29.えみちゃんから引き継いだな
「今は本を読んでいるだけか?」
「図書館の本だから経費ゼロ。
えみちゃんの話だと、最初から自分で選んで読んでいたみたいよ。
漫画だけど」
えみちゃんから引き継いだな。
いいけど。
「図書館に漫画なんかあるのか」
「教育漫画ね。
『漫画世界の歴史』とか『漫画世界の偉人』とか」
僕も知らなかったけど、この時代でも歴史とか偉人伝とかが漫画になっていた。
ハードカバーだったけど。
小学生向けで。
大雑把なことしか書いてないけど僕には好都合だった。
偉人のことなんか詳しく知りたいわけでもないし。
「どっちにしても凄いな」
「まだ2歳だし。
保育園に行くようになったら誰かに相談しようかと思って」
「そうだな。
さくらは生まれてくる子供を気に掛けてくれ」
「そうする」
両親の仲は良好なようだ。
良かった。
僕の前世の両親って、別に仲が悪いわけじゃなかったけどお互いに無関心だったからなあ。
僕にも妹がいたけど、おかげで二人とも淡泊な性格になってしまった。
肉親の情に薄いのは前世から引き継いでいる性格かもしれないけど、環境のせいもあったんだろうな。
もっとも今となってはほぼ記憶に無かったりして。
やっぱり人間として何か欠陥があるのかも。
そういえば妹はどうなったんだろう。
僕が死んだ時点ではまだ生きていたと思うけど。
もう関係ないか。
ケーキを食べ終わった僕は満腹して子供部屋に引き上げるのだった。
猫がついてきて近くで丸くなった。
両親というよりは父親が苦手らしい。
あんまり家にいないから猫からみて他人と思われているような。
そのくせ猫好きなのか猫を見ると構ってくるので猫が嫌そうな顔で弄ばれているのを見かける。
だから見かけたら逃げているんだろう。
僕の方がマシだから。
ちなみに餌をくれる人として認識しているらしい母親には愛想がいい。
呼ばれたら寄っていくし。
僕が呼んでもこないくせに。
猫としてはかなり頭がいい方なのかも。
小説だったら実はケットシーとか猫又だった、という展開になりそうだけど、ここは現実だから猫は単なる猫でしかない。
今も丸くなって寝ている。
お腹いっぱいの僕も早々にベッドに潜り込むのだった。
2歳になっても生活に変化はなかった。
相変わらず図書館から借りてきた本を読んでいる。
でもそろそろ図書館の蔵書が尽きてきている、といっても子供向け教育漫画だけど。
仕方がないので今は子供向けの図鑑とか「はたらくくるま」みたいな啓蒙書? を読んでいる。
むしろこっちの方が2歳児にはお似合いだったりして。
ちなみに紙芝居も勧められたけど断った。
いや、図書館の蔵書にあるんだよ。
貸し出しもしている。
でもあれって大人が子供に見せるための資料だからね。
子供自身が読んでも面白くない。
むしろ母親の方が断ってくれた。
ちょっと想像出来ないよね。
あの母親が紙芝居を上演するなんて。
母親はだんだん大きくなっていくお腹を持て余しながらも家で色々やっている。
内職というよりはテレワーク?
まだコンピュータもネットもないから請負仕事かな。
僕を連れて図書館に行くのはいい運動になっているみたい。
雨が降ったら中止だけど。
妊娠中に幼児連れで自転車に乗るってあぶないのではないかと思ったが、世の中のお母さんはみんな平気でやっているようだ。
知らなかった。
大変だなあ。(ひとごと)
だんだん暖かくなってきたかと思うといきなり暑くなった。
春は一瞬ですぐに夏になってしまったみたい。
僕の部屋? にはエアコンがあって、だから快適というか、なかったら地獄かもしれない。
僕の家ってやっぱり裕福な方?
この時代のエアコンって贅沢品なのでは。
そんなことは関係なしに僕は図鑑とか写真集とかを借りてもらっては読み続けていた。
えみちゃんがいた頃と同じく、やたらに本を借りていく母娘として図書館員の間で有名になっていたりして。
母親のお腹が大きいので何かと便宜を払って貰えるようになった。
母親と図書館員の話によると、公共図書館には来館しなくても宅配便で本を借り出せるサービスがあるそうだ。
電話とかFAXとかで申請すると、送料図書館持ちで本を送って貰える。
でも返す時の送料は借りた人持ちらしい。
もちろん直接返しに行ってもいい。
これは、色々な理由で図書館に通えない人のための公共サービスなんだけど。
でも僕はまだ2歳だもんな。
それに借りる時はいいとしても返すことが出来ない。
駄目か。




