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新人たれ~転生者はヒキニートを目指す~  作者: 笛伊豆
第三章 2歳児

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31.よく飽きないな

 それで思い出したけど今世ではコンピュータやネットがまだないんだからワープロもキーボードもないんだよね。

 当然検索機能もない。

 それどころか電子辞書すらないとすれば、判らない用語や文字は辞書や漢和辞典とかで調べるしかないのか。

 衝撃。

 不便なんてもんじゃないぞ?

 例えばプロジェクト計画書を作るにしても、全部手書きで間違えたら消してやり直すとか。

 そういえば僕が前世でサラリーマン二なりたてだった頃にはそれが当たり前だった。

 何をするにももの凄い時間と手間がかかったっけ。

 参ったなあ。

 でもどうしようも無い。

 僕は届いた練習帳のマス目に一字一字ひらがなを書くのだった。

 「う」とか書くだけでも大変だった。

 手が思うように動かないのですぐに枠をはみ出してしまう。

 ひらがなを何十回も続けて書くのって虚しいというか何というか。

 普通の幼児はみんなこれやっているのか。

 よく飽きないな。

 ていうか、だから学校で強制的にやらせるんだろうな。

 だってこんなの、幼児が自発的にやるわけがない。

 僕だから字の練習の先にある未来が判っているけど、普通の幼児にはまるで無意味な労苦にしか思えないだろうし。

 それでもみんな頑張って字を書くことを覚えると。

 この時代は字が書けないと人生詰む。

 前世での僕の晩年では、若者は文章や字の手描きどころかキーボードすら使わなくなっていたもんね。

 全部画面タッチで。

 あれはあれで面倒くさい。

 僕も高齢者とはいえスマホ使っていたけどキーボードの方が使いやすかった。

 というか最後までスマホ入力には慣れなかったなあ。

 そんなことを考えながら毎日字を書く練習をする。

 そればっかりやっていたら一月くらいで何とか文章を書けるようになった。

 前世より字が上手いくらいだ。

 キーボードに慣れてしまうと手書きが極端に下手になるんだよ。

 そもそもちょっと難しい漢字を書けなくなる。

 書き順どころか文字の形すら思い出せなくて。

 ワープロは偉大だった。

 練習帳が何十冊も溜まった頃には細かい文字も書けるようになっていたんだけど、さてヒキニート計画(プロジェクト)の企画を立てようとして気がついた。

 いくら何でもこの歳でそんなものを書くのは拙くない?

 ていうか計画書なんか親に見られたらどうなることか。

 間違いなく天才、いや神童(ギフテッド)にしても異常すぎてどこかの研究所に送られそうだ。

 2歳児には人権なんかないし、どこかに隠してもすぐに見つけられるだろうし。

 困った。

 僕は今でこそ異常な天才並の知能があるように見えるんだけど、僕自身は凡人だ。

 別に頭がいいわけでも天才的なひらめきとか才能があるわけでもない。

 単に前世の知識と意識があるだけだ。

 ここで天才児として祭り上げられたりしたら大人になった時に絶対に詰む。

 だから人生も最初から凡人枠で行くのが望ましい。

 数日考えた結果、書いた物が人に読めなければいいのではないかと思いついた。

 つまり暗号化だ。

 それに、よくよく考えたらプロジェクト計画書と違って人に見せたり理解して貰ったりする必要はない。

 自分にさえ判ればいいんだとしたら、文章じゃ無くて単語の羅列とか、いっそ略語でもいいんじゃない?

 だとしても日本語で書くのは拙い。

 2歳児が意味の通る文章を書くだけでも異常だからね。

 増して複雑な概念が使われていたり計画書の形になっていたりしたら、やはり詰む。

 とすれば人工言語か。

 宇宙人の象形文字みたいなのを開発すればいいのでは。

 子供の頃は、そういう遊びをする人もいそうだ。

 訳の判らない記号が並んでいるだけのノートがあっても不思議には思われない、よね?

 若干の不安はあるけどとりあえずそれで行く事にする。

 いつの間にか冬になって、母親のお腹が膨れ上がって動くのもきつそうになってきたので、僕はなるべく迷惑を掛けないように自分の部屋に閉じこもって過ごした。

 なぜか猫が側に来て丸くなっていた。

 寒いのかもしれない。

 人工言語の開発は順調だった。

 実を言えばひらがなと一対一で対応する記号を五十音順に並べた表を作っただけなんだけど。

 前世の知識だけど、暗号は基本的にコードとサイファーに分けられる。

 このうちサイファーは文字を単位として操作する物で、僕が使ったのは置換式という奴だ。

 つまり「あ」を○、「い」を▲みたいな記号に置き換えるわけ。

 換字表がないと意味不明の記号の羅列にしか見えない。

 それからよく使う単語、例えば「ヒキニート」なんかを意味する記号も決めた。

 これも一応は表にしたけど、使っているうちに覚えるから後で表を廃棄してしまえばいい。

 こういうの、男の子は好きだよね?

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