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新人たれ~転生者はヒキニートを目指す~  作者: 笛伊豆
第三章 2歳児

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30.でも僕は引かない

 そろそろ秋かな、と思うようになった頃、母親が僕に宣言した。

「スーちゃん、もう図書館に行けなくなった」

 僕は頷いた。

 お腹が膨れ上がっていて、僕ですら自転車に乗るのはヤバそうだと思っているくらいで。

 増して2歳児を乗せてなんて無理。

 むしろよく今までもったというか。

「わかった」

「それで、どうする?

 スーちゃんの弟か妹が生まれてもしばらくは図書館に行けないと思うけど」

「いい」

 どっちにしても幼児/子供向けの本では情報収集に限界が見えてきたところだ。

 この段階ではもう十分かもしれない。

「画用紙」

「え?」

「ノートとえんぴつ」

 母親は目を丸くしたかと思うと笑った。

「なるほど!

 いくらでも用意するわよ」

 そう、そろそろ僕のヒキニート人生計画の企画を立てる時だ。

 とはいえ、今のところは原型(プロトタイプ)というか青写真だけど。

 こういうのは無計画に始めても行き詰まるだけだ。

 僕も前世ではサラリーマンで、しかもプロジェクト管理にも携わっていたから計画の重要性はよく判っている。

 ヒキニートへの道は険しい。

 普通にサラリーマンになるより遙かに困難を極めるはず。

 何せ働かずに生きていこうというんだから、どっかの会社に入って出世するより何十倍も難しいと思う。

 でも僕は引かない。

 前世で読んだ言葉に「苦労しないで済むためならどんな苦労も厭わない」という格言? があったけど、僕はそれを地で行く予定だ。

 母親は約束通りスケッチブックを買ってくれた。

 一度に十冊くらい、どんと置かれた時はビビッた。

 相変わらず豪快だな。

 僕の異常性をよく判っている。

 シャープペンシルやボールペンは色々危ないということで、鉛筆と消しゴムも貰った。

 クレヨンが欲しいかと聞かれたので断った。

 代わりに48色の色鉛筆が来た。

 やり過ぎだよ(泣)。

 僕は芸術方面に走るつもりはない。

 それで生きていくなんて無理でしょ。

 でもお金にならないアートに人生を費やすってヒキニートに通じるものはある気がする。

 暇になったら絵を描いてみようか。

 ひょっとしたらもの凄い芸術的な才能があるかもしれないし。

 音楽も捨てがたいけど、前世で見聞きしたところでは楽器の演奏って長時間の基礎練習が不可欠らしい。

 部屋に引きこもってギターばっかり弾いている主人公のアニメがあった気がする。

 何分、前世の事なんでほとんど覚えていないけど。

 それよりはまず計画だ。

 僕は早速、床にスケッチブックを広げて鉛筆を持った。

 そしてまず表題を。

 ……書けなかった(泣)。

 そもそも鉛筆を上手く握れない。

 どうやって持つんだったっけ?

 手が小さすぎて鉛筆が滑って落ちてしまう。

 色々試して、握りこぶしで何とか鉛筆を持つことは出来たけど字なんか書けなかった。

 当たり前だ。

 そうか。

 字を書くのにも練習がいるんだ。

 そこでやっと思い出したんだけど、幼稚園や小学校の低学年では練習帳のマス目にひらがなを書く練習をしたような。

 いや、僕自身の記憶じゃ無くて、何かのドラマだかドキュメンタリーだかで見たような覚えがあるんだけど。

 つまり、幼児はそういう練習をしなければ文章どころか字ひとつ書けないわけか。

 それはそうかもしれない。

 だって大人になっても美しい字を書くための講座とかあるわけだし。

 まあ、僕は普通の幼児と違って文字自体は知っているから、後は指や手のコントロールだけか。

 僕は早速母親に訴えた。

 練習帳を買って下さい。

「あらあら、もう字を書くの?」

 母親はむしろ驚いていた。

 スケッチブックやノートまで買い与えておいて今更だけど。

 それとなく聞いてみたら落書きするものだと思っていたらしい。

 それはそうだよ。

 普通の乳幼児だったら字を書く前にまず絵だよな。

「字を書けるようになる」

「はいはい」

 ということで、僕は母親に連れられて文房具屋さんに行った。

 この時代だとまだ現役だった。

 僕が前世で中年になる頃にはとっくに百均に侵略されていたけど。

 専門店はあったみたいだけど知らない。

 そもそも字を書く機会がほぼなかったからな。

 仕事も私生活も全部キーボードだった。

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