34.まだ出産してなかったのか
父親が看護師さんだかの人と一緒に来て、抱き上げられて病院のエレベーターに乗って着いたところは僕が出禁になったあの託児所と似たような部屋だった。
さすがに乳幼児はいなくて、僕くらいの歳から小学校入学前の子供が数人いた。
「専任のお世話係がいますので」
「よろしくお願いします」
それから父親はなぜか僕と視線を合わせて言った。
「がんばれ」
何を?
別にいいけど。
そして父親が行ってしまうと僕はぺたんと坐ったまま周りを見回した。
他の子供達はお互いに無関心で離れて坐っている。
人見知りかな。
好都合だ。
看護師? の人が話しかけてきた。
「スーちゃん?」
「うん」
「ママの赤ちゃんはまだ生まれてないの。
しばらくここで遊んでいてね」
「判った」
しまった。
意味がありそうな受け答えをしてしまった。
だが看護師? さんは疑問に思うことなく去った。
忙しすぎて気にならないのかも。
さて。
まだ出産してなかったのか。
だったら僕も会いたかったのに。
まあ、ただでさえ忙しい時に幼児を病室に連れて行くのもね。
泣いて騒がれたりしたら面倒だし。
何か病気を伝染したり伝染されたりするかもしれないし。
そういえば、前世では疫病大流行のせいでやたらと消毒や面会謝絶が流行ったけど、この時代はまだおおらかなのかな。
どうでもいいけど。
いきなりノートを出すのもどうかと思ったので、僕は本棚の方に行ってまだ読んでない絵本がないかどうか調べることにした。
おお、大長編のシリーズ絵本がある。
図書館だと古すぎて閉架書庫にあったから読めなかったんだよね。
しばらくは退屈しないで済みそうだ。
僕はカワウソの子供が親とはぐれて色々と冒険したりする絵本を読みふけるのだった。
面白い。
いや、僕の精神は死ぬ前よりは若返っているとは思うけど、それでも自覚する限りでは中年くらいだと思う。
つまり「おじさん」だ。
精神が肉体に影響されるというのは本当で、転生してからしばらくは後期高齢者だったけど、いつの間にか若返って? いた。
具体的には一人称が「俺」から「僕」になったりして。
ちなみに「私」を使うと女性化しそうだったので敢えて避けた。
というわけで、今の状況はおじさんが幼児向け絵本を読んでいることになるんだけど、大人の視点で読むと色々判ってくることがある。
何というか物語のダイジェストを読まされているような?
シノプシスといった方がいいか。
ストーリーの要所だけを描いて、場面から場面への遷移をばっさり省略している。
何か既視感があると思って考えたら判った。
紙芝居だ。
前世の僕の子供の頃にはまだかろうじてプロの紙芝居屋が残っていたんだよね。
公園とかでやっていた。
前世の僕の晩年でも幼稚園とかではやっていたみたいで、図書館で借りられたような。
なるほど。
幼児の場合、ストーリーを流れとして理解するのが難しいのかもしれない。
印象に残った場面の連続として理解するとか。
デジタルじゃないか。
進んでいる?
僕が夢中になって絵本を読んでいると話しかけられた。
「スーちゃん?」
見上げると看護師の制服? を着た女性だった。
まだ若そう。
2歳児が何言ってるのか。
「うん」
「お母さんに会えるよ」
「わかった」
こっちの希望は聞いてくれないらしい。
当然か。
僕は絵本をそのままにして看護師さんに連れられて部屋を出た。
看護師さんはなぜか積んである絵本を見て顔を引き攣らせていたけど。
2歳児らしくなかったか。




