40.アイドルが出てくるのはまだ先みたい
「耳コピから入ると。
さすがはスーちゃん。
よし」
判ってくれたようだ。
えみちゃんは頼りになるなあ。
でもプレーヤーもレコードも高いのにどうするんだろう。
えみちゃんはまだ新入社員だろうからお給料ってそんなに高くないだろうし。
「まかせて」
ウインクするえみちゃん。
そして本当に何とかしてしまった。
言葉巧みに僕が音楽をやりたい、じゃなくてとりあえず聴きたいことを両親に伝えて、母親にほっておかれても大人しくしている僕へのプレゼントとしてレコードプレーヤーとレコードを贈ることを約束させてしまった。
僕の妹にかかりきりで長女を放置している自覚があったらしくて、両親はすぐにプレーヤーとレコードを用意してくれた。
レコードはクラシックばかりだったけど。
というよりはこの時代、レコードってクラシック音楽が主流だったんだよね。
後は歌謡曲や演歌しかなかった。
アイドルが出てくるのはまだ先みたい。
アニメなんか影も形も無い。
僕としても声がメインの曲なんかとりあえずは必要なかったので良かった。
しかし楽譜も読めない2歳児にいきなりクラシックって(笑)。
楽器についてもオモチャじゃなくて、何と本物の電子ピアノを買って貰えた。
初期型のシンセサイザーまではいかない、鍵盤を押すと音が出る程度のものだったけど、ちゃんとした楽器だ。
2歳児の指では本物の楽器演奏は力が弱すぎて無理だし。
その点、電子楽器は押すだけで音が出るから幼児にも使いやすい。
電子ピアノには簡単な楽譜付きの解説書がついていたので早速読んでみた。
音符とかある程度は覚えていた。
小学校の授業で習うんだよ。
前世を含めると80年以上前の知識が役に立つとは。
もちろん楽譜が読めることは両親には内緒だ。
それから僕は毎日クラシックのレコードを聴いては耳コピで鍵盤を叩いた。
2歳児が何やってんだとは思ったけど、ホンモノの音楽の天才児って3歳とか5歳とかでもうピアノを弾くらしいから、それほど不自然というわけでもない。
いや不自然ではあるけど(笑)。
見よう見まねでも一月もやっていれば形になってくる。
玩具みたいな電子ピアノでクラシック音楽モドキを演奏している僕を見た両親は面白がってレコードを次々に買ってくれた。
ちなみにオーケストラの演奏は僕にはまだ早いということで、買って貰えた大半のレコードは弦楽四重奏とかクラリネット協奏曲とかだったけど。
後はピアノ独奏の夜想曲とか。
基本はやっぱりピアノだよね。
実を言えばギターにも引かれるものがあったんだけど、弦を押さえて演奏とかまだ無理。
管楽器は息を吹き込むのが疲れるからパス。
どうしても鍵楽器になる。
僕は演奏にハマッた。
いやあ、前世では無縁だったんだけど。
読書に忙しくて楽器なんか弾いてる暇なかったからね。
それに、どうも僕の身体って前世より性能がいいみたい。
指が面白いくらい自由に動くんだよ。
幼いからかもしれないけど。
前世の僕は太っていて運動神経が鈍かったからなあ。
運動が苦手なのはもちろん細かい作業も駄目だった。
それでいてエンジニアやっていたんだから笑えるけど、僕の仕事はモロにコンピュータだったからね。
技術者の仕事も手作業から仕様書作ったりキーボード叩いたりに移行していた。
前世の事はもういい。
僕はレコードの曲を電子ピアノで何とか再現し、上手く行かないときは親に強請って子供向けの楽譜や教本を買って貰って確認したりしていた。
半年くらい過ぎて、僕の3歳の誕生日が来る頃には何とか一曲を通して弾けるくらいにはなっていた。
独学で。
僕、天才じゃない?
両親もそう思ったらしくて誕生日プレゼントはもうシンセサイザーと呼べそうな本格的な楽器だった。
「ギターも考えたんだけど、6歳児以上のものしかなくてな」
「スーちゃんはまだ指が小さいし、弦で指を切ったりすると困るでしょう」
いえ、弦楽器はまだ早いのは判ってますので。
しかし3歳でシンセサイザーは早すぎる気がするけど。
他の楽器よりはマシか。




