41.えみちゃん、僕の正体知ってる?
僕の妹は生まれて一年もたってないけど泣き声が僕の部屋まで聞こえてくるくらい元気だった。
まだ起き上がれないのに既に手足を振り回して暴れているらしい。
僕はその頃になると興味が失せて一日一回くらいしか会いに行かなくなっていた。
でも会うと僕が判るらしくて泣きもせずにじっと見つめてくる。
こいつも転生者なのか?
あまりカカワリアイになりたくないなあ。
僕は自分が将来立派なヒキニートとしてやっていけるようにすることだけで頭がいっぱいなんだよ。
妹は健全な社会人になって欲しい。
音楽にハマッたのは想定外だったけど、これはどっちかというと暇つぶしに近い。
将来音楽で食っていくとか全然考えてないし。
他にやることがないから演奏しているだけで。
とはいえ、母親がすっかり回復した上に妹をつきっきりで世話しなくてもよくなったので図書館通いを再開している。
僕も三歳児ということで小学校低学年向けの本を借りてもちょっと背伸びしている程度に思って貰えるようになった。
そう思いたい。
でもまだ自分では本を借りたり、それどころか一人で図書館に行くことも無理なので母親に連れていって貰っているんだけど。
世間向けには凡人枠で通すつもりなので、あまり歳とかけ離れた本は借りられない。
悶々としていたら、ある日えみちゃんが遊びに来て言ってくれた。
「スーちゃん、そろそろ正体をバラさない?」
ギクッ。
えみちゃん、僕の正体知ってる?
身体は幼女、心はおじさん。
いやむしろ後期高齢者。
キモ過ぎる。
「嫌」
「そう言わずに。
こんなに身近に神童がいるんだから興味が抑えきれなくて」
ああ、そういうことか。
転生者じゃなくて単なる天才児だと思われているわけね。
助かった。
我ながらよくやった。
僕、前世があるような言動は極力避けてきたからね。
極端に早熟な子供に見えるように動いてきたし。
となれば。
「小学校用の教科書」
言ってみた。
「え?
いきなり?」
驚くえみちゃん。
それはそうだろう。
僕はまだ三歳児だ。
教科書どころか文章、いや文字すら教えられていない。
そんなのが教科書を欲しがっているんだぞ。
いくら神童でも無理がある?
しかしえみちゃんはちょっと考えてから頷いた。
「……それは私だけの判断では無理。
さくらさんたちにも納得して貰う必要があるんだけど、いい?」
えみちゃんも大概だ。
そんな複雑な話を三歳児にして判ると思っているのか。
判るけど。
僕は即答した。
「いい」
だってもう、限界なんだよ。
あまりにも退屈すぎる。
楽器演奏だけではすぐに飽きてしまう。
せめて文字だけの本くらい読まなければやってられるか。
三歳児ともなれば早熟な天才なら小学校の教科書くらいは読めるよね?
えみちゃんはその日、父親が帰宅するまで居てくれて、夕食の後両親と話したらしい。
両親にはどんな会話だったのかは教えて貰えなかったけど、後でえみちゃんがダイジェストで話してくれた。
まず、前提として僕が神童であることを両親に解説したそうだ。
えみちゃんが心理学関係の大学を出て仕事でそっち方面のことをやっているから説得力がある。
その上で、このままでは僕の才能を潰すどころか人生を誤らせる可能性が高いと。
曰く、僕は既に文字を習得していてある程度複雑な文章も読める。
教えられてもいないのに無理じゃない? という疑問については、どこかの外国の天才児は3歳で文字が読めたという話を引き合いに出して説明したそうな。
でもその天才児は逆さ文字しか読めなかったらしい。
というのは父親が毎晩聖書を朗読するのを対面で見ていたため、上下逆向きの文字で覚えてしまったと。
そんな大天才と比べないでよ!
それにアルファベットと日本語では複雑さが桁違いだと思うけど。




