26.お父さん、援護射撃ありがとう
頭が切れるえみちゃんは僕の一言で察してくれた。
早速母親に話したらしく、夕食の席で呆れたように言われた。
「図書館の本を読みたいのね」
「うん」
「私が借りてくればいいの?」
「自分で選ぶ」
一歳児がこれを言う異常さ。
でも母親もぶっとんでいるせいか平然としている。
えみちゃんから僕の異常性を嫌と言うほど教えられているのかも。
いや、その前に僕、託児所を追い出されているからな。
慣れた?
「いいんじゃないか?」
珍しく一緒に食事している父親が言った。
「専業主婦だと家に閉じこもりがちになるからな。
スーを連れて図書館に行けば」
お父さん、援護射撃ありがとう。
初めてATM以外の役に立った気がする。
いや、家族から観たら父親なんかそんなもんだよ。
僕も前世では(泣)。
「そうね。
確かに」
「君も専業主婦だけだと時間が余るんじゃないか?
この際趣味に走れば」
父親も酷い事言うな。
専業主婦の仕事を馬鹿にしているのでは。
「それもいいわね」
母親は動じなかった。
ていうかこの人、赤ちゃん抱えてフルタイムで働きながら主婦やっていたんだった。
もの凄く有能なのでは。
「家のことが手抜きになるかも」
「ゴミ屋敷にならないのならいいよ。
僕は手伝えないけど」
「言ったわね?」
不敵に笑う母親としまったという顔つきの父親。
「最悪、ホームヘルパー雇えば」
「了解」
力関係が判るなあ。
僕には関係ないけど。
僕は黙ってご飯を食べるのだった。
翌日から母親が家に居るようになった。
会社はどうするのかと思っていたら、あの話の時点で既に退職していたらしい。
決断と動きが速いな。
母親がますます偉大に見えてきた。
数日後、えみちゃんのバイト最後の日ということで送別会をやった。
母親とえみちゃんは成人なのでお酒を飲めるんだけど、僕がいるから麦茶で乾杯。
僕はミルクだ。
麦茶の方が良かった(泣)。
テーブルの上にご馳走が並んだ。
母親の手作りじゃなくてケータリングか何かだと思うけど。
「卒論は出した?」
「はい。
無事通りそうです。
通らなきゃ困るんですが」
えみちゃんが唐揚げをパクつきながら言った。
ここで卒論不可だったりしたら笑えるけど。
「出社は4月から?」
「ですね。
そういえば通勤用のスーツ買わないと」
「持ってないの?」
「リクルートスーツしかありません」
この世界でもリクルートと言うんだ。
聞いてないふりをしながらケーキを食べる。
乳幼児に甘い物はいけないということで、普段はこんなもの食べられないからここで食い溜めしておかなくては。
「そういえば卒業旅行とかするの?」
母親が聞いた。
この時代にもあるのか。
僕の前世では卒論出して試験が終わったら入社するまではお金がなくてずっとバイトしていた。
そうしないと引越費用もなかった。
卒業旅行とか天上の世界の話だと思っていた覚えがある。
でもえみちゃんは親が持っているマンションに住んでいるくらいだからお金持ちなんだろうな。
「ヨーロッパを回ろうかと」
「いいね。
最後だから思い切り遊んでくれば」
母親も平然と言った。
この人も富裕層の家庭で育った口か。




