25.えみちゃんが唯一の例外かもしれない
僕を託児所に預ける費用ってどれくらいだったんだろう。
えみちゃんのバイト代も知らないけど、どっちにしてもお金がかかりそうだ。
でもそんなの関係ないくらい、両親は稼いでいたりして。
お金持ちかな?
ひょっとしたら僕、大人になっても親のスネかじりでヒキニート出来るかもしれない。
いや、駄目だろうな。
そんなに甘い人たちではなさそうだ。
それに、どうも僕って乳幼児のくせに両親に甘えたり頼ったりしないせいもあって、逆に親から構って貰えていない。
僕としてはむしろ好都合なんだけど。
お互いにドライな関係だから、親としても育てる義務を果たしたら僕を放流しそうだ。
それに何となく感じているけど、僕の両親って親戚が極端に少ないか、あるいは交流がないんじゃないかと。
ひょっとしたら絶縁しているのかもしれない。
だって僕、物心ついてから親戚の人にほとんど会ったことないんだよ。
そういう集まりに行った事ないし、誰かが家に訪ねて来たこともなかった。
えみちゃんが唯一の例外かもしれない。
新生児なのに。
普通だったら両親の親が孫を構ってきそうじゃない?
僕の前世ではそうだった。
僕も孫やひ孫にはお年玉とかあげた覚えがある。
詳細はもう思い出せないけど。
でもそういう人達ばかりじゃ無いからね。
例えば駆け落ちでもして親から勘当されていたりしたら、それは親戚付き合いってなかろう。
それでも両親は一軒家を構えて普通に生活出来ているんだから大したものだ。
ちなみに僕の両親はまだ若いと思う。
この時代だと女性は二十代で結婚して子供を産むのが当たり前だ。
母親は専業主婦で。
でも僕の母親はフルタイム勤務のサラリーマンみたいなんだよね。
よくやっていけてるものだ。
そんなことを思いながら毎日を過ごしていると寒くなって冬が来た。
えみちゃんは僕の世話を最小限にしてリビングでテーブルに齧り付いている。
大量の本やレポート用紙が周りに散らばっているし。
卒論を書いているらしい。
この時代、まだパソコンもワープロもないから手書きだ。
あと数ヶ月でお別れか。
さすがに就職したら僕のベビーシッターとか出来ないだろうし。
図書館にも行けなくなるのか。
がっかりしていたら、ある日母親が朝ご飯の後で言った。
「来週からスーちゃんのお世話は私がやるから」
一歳児にそんなこと言ってどうしろと。
まあ、えみちゃんが来なくなるんだったら仕方がない。
でも仕事はどうするの?
「赤ちゃんが出来たの」
さいですか。
うーん。
いつの間に。
ていうか、有り得るか。
僕が住んでいるというか眠ったり遊んだりしているお部屋は狭いけど独立した子供部屋なんだよね。
両親は別の部屋で寝ている。
つまり僕が寝た後にヤッていたと。
全然気づかなかった。
防音がしっかりしていることもあるけど、むしろ関心がなかったからなあ。
前世で後期高齢者だった意識が強いし、今はマジで乳幼児なので性欲なんかゼロだ。
後でえみちゃんが話してくれたけど母親に二人目の子供が生まれることで、さすがにフルタイム勤務は難しくなるらしい。
なのでこの際、退職して専業主婦としてがんばろうということになったという。
ていうか今までが変だったんだよ。
確かに普通の乳幼児だったら一人で留守番とかさせられないよね。
一人目が僕だから何となったわけで。
その上にえみちゃんが来てくれなくなるんだったら、もう仕方が無い。
「そういうわけで、もうすぐバイバイだから」
「うん」
「最後に何かして欲しい事ある?」
えみちゃんは僕を何だと思っているのか。
神童だと認識してはいるけど、普通は一歳児にそんなこと言わないぞ。
だが言う。
「ある」
「何?
私に出来ることならやってあげるから」
言ったな。
「図書館」
「えーと。
あ、そういうことね」
察してくれた。
そう、えみちゃんがいなくなることで僕が被る最大の被害がそれだ。
図書館の本が読めなくなる。
何とかならないものか。




