21.いや一歳児に言うなよ
えみちゃんは大学で心理学を専攻しているそうだ。
おおっ、僕の前世と被ったりして。
で、ちょうど今専門の講義で神童について学んでいる最中だとか。
「スーちゃん、大丈夫?
付いてきてる?」
いや一歳児に言うなよ。
でも敢えて乗る。
「うん」
「ギフテッドって結果というか現象というか、別に基準や評価方法があるわけじゃないの。
それこそ千差万別で、現れた現象の総称としてそういう名前で呼んでいるだけ」
そうなのか。
つまりIQがどうとかで決まるものじゃないと。
「そう呼ばれたくない」
「だよね。
安心して。
このことはさくらさんにも秘密にするから」
やっぱり母親はサクラと言うらしい。
それっぽいことは聞いていたけど、母親の名前を初めてちゃんと確認したような気がする。
それはいいとして、えみちゃんは味方になってくれそうで助かった。
最悪、化物とか叫ばれて逃げられる可能性もあった。
お昼になってえみちゃんが用意したご飯を食べる。
まだ半分流動食みたいなものだけど、そういうテイクアウトというかプレートだった。
定期的に宅配で届くらしい。
ちなみにえみちゃんはコンビニのサンドイッチを食べていた。
無難だな。
念のためにトイレに行ってから出かける。
母親から僕を外に連れ出す許可は取ってあると言われた。
良かった。
例の子供用補助席付きの自転車でしばらく走ると大きな建物が近づいて来た。
ここって。
「市立図書館だよ。
本なら読み放題借り放題」
その手があったか!
何て有能なホームヘルパー、じゃなくてベビーシッターなんだ。
えみちゃんが自転車を駐輪場に置いてから僕を抱えて図書館へ。
しまったとか言っていた。
重いらしい。
受付のカウンターで僕の図書カードを作って貰った。
驚いた事に一歳児でもカードが作れるらしい。
利用者は市内在住、在勤、在学であればいい。
歳は関係ない。
もちろん僕は図書カードなんか使えないけど、保護者が代行して本を借りることはできるそうだ。
えみちゃんは既に自分の図書カードを持っていた。
市内在住でも在学でも在勤でもないけど、僕が住んでいる市と提携している自治体に住んでいるからという。
何でも僕のベビーシッターをすることに決めた時、暇な時間は図書館で過ごそうかと思っていたそうだ。
僕のシッターってバイトでしょ?
ちゃっかりしてるなあ。
まあいいけど。
首尾良くカードを作って貰った僕は早速本を選ぶことにした。
もちろん一般的な一歳児はそんなこと出来るわけがないので、えみちゃんに抱いて貰って書架を回る。
まず知りたいのは僕の前世との差だ。
そのためには歴史を知るのが一番。
とはいえいきなり歴史書だとか教科書は拙いから、小学生用の区画に行って探して貰ったらありました。
「漫画 日本の歴史」シリーズが。
それだって本当は一歳児が読むもんじゃないけど、保護者が読み聞かせたりするんだったらギリギリイケる?
えみちゃんは僕の希望に応じていきなり貸し出し限度の十冊を借りてくれた。
もの凄く後悔していたけど。
それは重いよ。
なのでえみちゃんは本人用の本は借りられなかった。
僕を抱えた上でバッグにハードカバー本を大量に詰め込んでえっちらおっちら自転車まで運ぶのはきつそうだった。
御免。
幸いにして自転車には補助席の他に籠もついていたので本を運べる。
「次からはバッグ持ってこないと」
次があるのは嬉しい。
真っ直ぐ家に帰るとえみちゃんはペットボトルのミネラルウォーターを出してくれた。
常温なのは乳幼児に冷たいものは禁止だからだろうな。
本人はお茶のペットボトルを飲んでいる。
部屋に戻るとえみちゃんが言った。
「私は今日はさくらさんが帰宅するまでいるけど、スーちゃんはどうする?」




