協力してくれた。
シンセサイザーの演奏が周りに迷惑にならないように、僕の部屋をリフォームして防音機能を上げたり。
録音用の機器を揃えてくれたり。
ちなみにこの時代はまだカセットテープが出てきたばかりなので、結構高価だったみたい。
家が裕福で良かった。
最初から貧乏だったら将来ヒキニートになるのも大変だろうし。
図書館通いも続けている。
母親は週に一度くらい、僕を自転車に乗せて出かけていっては借りていた本を返して新しい本を借りる。
その頃になると僕はヤングアダルト的な本を読んでいた。
青少年向けなのでライトな恋愛とか友情とか難病とかがテーマだったけど、えみちゃんはもちろん母親も何も言わなかった。
露骨なエロでなければ許可されたみたい。
まあ3歳児だし。
家ではせっせと通信教育をこなす。
そのための参考書も買って貰った。
こんなに大量に買って大丈夫なんだろうか。
えみちゃんに聞いたら肩を竦められた。
「スーちゃん、普通の子供のオモチャを全然欲しがらないからその分の費用を回しているみたいよ。
お人形さんとかおままごとの道具とか結構高いし」
さようで。
そういえば気がついたら僕の部屋に転がっていたオモチャが全部なくなっている。
気がつかないうちに片付けられたな。
「ごめん」
「私に謝られても意味無いし。
それにオモチャはメノちゃん用にとっておいてあるって」
妹用になるらしい。
姉のお下がりとか嫌がられないかな。
「妹にごめん」
「スーちゃん、オモチャでほとんど遊ばなかったらみんな新品同様だって。
お下がりだと気づかないんじゃない?」
それはそれで悪い気がする。
まあいい。
毎日定例の瑪瑙のご機嫌伺いに行くとベビーベッドでよく寝ていた。
猫が寄り添っている。
最近見ないと思ったらこっちに鞍替えしたか。
しかしむしろ猫の方がベッドの主みたいだぞ。
猫が僕を睨みつけてきた。
敵に回りやがった。
いいもん。
引き上げる。
気晴らしにシンセサイザーでうろ覚えの曲を弾いていると、いつの間にかえみちゃんがドアから覗いていた。
「それ、何て曲?」
「知らない」
いや、本当に覚えてない。
前世で流行ったアイドルだかアニメだかの曲だとは思うけど。




