28.そうか、もう生まれてから2年か
でもここは別に剣と魔法の世界じゃないからなあ。
前世と同じような普通の世界だ。
少なくともこれまで調べたところでは魔法もドラゴンも亜人間もいない。
社会や科学技術は僕の前世でいうと僕が子供の頃と同じような段階だし。
この分では僕はごく平凡に成長して大人になることになる。
まだスマホどころか個人用のコンピュータもない世界だ。
かろうじて電卓はあるみたいだけど。
どこかでソロバンを見たような気がする。
未来の知識チートで色々出来そうだけど、もう働くのは真っ平だ。
でも働かないとお金を貰えないわけで、だったら今のうちから働かないでお金を得る方法を探す。
ということで図書館は欠かせない。
幸いにして母親の協力が得られるので、とりあえず図書館通いは続けられそうだ。
問題は母親が娘の異常行動を容認してくれるかどうかだけど。
乳幼児が小学生向けの教育漫画を読みふけっていたりしたら、やっぱり怖いよね?
その悩みはあっさり解消された。
母親は僕の行動に干渉しなかった。
図書館に連れて行ってくれて、僕が選んだ本をそのまま借りてくれる。
自分も図書カード作ってくれたので、一度に20冊を借りている。
でも母親も図書館の有用性に気づいたみたいで、胎教の本とかダイエットや美容体操などの本を借りるようになった。
その分、僕の本が減るけど文句は言えない。
母親の関心は一時的に生まれてくる僕の弟だか妹だかに向いていて、だから僕は必要最低限の世話以外はほっとかれている。
これ、小説だったら何かトラウマとか放置とかになりそうだけど、僕から見たら今までと同じだ。
基本ほっとかれていたもんね(笑)。
僕に近寄って来るのは気まぐれな猫だけで、しかもあまり干渉してこないから、僕は一歳児にしてボッチの道を順調に歩んでいる。
暖かくなってきて、図書館に行くのにもオーバーとか着ないで済むようになったかと思ったある日、夕食にケーキが出てきた。
珍しく父親もいて、親子3人で僕の二歳の誕生日が祝われた。
ケーキにちゃんとろうそくが2本立っていたりして。
そうか、もう生まれてから2年か。
おめでとうと言われたので曖昧に微笑んでおく。
まだ何も判ってないふりだ。
父親は何も疑ってないみたいだけど、母親は意味深に笑っていた。
やっぱり鋭いのでは。
僕が切り分けて貰ったケーキを食べていると両親が僕の頭越しに会話していた。
「つわりとか大丈夫か?」
「翡翠の時より楽みたい。
二回目だし」
「無理はするなよ。
翡翠の時は危なっかしかったぞ」
「それはもう。
でも出来るだけ動くつもりだから」
図書館通いは続けて欲しいけど、やっぱりある程度お腹が大きくなったら避けた方がいいよね。
でも僕、まだ2歳だからなあ。
一人で図書館行くのは無理だ。
それに自分では本を借りられない。
物理的に本棚の上の方の本に手が届かないし。
少なくとも母親の出産の前後数ヶ月は図書館絶ちになるのか。
ケーキをほおばってお茶を飲む。
紅茶だった。
ミルクは卒業だ!
両親はまだ会話を続けていた。
「翡翠はどうだ?」
「どうって。
本を読みまくっているわ」
「やっぱりおかしいんじゃないのか?
会社の連中に聞いてみたが2歳児って本なんか読まないらしいぞ」
それはそうだろうな。
下手すると5歳頃まで文章なんか理解出来ないのが普通なのでは。
「モーツァルトは3歳で楽器を弾いて5歳で作曲を始めたらしいわよ」
「それは神の子だからだろう。
翡翠はそんなんじゃない」
「判らないわよ」
こっちの世界にもモーツァルトがいたのか。
ていうかそんなエピソードは知らなかった。
ひょっとしたらモーツァルトも転生者だったのかも。
それで前世の知識で作曲したと。
「今のところ楽器を弾いたり作曲したりはしなさそうよ。
関心ないかも」
「それは良かった。
バイオリンをやりたいとか言い出されたら大変だぞ。
凄い金がかるらしい」
「なるべくそっちにいかないようにするから」
娘の才能を伸ばすとか思わないんだろうか。
でも気持ちは判る。
僕の前世の同僚も子供が美大とか音大に行ったせいで大変そうだった奴がいたものね。
アイススケートとかもだけど、普通のお稽古事とは桁違いにお金がかかると言っていた。
そういうアニメもあったっけ。




