33.だって僕、肉体的には女の子だし
えみちゃんが説明してくれたところによると、母親が入院したのはかなり大規模な産婦人科の病院なのだそうだ。
そこで出産するお母さんには既に子供がいる場合が多いらしい。
核家族化が進んで、母親の出産のために家に残される子供の世話をしてくれる親戚なんかがいない家庭も多いということで、その病院では母親が入院中に就学前の幼児を預かるサービスを始めたという。
なるほど。
つまり病院の一部が託児所になっていて、父親が朝見舞いがてら子供を連れて行って帰りに連れて帰ると。
いいサービスだなあ。
多分、その分の料金も取っているんだろう。
「それでいいか?」
聞かれたので頷く。
前の託児所からは出禁を食らったけど、1週間くらいだったら僕も保育士側も耐えられるはず。
母親が退院したら関係なくなるしね。
「よし」
父親が簡単に言って決まってしまった。
さてどうするか。
その病院の託児所の環境が判らないから暗号文の記述は止めといた方がいいな。
ノートくらいは持っていくか。
僕は部屋に戻って母親に買って貰った女の子向けのピンク色の肩掛けバッグにノートや鉛筆を詰め込んだ。
最初は抵抗あったけど慣れてしまった。
だって僕、肉体的には女の子だし。
これって性同一性障害になるんだろうか。
僕、自分の精神というか自我は露骨に男なんだよね。
前世の個性が強すぎて女性的な要素がまったくない。
でも身体は女性だからなあ。
今はまだほとんど気にならないけど、将来はどうなるんだろう。
生理とか始まったらさすがに無視は出来なくなるだろうし。
まあ、先のことだ。
えみちゃんが帰って行くと父親がしばらく相手をしてくれた。
珍しい。
この時代の父親って夜遅くまで働いていて、幼児とは物理的に接触がないのが普通なんだけど。
仕事はいいの?
でも聞くのもおかしいから黙っていたら何か言い訳を始めた。
「お母さんに赤ちゃんが出来て仕事辞めただろ。
その分、俺が稼がないといけなくてな。
スーにも寂しい思いをさせるが」
いや、全然。
僕、精神年齢で言えば父親よりかなり上だから。
気にしなくてもいいよ。
「大丈夫」
「そうか。
でも何かあったら言うんだぞ」
「うん」
何もないと思うけど。
次の日の朝、なぜかえみちゃんが来てくれて僕のお出かけ準備を手伝ってくれた。
お風呂に入って朝ご飯を食べて歯を磨いてから外出用の服を着せられる。
父親はまったく役に立たなかった。
「明日からはロクさんがやるんですよ」
「そうか。
すまない」
「メモ作っておきましたから」
なるほど。
僕のお出かけに何が必要なのかすら父親には判らないと。
今までそんなことは一切やってこなかったんだから仕方がないけど。
でもそんなんで僕、大丈夫なのかな。
不安に思っているとえみちゃんが僕に言った。
「今夜も様子見に来るし、明日からもしばらくは夜に見に来るから」
「うん」
助かった。
父親は変な顔していたけど。
えみちゃんが僕に対等に話しかけたのが意外だったみたい。
それはそうだよ。
僕、まだ2歳児だし。
家の前でえみちゃんと別れる。
それから僕は父親に連れられて母親が入院しているという病院に行った。
病院は僕の家から電車で十分くらいの駅が近い場所だった。
駅前からタクシーで数分。
小高い丘の上に建っているその病院はひどく大きかった。
凄くない?
僕が幼児だからそう思うのかも。
父親が手続きしている間、僕はエントランスの椅子に座って待った。
朝から人が多いな。




