43.陰謀論はやり過ぎでしょう
えみちゃんが次の週に持ち込んできたのは小学校高学年用の問題集だった。
飛躍しすぎじゃない?
ていうか、これって本当に小学生向け?
今の僕でも結構難しいんだけど。
まあいい。
さすがにサクッとは出来なかったけど、全科目8割はイケた。
こういう基礎知識って忘れないものだよね。
ちなみに1割くらいは僕の前世と今世の歴史や字が違っていたための誤答だった。
数学の公式なんかは同じだったけど、まさか円周率や三角関数まで出てくるとは思わなかった。
前世では理系だったのに解法を忘れてしまっていた。
反省。
ていうかそんなの社会人になったらいくらエンジニアでも関係ないから!
全部コンピュータ任せだったから!
両親はここに至ってやっと僕の異常性を本当に認識したみたいだった。
それまではちょっと賢い娘が一生懸命背伸びしているな、というような認識だったみたい。
でも3歳で小学校高学年レベルの実力があるとしたら。
12歳並の知能を持つ3歳児。
単純計算で12/3=4だから知能指数400。
馬鹿馬鹿しい。
僕を前にして両親とえみちゃんが議論している。
「あまり大っぴらにはしない方がいいと思います」
「そうよね」
「下手に世間に知られたら色々危ないかもしれんな。
誘拐とかされるかも」
いや、どこかの小説じゃないんだから。
陰謀論はやり過ぎでしょう。
でも確かに。
天才児とか名が知れてしまったら成長したときは凡人だから「あの人は今」みたいに晒し者になるかもしれない。
僕の将来の希望は余裕のある無名のヒキニートなんだよ。
出来れば社会の雑踏の中でひっそりと生きていきたい。
「当面はスーちゃんの希望を出来るだけ叶える方向でいいと思います。
勉強方面もよし、音楽の道に進むもよし」
「そういえばスーは天才演奏家でもあるんだな。
ホントに俺たちの娘か?」
「それは間違いないけど、頭の中身は突然変異かもしれないわね」
中身はおじさん、いや後期高齢者です(泣)。
「スーはどうしたい?」
いきなり父親が聞いてきた。
3歳児に何を。
「勉強したい」
つい、応えてしまった。
バケモノ確定(泣)。
「そうか」
「ホントに私達の娘とは思えないわ」
いや、そういう意味ではなくてですね。
あまりにも退屈だし、色々この世界のことを学んで将来ヒキニートでありつつ自活出来るようにと。
「まだスーちゃんは3歳です。
とりあえず小学校入学までは好きにやらせてあげては」
えみちゃん、頼もしいぞ!
すると両親はコソコソ話してから僕に聞いてきた。
「スーちゃん、保育園とかどうする?」
「行きたくない」
即答。
当たり前でしょう。
後期高齢者が幼児に交じってお遊戯とか吐き気がする。
「そうよね」
「確かに」
両親は納得してくれたみたいだった。
僕には実績があるからね。
駅前託児所を出禁になったこともある。
「スーちゃんにはそんなものは不要です。
メンタル面では既に完成しているかと」
えみちゃんが危ない橋を渡った。
そう、僕の異常性は知能とか演奏とかじゃない。
精神年齢だ。
幼女の頭に巣くう後期高齢者の心。
医者に診せたら病院送りになるレベルかもしれない。
「スーの前に他の園児が耐えられないかもしれないし」
「確かに。
保育園も幼稚園もなしでいいか」
とりあえず助かった。
これであと3年くらいはゆっくり出来そう。
「スーがずっと家に居ることになるけど、さくらはいいか?」
「保育園への送り迎えや保護者の用事がなくなる分、むしろ楽かも。
どっちみち瑪瑙の世話で家に居るし」
妹は瑪瑙というらしい。
僕と同じくらいテストの時に自分の名前を書くのに苦労しそうな名前だな。
グレないことを祈ろう。
というわけで僕は保育園行きを免れた。
幼稚園もブッチしてやる。
いくら退屈でもお遊戯や園児との交流は願い下げだ。




