2.退屈だ。
だんだん思い出してきたけど、私は若い頃ご多分に漏れず、ライトノベルを結構大量に読んだ覚えがある。
全部忘れたというか思い出せないが、小説では死んで転生した人はチート持っていたり異世界の貴族として生まれたりしていた。
ああいうのはゲームや願望、あるいは現実逃避なのは判る。
当時から思っていたのだが、転生して赤ん坊からやり直すストーリーだと大抵の場合、最初の数年がどうだったのかは書いてない場合が多い。
突然、7歳くらいから始まるわけで、そこに至る過程が省略されていた。
前世をはっきり思い出してチートで活躍するところからストーリーが始まっていて、成長する過程で何があったのかは判らない、というよりは記述になかった。
物語が動かないから省略したのかと思っていたけど、むしろ作者が想像出来ないから書けなかったのではないだろうか。
あるいは単調で地味過ぎて物語として面白くないからとか。
もちろん赤ん坊の頃から自意識があった小説も読んだ覚えがある。
でも乳幼児のくせに思考が大人なんだよね。
そうでないと小説にならないのは判るが。
実際にはああいう小説は間違っていなかったと思う。
私が実際に経験した所では、まだ身体や脳が完成していないから自分の状態を上手く認識出来ないんだよ。
例えば視覚情報は目から伝わってくるけど、その情報を脳が映像化出来ない。
耳や鼻や口からの情報も雑音だ。
神経系が未発達だから手足や自分の身体を操れないどころか存在すら認識出来ない。
だから私はずっと何もないところでただ存在していたような?
言わば蛹みたいな状態だったんだろうな。
でも感覚自体は伝わってくるので常に大音響に曝されていたし、痛かったり暑かったり冷たかったり得体の知れない不快感にずっと曝されていた。
赤ん坊が泣き続けるってそのせいだろう。
私もずっと泣いていたはずだ。
親はたまったもんじゃないなあ。
ごめんなさい。
今の親が誰か知らないが、とりあえず謝っておく。
そして今の私は何とか座ることが出来るところまで成長したわけか。
何ヶ月くらいなんだろう。
ちなみにまだ目がよく見えない。
手足の感覚も曖昧だ。
周囲から色々聞こえてきたり何かが触れたりしているけどよく判らん。
退屈だ。
そう思えるってことは、それだけ身体が安定してきたわけか。
思考もかなり複雑なことを考えられるようになってきている。
前世のことは断片的にしか思い出せないけど。
ていうか思い出せる方がおかしいのでは。
人の記憶って物理的に脳に蓄えられるんじゃなかったっけ?
ニューロンがどうとかで。
ひょっとしたら魂とでもいうものが存在するのかもしれない。
でもそれってやっぱり変なんだよね。
もし魂に記憶があるんだったら、すべての人間は前世持ちになってしまう。
でも私は前世でその前の人生のことなんか知らなかったぞ。
前世があると言っても曖昧だ。
自分の名前も思い出せない。
そのくせ目標管理制度とかフレックスタイムとかは覚えているんだから不思議だ。
サラリーマン根性が魂に染みついているのかも。
それを当たり前だと思うと同時に強烈な嫌悪感がある。
サラリーマンは嫌いだ。
会社なんか大嫌いだ。
いや、それを言い出したら学校も嫌いだった。
楽しい思い出はまったくないというか思い出せないのに嫌な記憶じゃなくて感情がいくらでも湧いてくる。
虐めって受けていたよな?
あるいは私の方が虐めをやっていたのかもしれないが、そっちはまったく何の思い出もない。
前世? で知ったんだけど、人間は自分がやったことについてはすぐ忘れるのに、やられたことはいつまでも覚えている生物なのだそうだ。
つまり虐めっ子は自分がやった虐めの記憶を忘却する。
というよりは虐めだとは思ってないとか。
逆に自分がやられたことについては詳細に記憶していて、いつまでも忘れない。
実によく判る。
でも転生してまで前世の恨みを引きずるのはなあ。
ていうか今の自分には関係ないのでは?




